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精霊の泉と桃太郎ハーレム地獄

 メデューサを失った悲しみを抱えながらも、少しずつ日常を取り戻していく桃太郎一行。


 ……のはずだったのですが、備前の家は今日も朝から大騒ぎです。


 桃太郎に猛烈アタックを仕掛ける雪女、相変わらず性格が危ない玉藻の前、犬を本気で潰そうとしているかぐや姫――。


 もはや童話なのかラブコメなのか怪談なのか分からなくなってきました。


 そんな中、ついにメデューサ復活への希望となる“精霊の泉”の情報が判明します。


 しかし、その泉には“純情な乙女が帰れなくなる”という、とんでもない伝説があり……?


 今回は久々の日常回寄り……と思いきや、後半から次の大騒動へのフラグもしっかり立っております。


 それでは第二十六話、

 『精霊の泉と桃太郎ハーレム地獄』

 お楽しみください!

 かぐや姫ともなんとか和解し、桃太郎一行はようやく穏やかな日常を取り戻していた。


 ……とはいえ、その“穏やか”の基準はかなり怪しい。


 朝。


 備前の桃太郎家では、まだ日も昇りきらぬうちから騒ぎが始まっていた。


「おい、桃太郎、早くわたしと交わらんか!」


「ぶっ!?」


 布団の中で寝ていた桃太郎は、耳元で飛び込んできた爆弾発言に飛び起きた。


 隣を見ると、いつの間に入り込んだのか、雪女が桃太郎の布団に潜り込んでいた。


 しかも距離が近い。


 近すぎる。


 雪女は白い着物を少しはだけさせながら、にやにや笑っている。


「ちょ、ちょっと待って! 朝だよ!? みんな起きてるって!」


「よいではないか。聞かせてやれば」


「聞かせるな!」


 桃太郎は慌てて布団を押さえる。


 だが雪女は面白がるように桃太郎の胸元へ手を伸ばした。


「ほれ、男というのはもっと堂々とするものじゃ」


「いやいやいや!」


「む、筋肉がよいな」


「感想言うな!」


 備前の朝は今日も騒がしい。


 しかも最近は毎日こんな感じだった。


 雪女はとにかく桃太郎を気に入ってしまっており、暇さえあれば抱きついてくるのである。


 その時だった。


 バァン!


