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かぐや姫と呪いのビデオ

 東国の旅を終え、玉藻の前と雪女という新たな仲間を加えて備前へ帰ってきた桃太郎一行。


 これでしばらくは平和な日々――と思いきや、なんと月へ帰ったはずのかぐや姫が再び地上へ戻ってきました。


 しかも今回は、月のお土産として“映像文化”まで持ち込んできます。


 しかし、犬がかぐや姫へ渡した“噛みかけの骨”の恨みは、どうやらまだ消えていない様子。


 そして居間で始まる、謎のビデオ鑑賞会――。


 今回はホラー映画風味でお送りする、桃太郎一行のドタバタ怪異編です。


 どうぞお楽しみください。

 玉藻の前、そして雪女という二人の新たな仲間を加えた桃太郎一行は、長い東国の旅を終え、ようやく備前の国へと戻ってきた。


 久しぶりに見る我が家。


 囲炉裏の煙。


 縁側。


 そしてどこか落ち着く田舎の風景に、桃太郎は思わず息を吐いた。


「いやぁ……やっぱ家は落ち着くなぁ」


「まったくだぜ」


 サルも大きく伸びをする。


 キジは羽を整えながら頷いた。


「遠野は寒すぎましたからねぇ」


 犬は荷物を降ろしながら満足そうに言う。


「しかし今回の旅も大成功でしたね! 新ヒロイン二名追加! 読者人気も安定間違いなし!」


「お前、旅の感想がそれだけかよ」


 桃太郎が呆れていると――。


「おかえり、桃太郎!」


 聞き覚えのある声が家の中から響いた。


「……え?」


 桃太郎が固まる。


 ゆっくり障子を開けると、そこには――。


「やっほー」


 居間でみかんを食べながらくつろぐ、かぐや姫の姿があった。


「な、なぜお前がここに!?」


 桃太郎が叫ぶ。


 かぐや姫はケロッとしていた。


「あー、お母さまにお願いして、もう一回地球に滞在する許可をもらったの」


「月ってそんなノリで戻って来れるの!?」


「割と」


 かぐや姫は平然としている。


「それにね、あの酸っぱい桃、コンポートにしたらめちゃくちゃ美味しかったのよ!」


「え、マジで?」


 桃太郎が驚く。


 するとサルの方を向き、かぐや姫が笑った。


「サル君の渋柿も最高だったわ! 干し柿にしたら甘くてびっくり!」


「え、えへへ……」


 サルが照れる。


 だが次の瞬間。


 かぐや姫の目がスゥッ……と細くなった。


「あと、犬」


「はい?」


「お前は絶対潰す」


「……」


 犬が無言で視線を逸らす。


 桃太郎は嫌な予感しかしなかった。


「犬よ……お前、何を渡した?」


「はい、噛みかけの骨です」


「なんでだよ!」


「犬にとっては宝物です」


「価値観のズレがひどい!」


 雪女が呆れたように呟く。


「こいつ、いつか刺されるタイプだね……」


 玉藻の前も扇子で口元を隠しながら笑った。


「わらわでも引くぞ」


 そんな騒がしい空気の中、かぐや姫が急に笑顔になった。


「そうだ! 今日はみんなにお土産があるの!」


「お土産?」


「月の様子を撮影した映像よ!」


 そう言って、かぐや姫は見慣れない機械を取り出した。


 四角い箱。


 ガラスの画面。


 さらにその下には別の機械。


「なんだこれ?」


「テレビとビデオデッキ!」


「未来だ!」


 桃太郎たちがざわつく。


 かぐや姫は得意げだった。


「月の科学力を甘く見ないことね!」


 そして一本のビデオテープを取り出す。


「これを見れば、月の生活が丸わかりよ!」


「おおー!」


 サルとキジが目を輝かせる。


 犬だけは少し嫌な顔をした。


「なんか嫌な予感するんですが……」


「気のせいよ!」


 かぐや姫はニコニコしている。


 だが妙に笑顔が胡散臭い。


「私たちはお茶してくるから、四人で見てて!」


 そう言うと、かぐや姫は玉藻の前と雪女を連れて台所へ向かった。


「では男ども、楽しむがよい」


「わらわは甘い団子でも食べておる」


「なんか絶対怪しいって……」


 犬が震える。


 だが既にテープは再生されていた。


 ザーッ……。


 画面にノイズが走る。


 やがて映像が映し出された。


「おい、月じゃなくて井戸が映ってるぞ」


 桃太郎が首を傾げる。


 古びた井戸。


 暗い森。


 不気味な空気。


「……旦那」


 犬の顔色が真っ青になる。


「これ、月の映像じゃありません」


「え?」


「かの有名な呪いのビデオです」


「は!?」


 その瞬間だった。


 画面の中の井戸から、白い着物の女がゆっくり這い出てきた。


 長い黒髪。


 顔を隠す前髪。


 異様に長い腕。


「うわぁぁぁ!!」


 サルが絶叫する。


 女はそのまま画面のこちら側へ向かって這ってくる。


「テレビから出て来るぞ!?」


「旦那、落ち着いてください!」


 犬が叫ぶ。


「サル兄! キジ兄! あれを!」


「おう!」


 サルとキジは戸棚から食器用ラップフィルムを取り出した。


 そして――。


 ぐるぐるぐるぐる!!


