鏡よ鏡、この世で一番面倒な女は誰?
――白雪姫、毒リンゴ、魔法の鏡。
西洋童話の中でも屈指の知名度を誇る物語に、ついに桃太郎一行が殴り込みです。
しかも今回の相手は、ただの悪役ではありません。
「世界一美しい女」という、非常にデリケートで危険な問題が物語の中心にあります。
当然ながら、かぐや姫は黙っていません。
そして、桃太郎は空気を読みません。
さらに、メデューサは今回も無自覚に可愛いです。
果たして、桃太郎一行は“美女ランキング戦争”という最も厄介な争いを平和的に収めることができるのか――。
第16話、どうぞお楽しみください!
オオカミ男との騒動を終えた桃太郎一行は、さらに西へと進み、ついに白雪姫の住む国へとたどり着いた。
雪化粧をした山々に囲まれた美しい国だったが、城下町へ続く街道にはどこか重たい空気が漂っている。
「なんか暗いわねぇ。この国」
かぐや姫がつまらなそうに扇子を振る。
「確かに変ですね。市場も静かですし、人の顔色も悪い……」
キジが周囲を見回しながら呟いた。
そんな時だった。
街道脇の森から、わんわんと泣き声が聞こえてきた。
「おい、なんだ?」
桃太郎たちが森へ入ると、小さな家の前で七人の小人たちが棺桶を囲み、号泣していた。
しかも棺桶の中には、まるで眠っているような絶世の美女が横たわっている。
「うわ、美人!」
桃太郎は思わず声を上げた。
「桃太郎さん、まずそこですか……」
メデューサが呆れたようにため息をつく。
小人たちは涙を拭いながら事情を説明した。
「白雪姫様が……悪いお妃に毒リンゴを食べさせられて死んでしまったのです……」
「なんでも“世界で一番美しい女”が白雪姫に変わったのが気に入らなかったらしくて……」
「これはイケメン王子の口づけでしか目覚めないと言われているんです……」
「なるほどなぁ……」
桃太郎は真剣な顔で頷いた。
そして次の瞬間。
「よし! 都合よくイケメン王子が現れるとも思えん! ここは俺が代わりに――」
ぐいっと白雪姫へ顔を近づける。
「桃太郎さん♡」
背後から聞こえたメデューサの声は、妙に優しかった。
しかし振り返ると、彼女は魔眼殺しの眼鏡を半分外しかけており、蛇の髪がぴくぴく動いていた。
周囲の草花が石化し始めている。
「じょ、冗談! 冗談だから!」
桃太郎は全力で後退した。
「わたくし、ちょっと本気に聞こえましたけど?」
「いやいやいや!」
犬が慌てて間に入る。
「旦那は空気を和ませようとしただけですって!」
「そうだそうだ!」
「最低な和ませ方ですねぇ……」
メデューサはじと目だった。
するとその時――。
森の奥から白馬に乗った青年が現れた。
金髪碧眼、整った顔立ち、マントまで翻している。
どう見てもイケメン王子である。
「おお、本当に来た!」
桃太郎たちはびっくりした。
王子は白雪姫に近づくと、静かに口づけをした。
すると白雪姫の身体がふわりと光り、閉じていた瞳がゆっくり開く。
「……ここは?」
「白雪姫様ぁぁぁぁ!!」
小人たちは大号泣だった。
白雪姫は事情を説明し始める。
魔法の鏡が“世界で一番美しい女性”として自分の名を挙げたこと。
それを聞いたお妃が嫉妬し、毒リンゴで命を奪おうとしたこと。
「陰湿なババアね!」
かぐや姫が即座に怒った。
「でも安心なさい! このかぐや姫がこの国に来た以上、絶対的な一位はわたしだから!」
「いや、そこ張り合うところか?」
桃太郎が突っ込むが、もう遅い。
かぐや姫はずんずん城へ向かって歩き出した。
そして城へ乗り込むなり、玉座に座るお妃へ扇子を突きつける。
「おいオバサン! 逆恨みで白雪姫を殺そうとするんじゃないわよ!」
「誰がオバサンですって!?」
お妃も即座にブチ切れた。
「絶対的な美女はわたくしに決まっているでしょ!」
「はぁ!? 寝言は寝て言いなさい!」
「なんですってぇ!?」
一瞬で大喧嘩である。
「桃太郎さん……止めなくていいんですか?」
「いや、今入ると巻き込まれるタイプのやつだ……」
犬も頷いていた。
そしてお妃は魔法の鏡を呼び出した。
「鏡よ鏡! 世界で一番美しい女は誰!?」
鏡は沈黙した。
妙に気まずそうである。
「……一番美しいのは、白雪姫様でございます」
場が凍った。