 勢いよく障子戸が開いた。


「あんたたち朝から何やってるのよ!」


 そこに立っていたのは、腕を組んだかぐや姫だった。


 目が据わっている。


 完全に怒っている顔だ。


「なんじゃ、よいではないか」


 雪女はまったく悪びれない。


「かぐや姫とやら、妬いておるのか?」


「はぁ!? そ、そんなわけないでしょ!」


 かぐや姫は顔を赤くした。


「だいたいあんた少しは童話ってジャンル考えなさいよ! これ、子どもも読む作品なのよ!」


「子ども?」


 雪女は首を傾げる。


「なら教育上よいではないか。愛とは素晴らしいものじゃ」


「絶対違う!」


 かぐや姫は頭を抱えた。


 その様子を、居間でお茶を飲んでいた玉藻の前が楽しそうに見ている。


「玉藻の前もそう思うわよね?」


 かぐや姫は仲間を求めるように振り向く。


 しかし返ってきたのは予想外の言葉だった。


「わらわは別に構わぬぞ」


「えっ」


「むしろ、早く桃太郎が雪女に溺れ、堕落していく姿が見たい」


「うわぁ……」


 桃太郎が素で引いた。


 玉藻の前は扇子で口元を隠しながら妖艶に笑う。


「権力、女、欲望。男はそうして堕ちていくものじゃ」


「いや、俺を何だと思ってるんだ!」


「童話主人公」


「最後だけまとも!」


 だが中身はまったくまともではない。


 かぐや姫は深々とため息を吐いた。


「あんたたち、本当に歪んでるわ……」


 そしてゆっくり視線を動かす。


 その先にいたのは、サル、キジ、犬だった。


「そもそも、誰がこの二人を仲間にしようとか言い出したのよ」


 サルとキジは無言で犬を指差した。


「お前か」


「はい」


 犬はあっさり認めた。


「読者人気を考えまして」


「お前ほんとブレないわね……」


 かぐや姫はこめかみを押さえる。


 しかも犬には、まだ“前科”がある。


 月へ帰る時に、食べかけの骨を土産として渡した件である。


 かぐや姫は犬を見るたびに、その記憶を思い出していた。


「犬」


「はい」


「あんただけは、そのうち本当に潰す」


「最近、毎日言われてますねぇ」


「忘れるわけないでしょ!」


 かぐや姫の怒声が家に響く。


 犬はさっと桃太郎の後ろに隠れた。


「旦那、盾お願いします」


「お前、自分でなんとかしろ!」


 そんな騒がしい朝。


 しかしその空気の中でも、桃太郎の胸には消えないものがあった。


 ――メデューサ。


 戸棚の奥にしまわれた壺。


 その中には、砕かれたメデューサの破片が入っている。


 笑い声が響くこの家の中で、そこだけは静かなままだった。


 犬はその空気を察したのか、急に真面目な顔になる。


「……旦那」


「ん?」


「そろそろ、メデューサさんの復活方法、本気で探しませんか?」


 その瞬間。


 部屋の空気が少し変わった。


 桃太郎はゆっくり頷く。


「ああ……そうだな」


 そして戸棚を開け、壺を取り出した。


 壺を抱える桃太郎の顔は、どこか寂しそうだった。


 雪女がそれを見て首を傾げる。


「その娘、大切なのじゃな」


「……仲間だからな」


 桃太郎は短く答えた。


 玉藻の前も、珍しく真面目な顔になる。


「ふむ」


 雪女は壺を覗き込みながら言った。


「完全ではないが……方法が無いわけではないかもしれぬ」


「本当か!?」


 桃太郎が身を乗り出す。


「出羽の国に、“精霊の泉”と呼ばれる場所がある」


「精霊の泉?」


「うむ。そこに住む精霊は、不思議な力を持っておる」


 雪女は腕を組む。


「壊れた魂や肉体を癒やすとも聞いた」


「じゃあ!」


「ただし」


 雪女が真顔になる。


「問題もある」


「問題?」


「その精霊、かなりの好き者じゃ」


 一同が静まり返る。


「昔、“ふき姫”という娘が泉を訪れたそうじゃが……」


「うん」


「気に入られて帰れなくなった」


「怖っ」


「最終的にはフキノトウにされたらしい」


「何そのホラー!」


 サルが叫ぶ。


 キジも羽を震わせた。


「それ絶対ヤバい奴じゃないですか!」


「じゃから、純情な乙女が行くと危険なのじゃ」


 雪女は淡々と言った。


 その場に沈黙が落ちる。


 そして全員、女性陣を見る。


 かぐや姫。


 玉藻の前。


 雪女。


「…………」


「…………」


「…………」


 しばらく沈黙。


 そして桃太郎がぽつりと言った。


「……問題なくない?」


「なくない?」


 犬も頷く。


「純情な乙女、いませんね」


「誰が純情じゃないって!?」


 かぐや姫が即座に机を叩いた。


 だが玉藻の前は涼しい顔だ。


「わらわは千年以上生きておるしの」


「わたしも男を誘惑して凍らせてきたしな」


「お前ら自己申告やめろ!」


 桃太郎が頭を抱える。


 だが雪女はけろりとしていた。


「なら安全じゃ」


「基準がおかしいんだよ!」


 しかし、久しぶりに希望が見えたのも事実だった。


 メデューサを救えるかもしれない。


 その可能性だけで、桃太郎の目には力が戻っていた。


 犬が立ち上がる。


「よし! 次の目的地決定です!」


 サルも拳を上げた。


「出羽の国だー!」


 キジも羽を広げる。


「精霊の泉ですね!」


 玉藻の前は妖しく笑う。


「面白そうじゃ」


 雪女は桃太郎にぴったりくっつく。


「旅の夜も楽しみじゃのう」


「お前は離れろ!」


 かぐや姫は額を押さえた。


「……もうこの旅、本当に大丈夫なのかしら」


 誰も答えなかった。


 こうして桃太郎一行は、新たな希望を胸に、出羽の国へ向けて旅立つこととなる。


 精霊の泉。


 そこに待つのは救いか、それともさらなる騒動か。


 だが少なくとも――。


 桃太郎たちの旅は、まだ終わらないのであった。

挿絵(By みてみん)

 第二十六話を読んでいただきありがとうございました!


 今回は久々に「桃太郎一行の日常」をかなり濃いめに描いてみました。


 特に雪女は、仲間になってから一気に距離感がおかしくなり、桃太郎に対して遠慮ゼロになっています。

 対するかぐや姫は、完全にツッコミ役として苦労人ポジションへ……。


 そして玉藻の前は安定の“桃太郎堕落計画”継続中です。

 この妖狐、たぶん一番楽しそうに旅しています。


 一方で、ギャグだけでは終わらず、今回はメデューサ復活へ繋がるかもしれない重要な情報も登場しました。


 “精霊の泉”

 そして“純情な乙女が帰れなくなる”という不穏な伝説。


 ……まあ、現在の女性陣を見る限り、そこは大丈夫そうですが。


 次回からはいよいよ出羽の国編へ突入です。

 果たして精霊の泉は本当にメデューサを救えるのか。

 そして桃太郎一行は、またどんな騒動を巻き起こすのか。


 引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!

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