雪峠と六つの笠
再びトランシルバニアへ向かうため、雪降る峠を越える桃太郎一行。
しかし、そんな道中でサルがやらかします。
――なんと、お地蔵様へのお供え物を盗み食い!
当然、かぐや姫と犬からは大説教。
重たい空気になる一行でしたが、そこで桃太郎がある提案をします。
今回は、日本昔話『笠地蔵』を桃太郎ワールドで再構築!
笑いあり、ほっこりありの冬エピソードになっています。
第11話、ぜひお楽しみください!
都近くの峠――。
そこはすでに深い雪に閉ざされていた。
空からは絶え間なく白い雪が降り続き、山道は一面の銀世界となっている。
「さ、寒い……」
サルは肩を震わせながら歩いていた。
鼻の頭まで真っ赤だ。
「なんで冬の山って、こんなに寒いんですかね……」
「冬だからだろ」
桃太郎が即答する。
「もっと夢のある答えくださいよ!」
犬は鼻息を白くしながら周囲を警戒していた。
「旦那、この辺り、雪崩とか大丈夫ですかね?」
「知らん」
「適当!」
一方、かぐや姫は完全防寒だった。
毛皮の羽織。
ふわふわの襟巻き。
しかも移動中は犬の背中に寄りかかっている。
「寒いわぁ~」
「お前、一番暖かそうだけどな」
桃太郎が呆れる。
「月には冬なんてなかったもの」
「月って便利だな!」
メデューサは眼鏡を曇らせながら歩いていた。
「ふぇ……寒いです……」
蛇の髪だった頃は寒暖差に強かったが、人間姿では普通に寒いらしい。
そんな中――。
「あっ!」
突然サルが声を上げた。
「見てください!」
峠道の脇に、六体のお地蔵様が並んでいた。
その前には小さなお供え物。
しかも。
「まんじゅうだ!」
サルの目が輝く。
「やめろ」
桃太郎が即座に言った。
「絶対やめろ」
「いやいや、こんな雪山ですよ!? お地蔵様も食べないでしょ!」
「その理論は危険だぞ」
しかし。
グゥゥゥ……
サルの腹が鳴った。
「うっ……」
空腹は限界だった。
「一個だけ……一個だけなら……」
そして次の瞬間。
パクッ。
「あっ」
犬が固まる。
「食いやがった……」
サルは涙目だった。
「う、美味い……」
「最低」
かぐや姫が真顔で言う。
「サル君、本当に最低」
「か、かぐや姫さん……」
「お供え物盗み食いとか、あんた想像以上に小物ね」
「ぐはぁっ!」
サルに精神的ダメージ。
さらに犬が追撃する。
「だから昔話でもイメージ悪いんですよ兄貴!」
「やめてぇぇぇ!!」
サルは膝をついた。
「俺だって気にしてるんだよぉ!」
その時だった。
桃太郎が耳を澄ませる。
「……静かにしろ」
一行が黙る。
雪を踏む音が聞こえた。
「誰か来るぞ」
「ど、どうするんですか!?」
「サル」
「はい!?」
「手についてるあんこ、お地蔵様の口元につけろ」
「え?」
「早く!」
サルは慌てて、お地蔵様の口元にあんこをつけた。
「よし、全員茂みに隠れろ!」
一行は雪の茂みに飛び込む。
すると――。
一人の老人が現れた。
背中を丸めた、小柄なお爺さんだった。
「ほっほっ……今日はよう降るのう」
お爺さんは、お地蔵様を見上げる。
その頭には雪が積もっていた。
「ああ、冷たいじゃろうに」
お爺さんは背負っていた笠を一つずつ取り出す。
「売れ残りじゃが、使ってくだされ」
そう言って、一体ずつ丁寧に笠を被せていく。
一行は茂みの中から、その様子を見ていた。
やがて。
「……あっ」
最後の六体目で、笠が足りなくなった。
「しまったのう」
お爺さんは困った顔をした。
だが次の瞬間。
「これを使いなされ」
自分の笠を外し、お地蔵様に被せた。
「お、お爺さん……」
メデューサが胸を押さえる。
お爺さんは頭に雪を積もらせながら笑った。
「これでは婆さんに怒られるかなぁ」
寂しそうな声だった。
「笠が売れんかったから、餅も米も買えなんだ」
そのまま、お爺さんは雪道を帰っていった。
静寂。
そして。
「あーあ」
かぐや姫がサルを見る。
「サル君、本当にやっちゃったわね」
「うぅ……」
「お金ない中、お供えしてたおまんじゅうまで食べちゃって」
「やめて! 俺のライフもうゼロ!」
サルは雪に顔を埋めた。
