第2話 月日組の激突レーシング
「小日向ヒナタよ、今日こそ決着をつけてやるのじゃ!」
「ルナ、アンタにだけは絶対負けない!」
――『月日チャンネル』。
月城ルナと小日向ヒナタの共同チャンネルであり、二人の戦いの場でもある。
『またやってるw』『争え……争え……』『始まったな』
リスナーたちも二人を煽りながら、そのプロレスを眺めていた。
ふと、初心者リスナーがコメントを残す。
『初見です。この二人って仲悪いんですか?』
『そうだよ』『闇の魔女と光の魔法少女が仲良しなわけがない』『二人は因縁のライバルだよ』
古参リスナーが優しく教えてくれた。
もちろん、古参であればあるほど、ルナとヒナタが「ライバル営業」をしていることを知っている。
知っていて、あえて気づかないふりをする、リスナーの優しさ。
VTuberというのは、キャラ設定のみならず、関係性の設定においても、リスナーの了解の上に成り立っているのだ。
「というわけで、今日の対決はこれじゃ!」
ルナの掛け声とともに、画面に文字がデカデカと表示された。
【蹴落としあえ! ミスターまりもレーシング】
「ルール無用! アイテムを使って相手を攻撃もOK! むしろ相手をぶっ飛ばしたほうが盛り上がるのじゃ!」
「いいよ! やってやろうじゃん!」
『いいぞ~!』『やったれ~!』
闇の魔女と、光の魔法少女の世紀の対決。
リスナーの熱狂も最高潮である。
「ヒヒヒ……今日は勝ったも同然じゃ」
ルナはほくそ笑んだ。
彼女には秘策があるらしい。
「今回は絶対負けないから!」
ヒナタも負けじとコントローラーを握りしめる。
彼女にもなにか考えがある様子。
二人はそれぞれキャラクターと乗り物を選んだ。
「む……」
「あれ……?」
――二人とも、同じキャラに同じマシン。
怪訝な顔で睨み合う。
「おい、ヒナタ! 妾の真似をするでない!」
「なによ! 先に選んだのは私だもん!」
『喧嘩するの早い早いw』『どっちも同時だったよw』
仕方なく、二人とも同じものを選んだ状態でレースに挑むことにした。
カラーリングを変えたので、それぞれの区別はつくようになっている。
レーススタートのカウントダウンが始まった。
「3……2……」
「1……今!」
二人はスタート直前にアクセルを踏み込む。
スタートフラッグが翻り、マシンが一斉に走り出した。
「よし……!」
「スタートダッシュはどうにかなった……!」
ルナもヒナタもホッと息をつく。
ギロッとお互い睨み合いながらハンドルを切り、急カーブを曲がっていった。
二人はレースコースに並んでいるアイテムボックスに突っ込んでいく。
「うおー!! 食らえ! 爆弾!!」
「うわっ、危なっ!」
ルナが投げつける爆弾を、華麗なハンドルさばきで回避するヒナタ。
ヒナタはお返しとばかりにバナナの皮を仕掛けた。
「うわわわわわ!」
ルナもハンドルを操り、ギリギリでバナナの皮を躱していく。
「ちょ、ヒナタ! 危ないじゃろ!!」
「ルール無用って言ったのもアンタだし、最初に爆弾投げてきたのもアンタでしょ!?」
二人は横並びでカートをぶつけ合いながらコースを進んでいった。
途中、コースに柵がないポイントに差し掛かる。
通常、このコースを落下したら、大幅なタイムロスになるはずだが……。
「ここじゃー!!」
「いっけぇー!!」
なぜか、二人とも、コース外に向かって突き進んでいった。
『え、なに?』『仲良く心中か?』
リスナーが固唾をのんで見守る。
二人のマシンは、コースの外に飛び出し――。
「着地!」
「このコースを飛び出せば、ショートカットができる!」
二人はコースを落ちたかと思うと、真下から吹き上げる上昇気流にふわりと乗った。
二人の選んだマシンは、気流の影響を受けやすい、重量の軽い機体である。
そのまま、両方のマシンがコースに着地。
『今日レベル高くない?』『なんか二人とも動き違うw』『裏で練習した?』
違和感を抱くリスナー。
一方、ルナとヒナタはお互い顔を見合わせていた。
「……」
「……ルナさぁ」
二人が仲良くゴールしたあと、お互いに疑問をぶつけ合う。
「もしかしてだけど、アンタもシュヴァルツにゲーム教えてもらった?」
「なに? ヒナタもか?」
『二人とも上達したな。我との特訓の成果だ』
『!?!?!?』
突如、コメント欄にシュヴァルツが現れ、リスナーは混乱に陥った。
「あ、シュヴァルツ!?」
「ちょっと、これどういうこと!?」
『wwwww』『両方教えてたの!?w』『スパイじゃんw』
リスナーたちは大草原である。
ルナとヒナタはシュヴァルツに詰め寄った。
「妾だけを鍛えておると思っておったのじゃ!」
「私にも『誰にも言わない』って言ったじゃない!」
『? 誰にも言っていない』
シュヴァルツは事情の説明を始める。
『まず、ルナ殿に教えを乞われ、ショートカットのコツを教えた。続いてヒナタ殿も教えてほしいとのことだったので、二人に公平に教えた。相手には言っていない』
「そういう問題じゃなーい!」
『うーん、この暗黒騎士』『平等ではあるんだよなあ……』
シュヴァルツのやや天然で真面目な回答に、ルナもヒナタも呆れてしまった。
「アンタねえ……」
『ところで、今日も二人はスーパーに寄って帰るのだろうか』
「!?」
『仲良く買い物をしていて、とても良いと思う』
『おい暗黒騎士w』『ライバル営業バレちゃうw』
「ちょっとシュヴァルツ~!?」
「アンタ何言ってくれてんのよ、このブリキ!!」
ルナとヒナタの怒りのゲージが最高潮。
二人でうなずきあって、シュヴァルツに宣戦布告する。
「シュヴァルツ、今すぐゲームを起動するのじゃ!」
「私たち二人で、アンタをぶっ飛ばしてやる!」
『共闘イベント発生』『ライバル同士が手を取り合い、ボスに立ち向かう展開アツい』
『承知した。我はレースもできる暗黒騎士』
……結果、ルナもヒナタもシュヴァルツのドライビングテクニックに敗北するわけだが、それはまた別の話である。
「馬鹿な、そんなショートカットあるのじゃ!?」
「壁に当たる角度を調整すれば速度を維持できる」
「そこまで考えて走ってるの!?」
「あ、ヤバ、このバナナ避けられな――」
「ぎゃあああー!!」
シュヴァルツが巧妙な場所に仕掛けたバナナの皮に、二人の機体がクラッシュ。
CPUも抑えて、シュヴァルツがトップに立つのであった。
配信後。
「うう~、悔しいのじゃ~!」
「絶対あのブリキ、いつかゲームでぶっ飛ばす!」
「とりあえず今晩の夕飯どうするかのう」
「今日は卵が安いからオムライスにしよっか」
「たしか牛乳も切らしてたのう」
「事務所の傍にスーパーあって便利だよね」
「やはり、二人とも仲が良いな」
「うるさいブリキ」
「……なぜ、我は今怒られたのだ?」
シュヴァルツは状況を理解しておらず、キョトンとするのみである。




