精霊の泉と返品された三大問題児
雪女から聞かされた“精霊の泉”の存在。
そこには、壊れた魂や肉体を癒やす力を持つ精霊が住んでいると言われていました。
そして桃太郎たちは、ついにメデューサ復活の希望を胸に、出羽の国へ向かいます。
しかし、その泉の精霊には大きな問題がありました。
――とにかく女好き。
しかも今回は、かぐや姫、玉藻の前、雪女という、歴代でもトップクラスにクセの強い女性陣が同行しています。
……嫌な予感しかしません。
一方で、メデューサ復活というこの物語でも特に重要な出来事が描かれる回でもあります。
桃太郎たちの願いは届くのか。
そして精霊の泉で待ち受ける騒動とは――。
第二十七話、
『精霊の泉と返品された三大問題児』
どうぞお楽しみください!
備前を出立した桃太郎一行は、雪女から聞いた“精霊の泉”を目指し、出羽の国の深い山奥へと足を踏み入れていた。
空気は冷たく、森には霧が立ち込めている。
鳥の鳴き声すら聞こえず、木々の隙間から差し込む光だけがぼんやりと地面を照らしていた。
「なんか……雰囲気あるな」
桃太郎が辺りを見回す。
サルは少し怯えた顔をしていた。
「お、おいら、こういう静かな森ちょっと苦手です……」
「分かるわ。こういう場所って急に妖怪出そうよね」
かぐや姫も珍しく声を潜める。
だが雪女だけは平然としていた。
「この辺りは霊気が強いからの。精霊が住むには丁度よい」
「お前、妙に詳しいな」
「昔、噂だけは聞いたことがあるのじゃ」
玉藻の前も扇子を揺らしながら頷いた。
「好き者の精霊、と聞いておる」
「そこだけやたら有名なんだな……」
犬がぼそっと呟く。
そんな会話をしながら進んでいくと――。
突然、霧が晴れた。
そこには、まるで鏡のように透き通った泉が広がっていた。
木漏れ日を受け、水面が青白く輝いている。
幻想的だった。
「おお……」
キジが感嘆の声を漏らす。
桃太郎は静かに壺を抱き締めた。
この中には、砕かれたメデューサの破片が入っている。
ここまで来る間、一度たりとも手放さなかった壺だ。
桃太郎は泉の前へ進み出る。
「おい、精霊はおらぬか!」
その声が森に響く。
すると泉の水面がゆらりと揺れた。
次の瞬間。
水柱が立ち上がり、中から一人の美少年が姿を現した。
透き通るような白い肌。
水色の長い髪。
どこか中性的な顔立ち。
まさに“精霊”という言葉が似合う存在だった。
「なんじゃ、男ではないか」
第一声がそれだった。
「綺麗な女子とかおらんのか?」
「第一声それ!?」
かぐや姫が即ツッコミを入れる。
精霊はじろじろと女性陣を見る。
「おお……美女が三人もおるではないか」
「嫌な目つきね……」
かぐや姫が露骨に警戒する。
だが桃太郎は一歩前に出た。
「頼みがある!」
そして壺を見せる。
「この子を復活させてほしい!」
精霊は壺を覗き込む。
「ふむ……」
水の粒が壺の周囲を漂った。
しばらく観察したあと、精霊は腕を組む。
「肉体は戻せる」
「本当か!」
「ただし」
精霊は少し真面目な顔になった。
「魔眼の呪いそのものは完全には消せぬ」
「え?」
「怪物の姿には戻らぬようにはできる。人間の姿で固定することは可能じゃ」
一同が息を呑む。
「だが魔眼の力だけは残る」
「……それだけ?」
桃太郎は確認するように尋ねた。
「うむ」
すると桃太郎は即答した。
「それで十分だ!」
精霊が少し驚く。
「怪物の姿にならないなら、もう十分だよ!」
桃太郎は壺を強く抱き締めた。
「メデューサちゃんが普通に笑えるなら、それでいい!」
その言葉に、サルとキジも頷く。
「そうだよ!」
「また一緒に旅したいです!」
犬も珍しく真面目な顔だった。
「旦那、今回は完全に同意です」
精霊はしばらく桃太郎たちを見つめる。
そして、にやりと笑った。
「よかろう」
「本当か!」
「ただし条件がある」
嫌な予感がした。
精霊は女性陣を指差す。
「その美女三人を置いていけ」
「…………」
一瞬、空気が止まった。
かぐや姫が目を細める。
「は?」
玉藻の前が妖しく笑う。
「ほう?」
雪女は無言で冷気を漏らし始めた。
だが犬だけは目を輝かせた。
「旦那!」
「え?」
「これはむしろ渡りに船ですよ!」
「お前何言ってんの?」
犬は興奮気味に語り出す。
「メデューサさん復活で美少女枠は埋まります!」
「枠って言うな!」
「しかも、この三人を引き取ってくれるとか最高じゃないですか!」
