第7話 紫乃リリスのゲーム配信
「契約者ども~! 元気~!?」
『こんリリス~』『契約更新に来ました』
――紫乃リリスのチャンネル。
リリスは魔界から来た悪魔という設定のVTuberだ。
リスナーを「契約者」として扱い、ゲーム配信などのパフォーマンスで楽しませる。
リスナーたちも、リリスのそういった「設定」を受け入れて一緒に遊んでいた。
VTuberの独特な世界である。
「はい、というわけで、今夜もゲーム配信するわよ! 楽しんでいってね!」
『地獄へようこそ』『ここは指示厨が堕ちる地獄です』
「どういう意味よ!?」
ツッコミを入れながら、リリスはコントローラーを手に取った。
今夜のゲームは横スクロールのアクションゲーム。
――そして、今宵も地獄の扉が開かれる。
「んなーッ!! なんでクリアできないのよーッ!」
『そこジャンプだって』『二番目のブロックを叩くとアイテム出てくるよ』
「一斉に言わないで! わかんない!!」
紫乃リリスは、ゲームが壊滅的に下手であった。
リスナーに指示されても基本的に言うことを聞かない。
どんどん前に進んでいき、敵に突撃した結果、返り討ちにされてゲームオーバー。
それを繰り返し、リリスもリスナーも頭を抱えてしまう。
『もうやだ……』『助けて暗黒騎士……』
リスナーが泣き言を言い出した。
暗黒騎士――シュヴァルツほどのゲーマーがいてくれたら。
そのリスナーの呟いた希望を、リリスは聞き逃さない。
「あっ……! いい考えだわ、契約者!」
リリスの口元には笑みが浮かぶ。
起死回生の切り札は、やはりあの暗黒騎士だった。
「シュヴァルツさんにゲームを教えてもらいましょう!」
こうして、再びリリスに召喚されるシュヴァルツ。
彼(もしくは彼女)は、リリスのプレイしているゲーム画面をしげしげと見つめる。
「ふむ、このゲームか」
「シュヴァルツさん、詳しい?」
「RTA配信をしたことがある」
RTA。
「リアルタイムアタック」の略称である。
ゲームクリアまでの時間をリアルタイムで測り、その速さを競う競技だ。
『プロゲーマーか??』『本当に何者なんだよ、この暗黒騎士……』『救世主が来たかもしれない』
希望を抱いたリスナーたちは、リリスにゲーム攻略を教えるシュヴァルツに注目した。
こうして、暗黒騎士による悪魔娘へのゲーム指南が始まる。
「このステージは海に落ちるとゲームオーバーだ。このタイミングでジャンプすると浮舟に乗れる」
「よし! ジャンプ!!」
リリスの操作するキャラクターは、全速力でダッシュして海に落ちていった。
空気が凍りつき、コメント欄が絶句したように、一瞬動きが止まる。
「……」
「……」
シュヴァルツが言葉を失った。
リリスも気まずそうにしている。
「今、AボタンとBボタンを間違えたな。初歩的なミスだ」
「初歩すらできなくて悪かったわね!」
『ヤバい』『暗黒騎士もさじを投げてしまう』『見捨てないで』
拗ねたように頬を膨らませたリリス。
一触即発の空気か、とリスナーが身構えた。
シュヴァルツの対応次第では、炎上の危険もある。
しかし、暗黒騎士は冷静だった。
「大丈夫だ。まずはボタン操作に慣らしていこう」
リリスの握っているコントローラーを手に取り、一旦ステージを練習用のものに変える。
そして、リリスにAボタンでのジャンプと、Bボタンでのダッシュを練習してもらった。
「えっと……こっちがAで、こっちがB……」
「うむ。コントローラーを見ず、指の感覚だけでボタンを識別できるようになるのが目標だ。パソコンのタッチタイピングと同じで、慣れが必要だが、リリス殿にも必ずできる」
『やだ、この暗黒騎士やさしい……』『騎士様かっけぇ』
リリスが四苦八苦しながら、なんとかコントローラーを操作する。
やがて、AボタンとBボタンを覚えられるようになった。
「でも、なんか動きがもっさりしてない? このゲーム……」
「ふむ……失敗の原因がわかったかもしれない。少し貸してもらえるか」
リリスからコントローラーを預かり、一旦シュヴァルツがステージをひとつ攻略する。
リリスが使っていたのとは別人なのかと思うくらい、ゲームの中のキャラクターがキビキビとした動きでステージを突き進んだ。
あっという間にゴールに辿り着いたシュヴァルツに、リリスもリスナーも驚愕する。
「えっ……速っ……」
「ボタンを押したときに数秒遅延がある。それがクセのある操作感の原因だ」
『遅延がある状態であの速さ!?』『つよつよ騎士様だ……』『大会とか出たほうがいい』
リスナーの称賛の声が止まらない。
シュヴァルツはゲームの設定画面を開き、淡々と設定を直していった。
「これで遅延は解消されたはずだ」
暗黒騎士がテストプレイとして、ステージをもう一周する。
先程より、さらにキレのある動きでキャラクターが移動していった。
「……え、今のどうやったの!?」
「ジャンプしただけだが」
「うっそだぁ~……」
『このゲームで三角跳びとか初めて見たんだけど……』『やっぱ設定直すともっと強いじゃん』
こうして、コントローラーは再びリリスのもとに渡る。
彼女は緊張した面持ちでコントローラーを深く握った。
「さっきの練習を思い出せ。リリス殿ならできる」
「……うん!」
十字キーで前に進む。
岸辺で一旦止まって、浮舟が近寄ってくるタイミングを待った。
近寄ってきたら、ジャンプで飛び移る……。
「~~~……っ……で、できた……」
「ゲームできるようになると楽しいだろう」
「うんっ!」
リリスの目は、子どものように輝いていた。
『先生ありがとう』『教え方上手いな』『また暗黒騎士がミネルヴァを救った』
シュヴァルツがリリスにゲーム指導した回は、ファンの手によって切り抜き動画が作られ、拡散されたという。




