雪山の押し競まんじゅう大作戦
かぐや姫が月へ帰り、再び男だらけになってしまった桃太郎一行。
新たな仲間を求めて東国を旅する彼らは、ついに下野の国で伝説の妖狐・玉藻の前を仲間にすることに成功しました。
そして今回の目的地は、吹雪と怪異の地――遠野。
相手は人間を一瞬で氷漬けにする恐怖の妖怪、雪女です。
しかし、普通に戦って勝てる相手ではありません。
そこで犬が考えた今回の作戦は――まさかの“押し競まんじゅう”。
果たして桃太郎一行は、雪女を仲間にできるのでしょうか?
いつも以上に暑苦しい冬の遠野編、どうぞお楽しみください。
しもつけの国で玉藻の前を仲間にした桃太郎一行は、次なる仲間――雪女を探すため、遠野の地へと足を踏み入れていた。
季節は冬。
遠野の山々は白銀に染まり、吹き荒れる風は肌を切るように冷たい。
吐く息は白く、歩くだけでも体力を奪われる過酷な土地だった。
「さ、寒い……」
サルが震えながら桃太郎の背中にしがみつく。
「おい、離れろ! 余計に歩きづらい!」
「だって寒いんだもん!」
キジも羽を膨らませながら文句を言った。
「こんな土地に住んでるとか、雪女って相当ヤバい奴では?」
「間違いなくヤバいですね」
犬が真顔で頷く。
「伝承によれば、雪女は吹雪の中に現れ、人間を一瞬で凍死させる妖怪です」
「おい、犬よ」
桃太郎が立ち止まった。
「それ、勝ち目なくね?」
「旦那」
犬はニヤリと笑う。
「この戦術の奇才が、何の対策もなく遠野まで来たと思いますか?」
「いや、お前、前回くさやで気絶してたじゃん」
「……」
一瞬だけ犬の動きが止まる。
「それは事故です」
「事故で済ませるな」
だが犬は咳払いすると、再び得意げな顔になった。
「しかし今回は完璧です。おいらがこの地に来た時点で、勝敗は決しているんですよ!」
「その自信、たまに不安になるんだよなぁ……」
桃太郎は頭を抱えた。
だが、これまで何だかんだで犬の作戦が成功しているのも事実である。
結局、一行は犬の案に乗ることにした。
その夜。
桃太郎一行は山奥にある古びた山小屋へと入っていた。
吹雪はどんどん強くなり、窓の外では風が唸り声のような音を立てている。
「本当に来るのか?」
「来ます」
犬は断言した。
「雪女は吹雪の夜、若い男がいる場所に現れる確率が高いそうです」
「なんだその妙に生々しい条件」
「昔話ってだいたいそんなもんです」
玉藻の前は囲炉裏の火に当たりながら笑った。
「しかし、わらわより人気がある妖怪とは面白くないのう」
「姐さん、張り合うところそこなんですか?」
「当然じゃ。ヒロイン戦争は既に始まっておる」
「怖っ」
そんな会話をしているうちに夜は更けていった。
そして――丑三つ時。
ギィィ……
山小屋の扉が、ゆっくりと開いた。
冷気が一気に流れ込む。
そこに立っていたのは、白い着物を纏った美しい女だった。
長い黒髪。
透き通るような白い肌。
だが、その瞳には人ではない冷たさが宿っている。
「……なんだ、お前たちは」
雪女は静かに呟いた。
「人間に、狐、猿、鳥、犬……変な組み合わせだね」
その瞬間。
ふぅっ――。
雪女が冷たい息を吐く。
次の瞬間、サル、キジ、犬、そして玉藻の前が一斉に凍り付いた。
「うおっ!?」
桃太郎が驚く。
氷漬けになった仲間たちは微動だにしない。
雪女は満足そうに頷いた。
「弱い奴らだね」
そして、ゆっくり桃太郎へ近づく。
「でも……」
雪女は桃太郎の顔を覗き込んだ。
「お前は悪くない」
「え?」
「若いし、顔も悪くない。胸元も開いてるし」
「そこ見る!?」
「こんな山奥で一人は寂しかったんだ」
雪女は桃太郎の頬を撫でた。
「お前、わたしの夫になる気はないかい?」
「えぇ……」
突然の求婚に桃太郎が困惑していると、雪女はさらに距離を詰めてくる。
「人間なんてすぐ死ぬ。でも、お前なら少しくらい長く遊べそうだ」
その吐息すら冷たい。
普通の男なら恐怖で動けなくなっていただろう。
だが――。
桃太郎は突然、雪女の腕をガシッと掴んだ。
「おい」
「……?」
「こっち来いよ。一緒に寝ようぜ」
「え?」
今度は雪女の方が固まった。
予想外だったのだ。
今まで出会った男たちは、みな恐怖で震えるだけだった。
なのに目の前の男は、妙に距離感が近い。
「な、なんだお前……」
「寒いんだろ?」
桃太郎は雪女をぐいっと抱き寄せた。
「人肌で温まろうぜ!」
「ち、近い近い近い!」
遠野の山奥で長年孤独だった雪女は、予想外の展開に完全にペースを乱されていた。
その瞬間。
「今だぁぁぁ!!」
桃太郎が叫ぶ。
バァン!!
