第五話
翌日赤西は、急いで無理やり仕事を終わらせ、定時でタイムカードを押して退勤した。駅に向かうと、夕焼けが辺りを赤く照らしている。
赤西がこれから向かうのは、赤西と母が住んでいた家があった街の警察署だ。赤西が現在住んでいるのは二十三区内だが、実家は二十三区外のとある市にあった。
目的地である警察署の建物までたどり着く頃には、陽も沈みかけている。赤西は警察署の建物の前で、とある人物と待ち合わせをしていた。
「京くん! こっちこっち!」
そう赤西に手を振りながら、明るい声で呼びかけてきたのは、歳は四十代程度の男性警察官だ。身なりはあまり気にしてないのか、軽く整えた程度の頭髪に、少しよれたスーツを着ている。
「お久しぶりです、遠藤さん」
赤西は、はにかみながら頭を下げて、遠藤に向き直る。遠藤は母の件を捜査していた警察官で、天涯孤独となってしまった赤西を、今でも気にかけてくれていた。
赤西の顔を見た遠藤は、顔を綻ばせて、こう赤西に尋ねた。
「元気そうで何よりだよ。新聞記者の仕事は、順調かい?」
赤西は昨日仕事を、半分以上放り出してしまったことを思い出し、乾いた笑いが出てしまう。遠藤はそれを見て、苦い笑いを浮かべるしかなかった。
「それで今日はどうしたんだい? 電話では込み入った話だ、と言っていたけれど……」
そして遠藤は一呼吸置いて、そう言って赤西をじっと見つめる。赤西は遠藤を信頼しているからこそ、単刀直入に話を切り出すことにした。
「実は、昨日の事故と俺の母親の事故、なんか繋がっている気がして……なんだか他人事だと思えないんです」
声を潜めて、遠藤だけに聞こえる距離で、そう囁く。遠藤が険しい顔をしているのを見て、赤西は遠藤にこの予感が否定されるのではないか、と不安に駆られた。遠藤は低い声で赤西に、こう尋ねた。
「どうしてそう思ったんだい?」
二つの出来事を結び付けて考えるなんて、普通の人なら考えないからだろう。赤西は深呼吸をしてから、遠藤へこう問いかける。
「黄瀬愛美は自殺するような人間でも、殺されるような恨みを持っていた人物でもない。現場は人が滅多に寄り付かない高所……俺の母の時と似ていると思いませんか?」
遠藤は真剣な顔をして、しばらく考え込んだ。
「着いてきなさい。家で話そう」
熟考の末遠藤は、周囲を見回すと赤西にそう言って、駐車場へ歩いて行った。赤西は一瞬何を言われたのかを認識できず、状況把握までに少しの時間を要した。
そして何が起きているのか理解した赤西は、急いで遠藤の後を追う。遠藤が今までに見たこともない険しい顔をしているのが、赤西にとって不安材料でしかなかった。




