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満月の使用料

 白雪姫の城を目指し、西洋の深い森を進む桃太郎一行。

 しかし今回は、いつものように桃太郎と犬が作戦を考える流れではありませんでした。


「たまには私たちにも活躍させなさいよ!」


 そう言い出したのは、かぐや姫。

 さらにサルとキジも便乗し、まさかの“主役交代宣言”が飛び出します。


 そんな中、一行の前に現れたのは、満月の力で変身する恐怖の怪物――オオカミ男。


 ……のはずだったのですが。


 今回の戦いは、今まで以上にカオスで、今まで以上に理不尽です。


 月の姫 VS 月の力で強くなる男。

 勝負の行方を、ぜひ最後までお楽しみください!

 白雪姫の城を目指し、桃太郎一行は深い森の中を歩いていた。


 森は昼だというのに薄暗く、巨大な木々が空を覆い隠している。


 風が吹くたび、枝葉がざわざわと揺れ、不気味な音を立てていた。


「なんか嫌な森だな……」


 桃太郎は肩に担いだ刀を軽く叩きながら周囲を見回す。


 サルは桃太郎の肩に飛び乗り、キジは上空を警戒していた。


「旦那、いかにも“強敵が出てきそうな森”って感じですぜ」


「こういう場所って、大体あとでゲーム化すると“難関ステージ”扱いされるんだよな……」


 犬が妙に冷静な分析をしていると、隣ではかぐや姫が小さな銀色の板を耳に当てながら話し込んでいた。


「うん、そうなの。だからよろしくね。え? そんなに出力下げたら怒られる? 大丈夫大丈夫、ちょっとだけだから!」


「……」


 桃太郎たちは足を止める。


「おい、かぐや姫、誰と話してるんだ?」


「あ~、月にいるママと通信機で連絡取ってたの」


「月って進んでるな……」


 桃太郎は感心したように通信機を眺めた。


 板は薄く、表面が光っている。


 しかも、たまに小さく「ピコーン」と鳴る。


「なんか未来感あるな……。うちの村なんか、伝書鳩でも最新技術なのに……」


「まあ、地球はまだまだ田舎だからね!」


 かぐや姫は得意げに胸を張った。


「ところでここ、オオカミ男の縄張りなんでしょ? 今回は私とサル君、キジ君で対処するから、桃太郎と犬君は大人しく見てて!」


「え?」


 突然の宣言に桃太郎と犬は顔を見合わせた。


「いや、なんで?」


「最近、あんたたちばっかり目立ってるのよ!」


 かぐや姫は鉄扇をバシッと開いた。


「ドラキュラ退治も、酒呑童子退治も、毎回あんたたち中心じゃない! そろそろ私たちにも見せ場が必要なの!」


「確かに、俺も最近ツッコミ役ばかりだった気がします……」


 サルがしょんぼり言う。


「私もドライアイス係ばかりですからね……」


 キジも羽を落としていた。


「お前ら、そこ不満だったの?」


 桃太郎は驚いた。


「当たり前じゃないですか! 私はもっと“知的クール系参謀キャラ”で売り出したいんですよ!」


「俺だって“野性味あるワイルド系”として再ブレイクしたいんです!」


 サルとキジが熱く語り始める。


「旦那、どうします?」


「まあ……たまには任せてみるか」


 桃太郎は苦笑した。


 そんなやり取りをしていると――。


 森の奥から、低い笑い声が響いた。


「ククク……」


 空気が変わる。


 風が止まり、鳥の鳴き声も消えた。


 そして、木々の間から一人の男が姿を現す。


 黒い外套。


 鋭い目。


 異様に整った顔立ち。


 しかし、その口元には獣のような牙が覗いていた。


「お前らが桃太郎一行か……」


 男はゆっくり歩み寄る。


「この時を待っていたぞ」


「お前がオオカミ男か!」


 桃太郎が刀に手をかける。


 すると、かぐや姫が前に出た。


「待ちなさい桃太郎! 今回は私たちの担当よ!」


「お、おう……」


 桃太郎は若干押され気味に下がった。


 オオカミ男は満月を見上げ、不敵に笑う。


「今宵は満月……。俺の真の実力を見せてやる!」


「やってみなさいよ!」


 かぐや姫も負けじと前へ出る。


「真の実力、見せてごらんなさい!」


「旦那……」


「うん……」


 犬と桃太郎は顔を引きつらせた。


「今のセリフ、完全に負けフラグだよな……」


「バトル漫画なら三ページ後にボコられてるやつですぜ……」


 二人がヒソヒソ話している間に、オオカミ男は天に向かって両手を広げる。


「満月よ……俺に力を――」


 しかし。


「……あれ?」


 何も起きない。


「ん?」


 腕毛が少し濃くなった。


 以上。


「……」


「……」


 森に微妙な沈黙が流れる。


「あら?」


 かぐや姫が首を傾げた。