かぐや姫もお妃も硬直している。
サルが小声で呟く。
「うわぁ……最悪の回答だ……」
キジも頷いた。
「空気って概念ないんですかね、この鏡……」
桃太郎は必死に場を繋ぐ。
「ま、まあ! アイドルの総選挙とかもそうだけど、実際は一位より二位の方が可愛いことあるし!」
「フォロー下手すぎません?」
犬が小声で突っ込んだ。
しかしもう引き返せない。
「じゃ、じゃあ二位を聞いてみよう!」
鏡は再び答える。
「二位は……そちらの眼鏡の女性でございます」
全員の視線がメデューサへ集中した。
「あらやだ……恥ずかしい……」
メデューサは頬を赤くして照れている。
一方。
かぐや姫とお妃の背後には黒いオーラが立ち昇っていた。
「……桃太郎さん」
「なんだ犬よ」
「これ、国際問題です」
「だよなぁ……」
桃太郎は頭を抱えた。
すると犬がサルを連れて鏡を別室へ連行する。
「おい鏡!」
サルが机を叩いた。
「お前、正直なのはいい! だが空気読め!」
「こちらも命懸けなんですよ!」
犬も必死だった。
「世の中には“優しい嘘”ってものがあるんです!」
さらに犬は小袋を鏡へそっと渡す。
中には金貨がぎっしりだった。
「……これは?」
「旅行資金の一部です」
「賄賂ではありません。“円滑な人間関係への投資”です」
鏡はしばらく沈黙した。
そして五分後。
再び大広間へ戻る。
「鏡よ鏡! 今もっとも輝いている美女は誰!?」
鏡は妙に営業スマイルみたいな声で答えた。
「今注目の若手東洋美女は、かぐや姫様」
「やだ~♡」
かぐや姫が即復活した。
「そしてミドル部門で最も気品あふれる美女は、お妃様でございます」
「まぁ!」
お妃もご満悦だった。
桃太郎は小声で犬に言う。
「お前ら、鏡に何した?」
「企業努力です」
「怖ぇよ……」
場はなんとか収まった。
その後、桃太郎は本題を切り出す。
「実はメデューサちゃんの呪いを解きたいんだけど、何か方法を知らないか?」
お妃はメデューサの名前を聞いた瞬間、顔色を変えた。
「メ……メデューサ!?」
ガタガタ震えている。
メデューサ本人は恐縮していた。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、本人謝る必要ないから!」
桃太郎が慌てる。
お妃は深呼吸し、震えながら答えた。
「……“金の斧、銀の斧”の伝承が残る泉があります」
「泉?」
「あそこの女神なら、人智を超えた呪いにも詳しいかもしれません」
桃太郎たちは顔を見合わせた。
「よし! 次の目的地は決まりだな!」
すると、かぐや姫とお妃はいつの間にか仲良くお茶を飲んでいた。
「このお菓子おいしいわね」
「でしょう?」
「その扇子も素敵じゃない」
「あなたのドレスも悪くないわ」
完全に意気投合している。
「……女って怖ぇな」
サルが震えた。
「でも気が合う相手とは一瞬で仲良くなるんですねぇ」
キジも感心している。
お妃は最後に地図と大量の旅費まで渡してくれた。
「お気をつけて。泉までは危険な山道ですわ」
「ありがとう、オバ……お妃様!」
かぐや姫がギリギリ言い直した。
こうして桃太郎一行は、新たな目的地――伝説の泉を目指して再び旅立つのであった。
第16話を読んでいただきありがとうございました!
今回は「白雪姫」をベースにしつつ、
・かぐや姫VSお妃の美女対決
・忖度する魔法の鏡
・無自覚に上位へ食い込むメデューサ
など、かなりカオス寄りのお話になりました。
特に今回書いていて楽しかったのは、魔法の鏡の立場です。
本当のことを言わないといけない。
でも正直すぎると場が崩壊する。
結果――
「若手部門」
「ミドル部門」
という苦し紛れのカテゴリ分けに逃げるという、社会性の高い鏡になりました。
また、今回はメデューサの存在感も少しずつ大きくなっています。
桃太郎を想う気持ち。
人間として生きたい願い。
そして、自分が“怪物”であることへの不安。
ギャグ中心の物語ではありますが、彼女の感情は今後の物語の軸にもなっていきます。
そして次回はいよいよ、
“金の斧、銀の斧”の伝説が残る泉へ。
果たして泉の女神は、メデューサの呪いを解くことができるのか――。
次回もよろしくお願いします!