「お前、最低だな!?」
だが桃太郎も少し考える。
かぐや姫は犬を潰そうとしているし。
玉藻の前は堕落させたがるし。
雪女は毎晩布団に入ってくる。
「……まあ」
「旦那?」
「この三人なら大丈夫な気もする」
「桃太郎ぉ?」
かぐや姫の声が低い。
怖い。
だが精霊はもう嬉しそうだった。
「契約成立じゃな!」
泉が光り始める。
壺がふわりと浮かび、水の光に包まれた。
そして――。
光の中から、一人の少女が現れる。
長い髪。
丸眼鏡。
優しそうな瞳。
「……あれ?」
メデューサだった。
しかも完全に人間の姿で。
「メデューサちゃん!」
桃太郎たちは一斉に駆け寄った。
「桃太郎さん……?」
メデューサは状況が分からずきょとんとしている。
だが桃太郎は涙目だった。
「生き返ったんだよ!」
「え……」
「もう怪物の姿にならなくていいんだ!」
メデューサは自分の手を見る。
鱗もない。
蛇の髪もない。
普通の女の子の手だった。
「わ、私……戻れたの?」
その瞬間。
メデューサの目から涙が溢れた。
「よかったぁ……」
桃太郎、サル、キジ、犬は一斉に抱き着く。
「うわぁぁん!」
「メデューサちゃーん!」
「お帰りなさい!」
「映画化決定です!」
「お前は黙れ!」
感動の再会だった。
一方その頃。
精霊は三人の問題児を前に固まっていた。
「ねえ」
かぐや姫が腕を組む。
「あんた、飲み物とかないの?」
「え?」
「あと甘い物」
「は、はい……」
玉藻の前が妖艶に笑う。
「わらわを満足させるには、まず権力を手に入れることじゃな」
「権力?」
「そして堕落するのじゃ」
「意味が分からぬ!」
雪女は精霊をじーっと見つめる。
「やはり桃太郎の方が男前じゃな」
「え」
「お前、なんかひょろいし」
「ひょろっ!?」
精霊の心が傷付いた。
しかも三人とも遠慮がない。
わがまま放題である。
精霊は次第にやつれていった。
三日後。
桃太郎たちが泉を出ようとしていた時だった。
「待ってくれぇぇぇ!」
精霊が泣きながら飛び出してきた。
目の下にクマができている。
「お願いじゃ! この三人を連れて帰ってくれ!」
「え?」
「無理じゃ! 怖い!」
精霊は本気で涙目だった。
「ふき姫みたいな初心な娘は可愛かった! でもこいつら無理!」
「誰がこいつらよ!」
かぐや姫が怒鳴る。
「毎日要求ばっかりじゃし!」
「当然でしょ!」
「堕落しろとか言うし!」
「男は堕落してこそじゃ」
「凍らせるとか脅してくるし!」
「お前が気に食わんからじゃ」
「理不尽!」
精霊は完全に心が折れていた。
桃太郎たちは顔を見合わせる。
「……連れて帰るか」
「ですね」
犬も頷いた。
こうして結局、かぐや姫、玉藻の前、雪女も再び仲間に戻ることになった。
帰り道。
メデューサは桃太郎の隣を歩いていた。
「桃太郎さん」
「ん?」
「助けてくれて……ありがとうございました」
その笑顔は、以前よりずっと穏やかだった。
桃太郎は少し照れ臭そうに笑う。
「仲間だからな!」
こうして桃太郎一行は、再び全員揃って備前への帰路につく。
だがこの時、誰も気づいていなかった。
――問題児が四人に増えたことを。
第二十七話を読んでいただきありがとうございました!
今回はついに、メデューサ復活回となりました。
ペルセウスとの戦いで砕かれ、壺の中で眠り続けていたメデューサが、ようやく再び仲間として帰ってきました。
しかも今回は“怪物の姿にならない”という、大きな救いも得ることができました。
もちろん魔眼の力は残っていますが、それでも以前よりずっと普通の女の子として生きていけるようになったのは、桃太郎たちにとっても大きな意味があったと思います。
一方で、精霊の泉編はかなりカオスでした。
最初は余裕たっぷりだった泉の精霊が、
かぐや姫、
玉藻の前、
雪女、
この三人に精神を破壊されていく流れは、作者自身かなり楽しく書けました。
特に雪女の「桃太郎の方が男前じゃな」は、精霊にとって致命傷だった気がします。
そして最後にさらっと書かれていますが、メデューサ復活によって“問題児が四人になった”という事実が、今後どう転がっていくのかも注目です。
次回からは、再び賑やかになった桃太郎一行の日常と、新たな騒動が始まっていきます。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!




