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王の子供たち  作者: 真那川菜々


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第七話

 赤西はいつものように、警察署の定例会見の取材から、本社に帰ろうと電車に乗っていた。左手でつり革を掴みながら、スマートフォンで「王の帰還」に関する事件や、教団についての情報を、インターネットで調べる。

 なぜ赤西はこんなことをしているのか。その理由は遠藤の言っていた話を、個人の感情だけで否定するのは、もったいない気がしたからだ。

 それに黄瀬の件と自分の母の件は、どこかで繋がっているのではないか、という自分の直感を信じてみたい気持ちもある。自分や母が教団関係者なのではないか、と言われても信じたくない気持ちはあった。

 しかしそんな個人的な理由で、自分の直感を否定するのはまだ早いと思う。赤西は黄瀬の事故のことを知った時に、感じた違和感を胸に、スマートフォンの液晶を触った。

 遠藤から話を聞いてからの数日間、赤西は仕事の合間にインターネットを駆使して、教団の情報を集めることに。さすがに機密情報や個人情報に関わることは出てこなかったが、遠藤の言っていたことを裏付ける情報が出てきた。

 「王の帰還」の教祖が、名門国立大学の卒業生だったこと。そんな優秀な教祖と、優秀な経歴を持つ信者の女性の子供を、非常に多く作らせて、教団で育てる計画が実行されたこと。

 その教祖と子供たちを中心とした国家を作るために、日本国の転覆を企んでいたこと。中央省庁同時爆破事件は、国家転覆のための計画の一端だったこと。

 幸いにも、爆破事件の後に警察が、教団の一斉捜査に踏み切った。そのおかげで、教祖も幹部も逮捕され、これ以上の事件は起こらなかった。

 教祖は裁判で死刑となり、数年前に教祖の死刑が執行されたこと。逮捕された幹部もいれば、今も逃亡中の幹部もいて、裁判中で刑が確定していない、かつての教団幹部もいること。

 事件と教団のことだけではなく、教団の宗教としての特徴も調べた。教義によると教祖は、現世に降り立った宇宙の王であるらしい。

 宇宙の王はかつて森羅万象を支配していたころのように、信者たちの手で、世界の支配者に押し上げなければいけない……という名目で、家族や友人と縁を切らせたり、信者の所有する金品を教団に献上させたりしていたようだ。

 信者は男女関係なくおかっぱ頭に、まっすぐ切りそろえられた前髪の、独特な髪形を強制されるということ。食事の前には手を合わせながら、長々と決まった文言を大声で唱えなければいけないこと。他にもウェブサイトには、一般常識からすれば、変わった生活習慣がたくさん列挙されていた。

 「王の帰還」を改めて知っても、こんな宗教と自分の知る母が結びついているとは、到底思えなかった。赤西は髪型をおかっぱに強制されたことも、変な挨拶を食事前に強制されたこともない。自分の家庭環境が「王の帰還」の影響を受けていなかったことに、赤西は安堵した。

 だが信者は、家族や友人と縁を切っていたことが引っかかる。確かに母からは、家族や友人の話を聞いたことがない。もしかしたら母親は「王の帰還」に入信し、親族や友人との縁を切ったのだろうか。身の回りの人間と縁を切った後、教祖と子供を作ったのだろうか。自分が産まれた後、母が教団と縁を切ったのなら、なるほど母の身寄りがなかったのも頷ける。

 しかしこれは単なる、赤西の妄想でしかない。多くの死傷者を出した、恐ろしい事件を主導した人間が、自分の父親かもしれない、なんて考えるのもおぞましい。

 でもこの妄想を否定するのにも、肯定するのにも、自分は母を知らな過ぎた。今度遠藤に教団のことを、もっと聞いてみた方がいいだろうか。自分にはあまりにも情報がなさすぎる。赤西は無力感に苛まれていた。

 赤西がぼんやりと考えていたところに、本社の最寄り駅に到着する、とアナウンスが聞こえてきた。スマートフォンを鞄にしまい、電車のドアへと向かう。

 赤西は本社に向かいながら、黄瀬愛美の事故と教団との関連を、仕事のついでに調べるために、上司への言い訳を考えていた。

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