 テレビ画面をラップで巻き始める。


「なにやってんの!?」


「封印です!」


 白い女は画面から出ようとするが、ラップに阻まれてなかなか出られない。


 ぺちっ。


 ぺちぺちっ。


 なんかラップに顔が張り付いている。


「ちょっとシュールだな……」


 桃太郎が真顔になる。


 だが女も負けていなかった。


 バリィッ!!


 ラップを突き破り、顔だけ出てくる。


「ひぃぃぃ!!」


「まだ来る!」


 すると犬が懐から瓶を取り出した。


「旦那!」


「おう!」


 桃太郎たちは一斉に洗濯ばさみで鼻をつまむ。


 そして――。


 ドンッ!!


 白い女の目の前へ瓶を置いた。


「……?」


 瓶の中身は、くさやの干物。


 しかも極上物である。


 瞬間。


「お”ぇぇぇぇっ!!」


 白い女が絶叫した。


「くさっ!! なにこれ!? 臭っ!!」


 テレビの中で悶絶し始める。


「効いてるぞ!」


「さすが日本三大悪臭!」


 犬が興奮する。


 玉藻の前すら倒した最終兵器・くさや。


 その威力は呪霊相手にも絶大だった。


「や、やめ……無理……」


 白い女は上半身だけ出したまま、その場で失神した。


「今だ!」


 桃太郎が叫ぶ。


「キビ団子を食わせろ!」


 サルとキジが素早く団子を口へ押し込む。


 数分後。


 白い女はゆっくり目を開けた。


「あれ……?」


「落ち着いたか?」


 桃太郎が声をかける。


 白い女は周囲を見回し、深々と頭を下げた。


「ご迷惑をおかけしました……」


「呪い系なのに礼儀正しい!」


 しかも呪いが解けたことで、前髪の奥から美しい顔が現れていた。


「意外と美人さんだったんだな」


 桃太郎が言う。


 すると犬が得意げに頷く。


「この方、既にハリウッドデビュー済みの有名人ですぜ!」


「海外進出してたの!?」


「グローバルな時代ですから」


 白い着物の女は再び頭を下げた。


「それでは、私はこれで……」


 そう言うと、彼女はテレビの中へ戻っていった。


 ちょうどそのタイミングで――。


 ガラッ。


 かぐや姫たちが戻ってきた。


「あれー? みんな月の映像どうだった?」


 かぐや姫はニヤニヤしている。


 本来なら四人とも呪われて倒れている予定だったのだろう。


 だが現実は――。


 普通にお茶を飲んでいた。


「……」


 かぐや姫の笑顔が引きつる。


「ちっ、切り抜けやがったか……!」


「おい今なんて言った」


「なんでもないわ!」


 かぐや姫は即座に笑顔へ戻る。


 だがその目だけは笑っていなかった。


 特に――犬を見ている。


 犬はぶるっと震えた。


「ひっ……」


 月へ帰る際、噛みかけの骨を渡した男。


 その恨みは、まだ終わっていなかったのである。


 そしてその夜。


 犬は一人、布団の中で震えながら呟いた。


「おいら……生きて明日を迎えられますかね……」

 第25話を読んでいただき、ありがとうございました。


 今回は完全に“和風ホラー回”でした。


 ……のはずだったのですが、最終的にはラップフィルムとくさやで怪異を制圧するという、いつもの桃太郎ワールドになりました。


 特に、テレビから出ようとする貞子系怪異をラップで封印しようとする場面は、自分でも「何を書いているんだろう」と思いながら書いていました。


 また、かぐや姫も再登場しました。


 酸っぱい桃や渋柿を美味しく加工していた一方で、犬への恨みだけはしっかり継続しているあたり、非常に彼女らしいです。


 そして犬は、ついに“命の危機”を感じ始めました。


 たぶん今後もしばらく、赤い月を見るたびに震えると思います。


 さらに今回から、玉藻の前と雪女も本格的に桃太郎一行へ加わりました。


 クセの強いメンバーばかり増えていくので、今後さらに騒がしい旅になっていきそうです。


 次回もぜひよろしくお願いします。

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