空気が重くなる。
すると桃太郎が咳払いした。
「……まあ、過ぎたことは仕方ない」
「桃太郎さん……」
「それより」
桃太郎は笑う。
「俺たち、結構金持ちだろ?」
「まあ、鬼ヶ島の財宝ありますしね」
「だったらさ」
桃太郎は親指で町の方を指した。
「米とか餅とか買って、あのお爺さんの家の前に置いていかない?」
一瞬、空気が変わった。
「桃太郎さん……!」
メデューサの顔がぱぁっと明るくなる。
「素敵です!」
完全に目がハートだった。
すると犬が顎に手を当てる。
「ただ普通に渡すと、セレブの嫌味になるかもしれませんね」
「たしかに」
「ここは六人いますし」
犬はお地蔵様を見る。
「笠を借りて、お地蔵様が届けたことにしません?」
一同が静まる。
そして。
「犬よ」
桃太郎が肩を叩く。
「お前、頭良いな!」
「へへっ!」
その後、一行は町へ向かった。
吹雪の中、米、餅、味噌、野菜、魚――。
大量の食料を購入。
「これ全部運ぶの!?」
かぐや姫が絶叫する。
「お前も持て」
「姫に荷物持たせるとか最低!」
「今さら!?」
サルは米俵を抱えながら泣いていた。
「俺、まんじゅう一個食っただけなのに……!」
「因果応報だ兄貴!」
夜。
一行はお爺さんの家へ辿り着いた。
そして。
ドサッ!!
わざと大きな音を立てる。
「なんじゃ!?」
家の中から声。
一行は笠を深く被り、吹雪の中を歩き去った。
家の戸が開く。
「おじいさん!」
お婆さんが叫ぶ。
「あれを!」
吹雪の向こう。
六つの笠を被った人影が見える。
「ま、まさか……」
二人が玄関を見る。
そこには。
大量の米。
餅。
味噌。
正月料理の材料。
「お地蔵様じゃ……!」
お爺さんは涙を流した。
「笠のお礼をしてくださったんじゃ……!」
お婆さんも手を合わせる。
「ありがたや……ありがたや……」
その頃。
桃太郎一行は地蔵へ戻っていた。
「急げ急げ!」
サルが笠を戻す。
「バレたら雰囲気台無しだからな!」
「なんでこういう時だけ気を遣うのよ!」
かぐや姫が呆れる。
無事、六体のお地蔵様に笠を戻し終える。
すると。
「まったく」
かぐや姫がサルを睨む。
「あんたのせいで、結構働く羽目になったわ」
「す、すみません……」
「でも」
かぐや姫は少し笑った。
「まあ、あのお爺さんたちが喜んでるなら、悪くないけど」
桃太郎はその顔を見て笑う。
「なんだ、かぐや姫も良い奴じゃん」
「うるさい!」
かぐや姫はそっぽを向いた。
「桃太郎は本当にお爺さんお婆さんに甘いんだから!」
「あたり前だろ」
桃太郎は静かに答える。
「俺、お爺さんとお婆さんに育ててもらったんだから」
雪の中。
桃太郎の横顔はどこか優しかった。
メデューサはその顔を見つめ、また少し頬を赤くする。
「……やっぱり素敵」
「ん?」
「なんでもありません!」
こうして桃太郎一行は、再び堺の港を目指して歩き出した。
白い雪が静かに降り続く中――。
第11話を読んでいただきありがとうございました!
今回は『笠地蔵』をベースに、
桃太郎一行らしいドタバタ劇を混ぜ込んでみました。
特にサル。
もう「やらかし担当」が板についてきましたね(笑)
お供えのおまんじゅうを見つけた瞬間、
「あ、絶対食うなこれ」
と思った方も多いのではないでしょうか。
そして今回のテーマは、
「見返りを求めない優しさ」
でした。
桃太郎たちは正体を隠したまま、
お爺さん夫婦を助けます。
しかも、ちゃんと“お地蔵様のお礼”に見えるように演出までしているのが、この作品らしいところです。
犬の知恵者ポジションも、かなり安定してきました。
一方で、かぐや姫も少しずつ変化しています。
最初はワガママ放題だった彼女ですが、
最近はなんだかんだで桃太郎たちに付き合い、
最後にはちゃんと良い顔をするようになってきました。
……とはいえ、素直ではありませんが(笑)
そしてメデューサの好感度は、今回も順調に上昇中。
しかし桃太郎は安定の鈍感。
この辺りの関係性も、今後ゆるく進展していく予定です。
次回も、桃太郎一行の珍道中を楽しんでいただけたら嬉しいです!




