第四話
赤西が本社に遅れて戻ってくると、自分の部署の同僚や先輩の視線が、痛いほど刺さる。朝に出て昼頃に会見が終わったはずなのに、夕方まで帰ってこなかったのだ。白い目で見られてもしょうがない。
上司からなんて言われるかな、なんて赤西が憂鬱になっていると、階段の方から赤西に近づいてくる人影がある。赤西が振り返るとそこには、芸能部門の先輩である片桐がいた。片桐と赤西は部署が違うから、今まで挨拶を交わしたことすらない。
「よお、黄瀬愛美の件、独断で嗅ぎまわっているんだって?」
煙草の匂いをさせながら、体格のいい中年の大男の片桐が、ハキハキとした声で問いかけてくる。この片桐の発言のせいで、フロア中の人間が、赤西と片桐の方を振り向いてしまった。
「ちょっと! やめてくださいよ、そんな大きい声で!」
ただでさえ居心地悪いのに、こんなことをされてしまった赤西は慌てて、片桐をそう制止しようとする。だが、この男は止まらなかった。
「お前がなんで新人の癖に、この件に首突っ込みたがるのかは知らねえけどな。黄瀬愛美は殺されるような人間……だったかどうかは、今となってはわからんが、少なくとも芸能人としては人格者として知られていたんだ。周囲の人間に恨まれる人間じゃねーよ。それに俺の知る限り、自殺する性格でもないと思うぜ? 第一、遺書も見つかってないんだからな」
そう一気にまくしたてる。赤西は余計なことをするんじゃない、と釘を刺された気がして、不快感を覚えた。なぜ先輩とはいえ、他部署のろくに関わりもない人間から、こんなことを言われなければならないのか。甚だ疑問だった。
不快感を隠せないでいた赤西だったが、涼しい顔の片桐は赤西に近づいてきたかと思うと、赤西の耳元に近寄り、こう声をかけてきた。
「何かわかったらこれにメールしてもいいぜ。俺もお前が欲しい情報持ってたら、協力してやるからよ」
片桐は先ほどまでの言葉とは裏腹に、棘のない言葉をかけてきた。片桐はメールアドレスの書かれた仕事用の名刺を、呆気にとられている赤西にこっそり、有無を言わさず手渡す。言いたいことだけ言って満足したのか片桐は、嵐のように去っていった。
片桐が去ったオフィスの中は、今までになく静まり返っている。最初はどんな説教が飛んでくるのかと驚いたが、どうやら協力してくれるらしい。
芸能人にも疎い自分が、芸能人に関しての事件を、自分の力だけで調べるのは難しいと思っていた。そんな自分に芸能部門の新聞記者が、協力してくれるなんて渡りに船である。
赤西は思わぬところから現れた味方に驚きつつも、片桐からもらった名刺をなくさないように、大切に名刺ケースにしまった。




