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22/24

桃太郎と金太郎と灼熱温泉大蛇退治

 西国を離れ、東国を目指して旅を続ける桃太郎一行。


 かぐや姫が月へ帰り、メデューサも失った今、一行の空気はどこか寂しいものになっていました。


 しかし――そんな彼らの前に現れたのは、足柄山の豪傑・金太郎。


 相変わらず前掛け一枚という圧倒的存在感で、桃太郎たちの精神にダメージを与えてきます。


 さらに足柄山では、女に化けた巨大な大蛇が動物たちを襲っているとのこと。


 果たして桃太郎一行は、金太郎と協力して大蛇を退治できるのか。


 そして今回も、犬の作戦はだいぶ変な方向へ向かいます。


 第22話、どうぞお楽しみください。

 東国へ向かう旅の途中――。


 桃太郎一行は箱根の山道へと差しかかっていた。


 西国とは違い、山々は深く、空気は冷たい。


 道の脇には湯気が立ち昇り、あちらこちらから硫黄の匂いが漂ってくる。


「うわぁ、なんかこの辺ずっと温泉臭いですね」


 キジが鼻をひくつかせる。


「箱根は温泉の名所だからな」


 犬が得意げに説明した。


「でも、いい感じじゃねぇか。旅館とかあったら泊まりたいな」


 サルが伸びをする。


 だが桃太郎は地図を見ながら歩き続けていた。


「寄り道してる場合じゃないだろ。玉藻の前と雪女を探すんだから――」


 その時だった。


「おい! 桃太郎じゃねぇか!」


 山の奥から、やたら声のでかい男の声が響いた。


 桃太郎一行が振り返る。


 そこに立っていたのは――。


 赤い前掛け一枚。


 巨大な斧。


 筋骨隆々の肉体。


 そして妙にキラキラした笑顔。


「……」


 桃太郎は無言で視線を逸らした。


 サルも逸らした。


 キジも逸らした。


 犬に至っては「知らない人ですねぇ」と呟いた。


「おい、なんで全員無視すんだよ!」


 男は猛ダッシュで駆け寄ってくる。


「桃太郎! 俺だよ俺! 金太郎!」


「いや、わかってるよ!」


 桃太郎は慌てて金太郎の首に腕を回し、小声で言った。


「お前なぁ! その格好どうにかならないのか!」


「え?」


「今どき前掛け一枚で山歩いてる奴、お前と子亡き爺くらいだぞ!」


「でもこの格好じゃないと金太郎ってわかってもらえないし!」


「そこを何とか工夫しろ!」


 桃太郎は本気で恥ずかしそうだった。


 しかし金太郎はまったく気にしていない。


 むしろ堂々としている。


「まあいいじゃねぇか! それより助けてくれよ!」


「助け?」


 その言葉に、一行の表情が変わった。


 金太郎は真剣な顔になる。


「最近、この足柄山に女に化けた大蛇が住み着いてるんだ」


「大蛇?」


「ああ。山の動物たちが次々襲われてる。熊の仲間も何匹かやられた」


 すると、後ろから熊や猿、鹿など、山の動物たちがぞろぞろ現れた。


「桃太郎さん、お願いします!」


「このままじゃ山に住めません!」


「夜になると怖いんです!」


 動物たちは口々に訴える。


 桃太郎は腕を組んだ。


「うーん……」


 正直、そこまで旨味のある依頼には思えない。


 だが犬が桃太郎の耳元で囁いた。


「旦那」


「何だ」


「金太郎コラボです」


「……」


「絶対読者喜びます」


「お前ほんとそういうことばっか考えてるな」


「当然です」


 桃太郎はため息をついた。


「……仕方ねぇ。協力するか」


「マジか! 助かるぜ!」


 金太郎は嬉しそうに桃太郎の背中を叩く。


 あまりの怪力に桃太郎が少し前につんのめった。


「痛ぇ!」


「悪ぃ悪ぃ!」


 こうして、桃太郎一行と金太郎による“大蛇退治”が始まった。


     ◆


 その夜。


 桃太郎一行はいつものように円になって作戦会議を開いていた。


「さて、どうする?」


「正面から戦うのは危険ですね」


 犬が地図を広げる。


「相手は巨大な蛇。締め付けられたら終わりです」


「じゃあ、また搦め手か?」


「もちろんです」


 犬はニヤリと笑った。


 翌日。


 大蛇の洞窟前。


『大蛇反対!』


『小動物を守れ!』


『自然を返せ!』


 そんな文字が書かれたプラカードを持ち、桃太郎一行は整列していた。


「……何してんだお前ら?」


 金太郎が真顔になる。


