鬼ヶ島の英雄たち、再び
鬼退治から二年――。
かつて鬼ヶ島で死闘を繰り広げた仲間たちは、それぞれ自由気ままな生活を送っていた。
しかし、ドラキュラ討伐のため、桃太郎は再び彼らを集め始める。
……ただし、昔のように素直について来るほど、仲間たちも甘くはなかった。
今回も昔話ネタ多めでお送りします!
サルを仲間に加えた桃太郎一行は、そのまま山道を進んでいた。
先頭を歩くのは桃太郎。
その後ろを、荷物を抱えたウィリアム。
そして木の上を移動しながら付いてくるサル。
「しかし桃太郎さん」
サルが枝にぶら下がりながら声をかけた。
「本当にドラキュラなんて倒せるんですか?」
「鬼と似たようなもんだろ」
「いや絶対違いますって!」
サルは叫んだ。
「鬼はまだ分かりますよ!? でも吸血鬼って血を吸うんですよ!? しかも不死身とか聞きましたけど!?」
「だったら首を斬ればいい」
「脳筋!!」
ウィリアムは苦笑いした。
だが不思議と安心感もあった。
この男は、どんな化け物が相手でも怯まない。
それだけは分かる。
「次はキジでしたよね?」
「ああ」
桃太郎はニヤリと笑った。
「アイツは面倒だからな」
「え?」
「昔からプライドだけは高い」
「聞こえてますよ桃太郎さん」
上空から声が降ってきた。
バサァッ――!
一羽の巨大なキジが木の枝へ降り立つ。
青と緑の羽根は陽光を反射して美しく輝き、その姿は普通のキジとは比べ物にならないほど大きい。
しかも首には妙に派手なスカーフを巻いていた。
「久しぶりですね桃太郎さん」
「相変わらず無駄に派手だな」
「スター性と言ってください」
キジは羽を整えながら言った。
「最近、村娘たちの間で“美しい鳥ランキング”一位なんですよ」
「そんなランキング初めて聞いたぞ」
「あなたは時代遅れなんです」
キジはふふんと鼻を鳴らした。
しかし桃太郎は早速本題へ入る。
「ドラキュラ退治に行くぞ」
「嫌です」
即答だった。
「私、鬼ヶ島で懲りました」
「まだ根に持ってるのか」
「当たり前でしょう!?」
キジは羽を逆立てた。
「命懸けで鬼と戦った結果、私は何を得ました!? 羽毛が少し抜けただけですよ!?」
「名声は得ただろ」
「あなたが八割持っていったじゃないですか!」
確かに桃太郎の知名度は圧倒的だった。
犬やサルやキジも知られてはいるが、“お供”扱いである。
「もう私は平和に生きたいんです」
キジはため息をついた。
「最近は恋の相談役として人気なんですよ」
「何だそれ」
「恋愛マスター・キジ様です」
「胡散臭ぇ」
「失礼ですね!」
すると桃太郎は腕を組み、ニヤリと笑った。
「……いいのかなぁ」
「何がです?」
「鬼退治の真実を、かわら版に話しても」
キジの動きが止まった。
「鬼ヶ島でお前、ほとんど空飛んで逃げてたよな」
「なっ……!」
「“桃太郎一行の勇敢なキジ”の実態は、高空から実況してただけでしたってな」
「やめてください!!」
キジは真っ青になった。
「ち、違うんです! 私は偵察役だったんです!」
「戦闘中ずっと『頑張ってください皆さん!』って叫んでただけじゃねぇか」
「空から応援していたんです!」
「安全圏からな」
「ぐっ……!」
ウィリアムは何とも言えない顔になった。
どうやら桃太郎一行は、思っていたより生々しい。
「しかも鬼退治後の宴会で、お前だけ三日酔いで寝込んでた話も――」
「行きます!!」
キジは土下座する勢いで叫んだ。
「ドラキュラでも魔王でも行きますから!! だからイメージを壊さないでください!」
「よし決まりだ」
「この人、人の弱み握るの上手すぎません!?」
ウィリアムはついに口に出した。
するとサルが遠い目をした。
「今さら気づいたんですか」
「鬼より怖いですよこの人……」
だが桃太郎はどこ吹く風だった。
「残るは犬だけだな」
「犬はどういう奴なんです?」
ウィリアムが尋ねる。
するとサルとキジが同時に顔をしかめた。
「脳筋です」
「戦闘狂ですね」
「あと無駄に暑苦しい」
「でも強い」
桃太郎は笑った。
「あいつは鬼ヶ島でも一番前で戦ってた」
「犬だけ本物の英雄じゃないですか」
「否定はできません」
そして一行は山を越え、さらに深い森へ入っていった。
その森は妙に静かだった。
鳥の声もない。
空気が張り詰めている。
ウィリアムは思わず息を呑んだ。
「……何だか怖い森ですね」
「ああ」
桃太郎は平然としている。
「犬の縄張りだからな」
「え?」
その瞬間だった。
ガサッ――!