「ちょっと毛深くなっただけ?」


「な、なぜだ……!」


 オオカミ男は混乱していた。


「いつもならもっとこう……“ガオオオオ!”みたいになるのに!」


 実は先ほど、かぐや姫は通信機で月の母親に頼み、満月の光の出力を下げてもらっていたのである。


「月のエネルギー管理って大変なのよ?」


 かぐや姫は鼻を鳴らした。


「勝手に使われたら困るの」


「おのれぇぇぇぇ!」


 オオカミ男が怒る。


 しかし中途半端に毛深くなっただけなので、迫力があまりない。


「もう待ってられないわ! サル君! キジ君! 例のモノを!」


「了解!」


「準備してます!」


 二人は背負っていた袋から大量のガムテープを取り出した。


「おい、なんだそれ!?」


 オオカミ男が警戒する。


 だが、サルは素早く木に飛び移りながら、ペタペタとガムテープを貼っていく。


 キジも空から急降下し、背中や腕にテープを貼りまくった。


「やめろ! なにをする!」


「こうするためよ!」


 かぐや姫はニヤリと笑う。


 そして――。


 ベリィィィッ!!


「ぎゃああああああ!!」


 森に悲鳴が響いた。


「痛い! めちゃくちゃ痛い!!」


 中途半端に毛深くなっているせいで、ガムテープが恐ろしく効く。


「数十年前のメンズエステかこれはぁぁぁ!!」


「知らないわよそんなの!」


 ベリッ!


「ぎゃあああ!」


 ベリッ!


「痛い痛い痛い!」


 かぐや姫は容赦なく剥がしていく。


 しかも妙に楽しそうだった。


「私の故郷の月の力を勝手に使ってんじゃないわよ!」


 ベリッ!


「うわぁぁぁ!」


「使用料は体で払ってもらうわ!」


 ベリッ!


「もう許してくださいぃぃ!」


「かぐや姫さん、顔が悪役なんですよ……」


 サルが若干引いていた。


「旦那、止めます?」


「いや……今止めると俺まで巻き込まれそうだし……」


 桃太郎と犬は遠巻きに見守る。


 やがて、オオカミ男は涙目になって土下座した。


「もうしません! 満月パワー勝手に使いません!」


「本当でしょうね?」


「はいぃぃ!」


 すると、かぐや姫は最後に鉄扇を構えた。


「じゃあ、お仕置き終了!」


 ゴッ!!


「ぎゃふっ!」


 鉄扇がオオカミ男の頭に炸裂する。


 オオカミ男は巨大なたんこぶを作り、そのまま白目をむいて倒れた。


「……おい、かぐや姫」


 桃太郎が近づく。


「やり過ぎじゃない?」


「あんたたちが前回オオカミにやったローション作戦の方が問題よ!」


「いや、あれは平和的解決だから!」


「どこがよ!」


 ギャーギャー騒ぐ一行。


 すると、倒れていたオオカミ男がピクッと動いた。


「うぅ……」


「お、起きたぞ」


 犬が警戒する。


 しかしオオカミ男は涙目のまま、桃太郎たちを見上げた。


「もう……戦いません……」


 どうやら完全に心が折れたらしい。


 犬はそんなオオカミ男にそっとキビ団子を差し出した。


「はい、仲直りのキビ団子ですぜ」


「……いただきます」


 オオカミ男は素直に食べた。


「白雪姫の城なら、この森を抜けた先です……。案内しましょうか?」


「いや、そこまでしなくていい」


 桃太郎は苦笑した。


「とりあえず、もう人は襲うなよ?」


「はい……。あと、ガムテープも嫌いになりました……」


「まあ、それは仕方ないな……」


 桃太郎たちは少しだけ同情した。


 こうしてオオカミ男との騒動を終えた桃太郎一行は、再び白雪姫の城を目指して歩き始めるのであった。

 第15話、いかがでしたでしょうか。


 今回は「かぐや姫・サル・キジ回」を意識して書いてみました。

 ここまでの物語では、どうしても桃太郎と犬が作戦の中心になりがちだったため、「たまには他のメンバーにも暴れてもらおう」という流れになっています。


 そして犠牲になったのが、オオカミ男でした。


 本来なら“満月で覚醒する強敵”という、かなり王道で格好いいポジションのはずなのですが……。

 相手が悪かったですね。


 特にかぐや姫は、月に関するプライドが異常に高いので、「月の力を勝手に利用する奴」はかなり地雷だったようです。


 また、今回から少しずつ「西洋童話との本格的な接触」が増えてきています。

 次はいよいよ白雪姫サイドへ――。


 果たして桃太郎たちは、魔法の鏡からメデューサの呪いを解く方法を聞き出せるのか。

 そして白雪姫やお妃は、桃太郎一行にどう関わってくるのか。


 次回もぜひ、お楽しみください!

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