山小屋の扉が勢いよく開いた。
「押し競まんじゅう開始ぃぃぃ!!」
犬が叫ぶ。
すると山小屋に大量の獣たちが雪崩れ込んできた。
熊。
鹿。
猪。
狐。
狸。
さらには玉藻の前、サル、キジまで一斉に突撃してくる。
「押し競まんじゅう押されて泣くな!」
「押し競まんじゅう押されて泣くな!」
獣たちが大合唱しながら雪女へ押し寄せた。
「ちょっ!? なにこれ!?」
雪女は押し潰される。
「暑い!!」
雪女が悲鳴を上げる。
狭い山小屋に大量の獣が密集したことで、とんでもない熱気が発生していた。
「毛が! 毛が暑い!」
「押せ押せー!」
「もっと密着しろー!」
「獣臭い! 臭いってば!」
雪女は必死にもがく。
しかし、獣たちは次々と押し寄せてくる。
冬の山小屋なのに湯気が立ち始めるほどだった。
犬が得意げに叫ぶ。
「雪女最大の弱点、それは暑さと密集空間!」
「なんだその攻略法!?」
「海外の読者受けも考えた結果です!」
「意味わかんない!」
雪女は完全に混乱していた。
しかも獣たちは汗だくで押し合い続けている。
「押し競まんじゅう押されて泣くな!」
「やめろぉぉぉ!!」
ついに雪女の顔が真っ赤になった。
ふらふらと目を回し始める。
「む、無理……暑い……」
そして――。
バタッ。
雪女はその場に倒れ込んだ。
「よし、今だ!」
桃太郎は素早くキビ団子を取り出す。
「食べさせろ!」
サルとキジが雪女の口へ団子を押し込んだ。
数分後。
雪女はゆっくり目を覚ました。
「……ここは?」
「よう、起きたか」
桃太郎が笑う。
雪女は周囲を見回した。
獣たちはぐったりしている。
玉藻の前は扇子で顔を仰いでいた。
「暑すぎじゃ……」
犬は満足げに頷く。
「完璧な作戦でしたね」
「いや、お前も汗だくだろ」
桃太郎が突っ込む。
雪女はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……変な奴ら」
「よく言われる」
「仕方ないね。ここまでされたら仲間になってやるよ」
「やったー!」
サルが飛び上がる。
キジも羽を広げた。
「これで新ヒロイン二人体制ですね!」
「お前まだ閲覧数の話してんのか」
桃太郎が呆れる。
その時、雪女が不思議そうに首を傾げた。
「でも最初に凍らせた奴ら、なんで平気なんだい?」
「あー、それな」
桃太郎が後ろを指差す。
そこには氷漬けになった木彫り人形が転がっていた。
「右甚五郎さんっていう名人に作ってもらった彫刻だ」
「……は?」
「最初から俺だけ囮だったんだよ」
雪女はしばらく無言になった。
そして呆れたように笑う。
「なんだそれ……」
こうして桃太郎一行は、新たに雪女を仲間に加えることに成功した。
玉藻の前と雪女。
新たな二人のヒロインを迎え、一行は再び備前へ戻ることとなる。
そして犬だけは、一人静かに頷いていた。
「これで閲覧数も安泰ですね……」
「お前は最後までそれか!」
第24話を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は雪女編でした。
普通なら「吹雪」「恐怖」「怪談」といったシリアス方向になりそうな題材ですが、この作品らしく、最終的には獣たちによる押し競まんじゅうで解決するという、とんでもない流れになりました。
個人的には、雪女が「暑い!」「獣臭い!」と悲鳴を上げる場面がお気に入りです。
また、玉藻の前に続き、新たなヒロインとして雪女も加入しました。
メデューサとかぐや姫がいなくなり寂しくなっていた一行ですが、再び騒がしい旅になっていきそうです。
そして犬は相変わらず“閲覧数”のことばかり考えています。
たぶん今後もずっと考えています。
次回からは、新ヒロイン二人を加えた新体制の桃太郎一行が動き出します。
果たして平和に旅ができるのか、それともさらにカオスになるのか――。
ぜひ次回もよろしくお願いします。