茂みから巨大な影が飛び出した。
「うわっ!?」
ウィリアムが尻餅をつく。
現れたのは、一匹の大きな白犬だった。
いや、普通の犬ではない。
体格は狼のように大きく、鋭い牙が覗いている。
さらに左頬には深い傷跡が走っていた。
「桃太郎の旦那ァ!!」
犬は勢いよく駆け寄る。
そしてそのまま桃太郎へ飛びついた。
ドゴォッ!!
衝撃で地面が揺れる。
「相変わらず重てぇ!」
「ガハハハ! 久しぶりですな!」
犬は豪快に笑った。
「……お前、なんか狼っぽくなってねぇか?」
「時代ですよ旦那」
犬はキラーンと歯を光らせた。
「これからは渋さが必要なんです!」
「渋さ?」
「映画化した時に人気出そうでしょう?」
キジが呆れた顔をした。
「お前もか」
「何を言う! 俺たちは世界進出を目指す集団だぞ!」
犬は胸を張る。
「海外人気を考えたらワイルド路線は必要だ!」
「意識高ぇな」
桃太郎は妙に納得していた。
「実は俺も今回かなり見た目を調整した」
「やっぱり!!」
犬が食いつく。
「前より色気増してますもん!」
「世界的に有名になる可能性があるからな。ゲーム化や人形化も視野に入れてる」
「さすが桃太郎の旦那!」
ウィリアムは頭を抱えた。
(この人たち、本当に世界を救う気あるんですか……?)
しかし犬は突然真面目な顔になる。
「で、敵は?」
「ドラキュラだ」
「ほう」
犬の目が鋭くなった。
「吸血鬼か」
「知ってるのか?」
「噂くらいは」
犬は牙を見せて笑った。
「面白そうじゃねぇか」
その瞬間、空気が変わった。
サルもキジも口を閉じる。
この犬は戦いを恐れていない。
むしろ歓迎している。
「久々に暴れられそうだなァ!!」
犬は地面を蹴った。
ドンッ!!
それだけで地面にヒビが入る。
ウィリアムは顔を引きつらせた。
「す、すごい……」
「鬼ヶ島で一番鬼を殴ってたのはコイツだからな」
「斬ってないんですか!?」
「途中から拳でいってた」
「怖っ!!」
犬は豪快に笑った。
「さあ旦那! 行きましょうぜ!」
「ああ」
桃太郎は仲間たちを見渡した。
サル。
キジ。
犬。
二年前、鬼ヶ島を共に戦った仲間たち。
今はそれぞれ変わってしまったが――。
それでも、並ぶと妙にしっくり来る。
「よし!」
桃太郎は腰の刀を鳴らした。
「これで桃太郎ファミリー勢揃いだ!」
「その言い方ダサくないですか?」
「うるせぇキジ」
ウィリアムはそんな彼らを見て、小さく笑った。
最初は不安だった。
だが今は少しだけ思う。
もしかしたら本当に――。
この人たちならドラキュラを倒せるかもしれない。
「では皆さん!」
ウィリアムは地図を広げた。
「まずは都へ向かいます! そこから堺の港へ行き、船で天竺へ! さらに天竺からトランシルバニアまで歩きます!」
「遠っ!?」
サルが叫ぶ。
「歩くんですか!?」
「船だけじゃ駄目なのか?」
「途中の海が危険なんです!」
キジは羽を震わせた。
「今から帰りたくなってきた……」
だが桃太郎は笑う。
「いいじゃねぇか」
夕陽を背に、彼は歩き出した。
「世界を見に行こうぜ」
その背中を追うように、仲間たちも歩き出す。
こうして――。
日本昔話最強のパーティーは、再び冒険へ旅立ったのだった。
第2話を読んでいただきありがとうございました!
今回は、サルに続いてキジと犬も登場し、ついに桃太郎一行が勢揃いしました。
それぞれ二年の間に妙な方向へ進化していますが、再び集まるとやはり“桃太郎パーティー”らしさが出てきた気がします。
特に今回は、
キジのイメージ戦略
犬のハリウッド志向
桃太郎の世界進出願望
など、「英雄たちのその後」をコミカルに描いてみました。
次回からはいよいよ旅が本格スタート。
都、堺、そして海外へ――。
日本昔話の英雄たちが、西洋の怪物相手にどんな騒動を巻き起こすのか、ぜひ楽しんでいただければ嬉しいです!