「抗議活動だ」


「妖怪相手に!?」


「時代は対話だからな」


「絶対違うだろ!」


 だがもう始まっていた。


 太鼓ドンドン。


 笛ピーヒャラ。


「大蛇反対ー!」


「自然を守れー!」


「動物いじめ反対ー!」


 さらに犬が音頭を取る。


「はい皆さん、声出していきましょう!」


「おおー!」


 夜通し大騒ぎだった。


 当然、大蛇が眠れるわけがない。


 翌日も。


 その翌日も。


 延々と続く。


 そして三日目――。


 洞窟が爆音とともに崩れた。


「うるさいのよアンタたちはぁぁぁ!!」


 巨大な大蛇が姿を現した。


 長大な胴体。


 真っ赤な瞳。


 山を覆うほどの巨体。


「出たぁ!」


 サルが叫ぶ。


「よし逃げるぞ!」


 桃太郎が即座に叫んだ。


「え!? 戦わねぇの!?」


 金太郎が驚く。


「いいから来い!」


 一行は全力疾走した。


 大蛇も激怒しながら追いかけてくる。


「待ちなさいよぉぉぉ!!」


 山道を駆け抜け、湯気立つ温泉地帯へ突入する。


「金太郎! 一番熱い温泉どこだ!」


「あっちだ!」


「よし!」


 一行は温泉へ飛び込んだ。


 だが目的は入浴ではない。


「今だ! 胴体にしがみつけ!」


「おう!」


 桃太郎、金太郎、サル、犬、さらに山の熊たちまで次々と大蛇へ飛びついた。


「な、何よこれ!?」


 大蛇が暴れる。


 だが全員で胴体を押さえ込むため、体を丸められない。


 そのまま――。


 ドボォォン!!


 灼熱温泉へ引きずり込まれた。


「あっつぅぅぅぅ!!」


 大蛇が絶叫する。


「はい、大蛇さん入ります!」


「喜んでー!!」


 一同が叫ぶ。


 なぜか接客業みたいな返事だった。


「いい湯だな♪ ハハハン♪」


 桃太郎たちは歌い始めた。


「ふざけんなぁぁ!」


「大蛇さん寒そうなのでかけ湯!」


「喜んでー!!」


 動物たちが桶で熱湯をかけまくる。


「熱い熱い熱い!!」


「湯冷めしないようしっかり浸かって!」


「やめてぇぇ!!」


 完全に地獄絵図だった。


 そして二十分後――。


 大蛇は完全にのぼせて白目を剥いた。


「今だ! キビ団子!」


 桃太郎が叫ぶ。


 犬が高速で団子を押し込む。


「むぐっ……」


 数分後。


 大蛇は人間の美女の姿へ戻っていた。


「……もう襲いません」


 ぐったりした顔で呟く。


「本当だな?」


「ええ……もう温泉見たくない……」


 完全にトラウマになっていた。


 動物たちは歓声を上げる。


「やったー!」


「助かったー!」


 金太郎も大喜びだった。


「ありがとう桃太郎!」


「まあな」


「今度困ったら絶対呼んでくれよ!」


「お、おう……」


 だが桃太郎一行の視線は、どうしても“前掛け”へ向いてしまう。


(絶対呼びたくねぇ……)


 一行全員の心が一致した瞬間だった。


 そして翌朝。


 桃太郎一行は足柄山を後にする。


「次はいよいよ武蔵の国ですね」


「玉藻の前の手がかり、あるといいな」


 犬が地図を見る。


 桃太郎は東の空を見上げた。


「待ってろ、メデューサちゃん」


 その胸には、まだ消えない想いがあった。


 こうして桃太郎一行は、新たな仲間と新たな出会いを求め、さらに東国への旅を続けるのであった。

 第22話を読んでいただきありがとうございました。


 今回は昔話界でも屈指の知名度を誇る“金太郎”との共演回でした。


 ただし、この作品に出てくる以上、普通の熱血ヒーローでは終わりません。


 桃太郎一行が真っ先に気にしたのが「前掛け姿の恥ずかしさ」という時点で、だいぶこの作品らしい空気になっていた気がします。


 また、大蛇退治も正面決戦ではなく、“抗議活動→温泉責め”という謎の流れになりました。


 もはや妖怪退治なのか嫌がらせなのか分かりませんが、桃太郎たちらしい戦い方ではあると思っています。


 そして物語はいよいよ東国編へ。


 次回以降、玉藻の前や雪女といった人気妖怪たちが本格的に登場していきます。


 メデューサを失った悲しみを抱えたまま進む桃太郎たちが、これからどんな出会いをするのか。


 引き続き楽しんでいただければ嬉しいです。

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