第十三話
水曜日の午後、赤西は警察署からの帰りに、いつもの駅前広場に向かう。青山との出会いがあってからというもの、水曜日の午後に青山と話をすることは、赤西の習慣になっていた。
駅前広場を見回すと、グレーのパーカーの青年を見つけた。今日青山はベンチに座って、どこかを見つめている。赤西は青山に近づくと、こう無難な話題で声をかける。
「こんにちは、今日もいい天気ですね」
青山は赤西の存在に気が付くと、赤西を見てこう穏やかな声で返した。
「ええ。過ごしやすくて、いい天気ですね」
今日はよく晴れていて、そよ風が吹いている。
赤西は青山の親戚が亡くなった件について、聞き出したい気持ちをぐっとこらえる。今まで何度聞いても、黙秘されてしまったからだ。
だから今日は作戦を変えることにした。赤西は思い切って青山にこう切り出した。
「俺たち歳近いだろうし、敬語やめませんか? 俺、青山さんと友達になりたいんです」
青山と友達になりたいなんて、実のところ口から出まかせだ。それだけ初対面が、最悪すぎた。本当なら仕事用のスーツを、コーヒーまみれにしてくる人間とは、できるだけ関わり合いにならないに越したことはないだろう。
しかし赤西はそんな常識を抜きにしても、青山から情報を少しでも引き出したかった。
あまりにも申し出が唐突すぎたのか、青山は目を丸くして黙り込んでいる。赤西は青山にこの話を切り出すのは、まだ早かったかと焦った。
しかし青山から返ってきたのは、意外な言葉だった。
「赤西さんが私と友達に……なってくれるんですか?」
恐る恐る青山は赤西に言う。
「もちろんですよ! あ、もう敬語やめていいのか。俺、青山さんと友達になりたかったんだよね!」
赤西は青山が申し出を受けてくれた事実に、嬉しくなって浮かれた調子で青山にそう語り掛ける。嘘に嘘を重ねているようで、赤西の心が痛む。
しかし実際青山に心を開いて貰うには、赤西から歩み寄る姿勢が大事だと思ったのだ。徐々に心を開いて貰って、例の件は後からでも、話してもらえればいい。
おそらく長期戦になるだろうと、赤西は腹を括った。覚悟を決めた赤西に向けられた、青山の言葉は意外なものだった。
「友達になりたい、なんて言われたことなかったから、どうすればいいかわからないんです……」
赤西は青山にそう言われて、とても戸惑う。青山は赤西と同年代に見える。確かに社会人になれば、学生時代の友人と、徐々に疎遠になることはあるだろう。しかし赤西と同世代で友達になりたい、と言われたことがないなんて、かなり珍しいのではないだろうか。
赤西はしばらく考えた後に、こう提案してみた。
「ひとまず敬語をやめて、名前で呼び合うことにしない? 敬語でやり取りするなんて、友達っぽくないだろ?」
「わかった。努力してみる」
青山はしばらく難しい顔をしてから、ぎこちないながらもそう答えてくれた。赤西はその答えに、心の底から安堵する。これをきっかけに心を開いてくれれば、大事なことを聞き出せるかもしれない。
友達のいない青山に、こんな打算的な理由で友達になろうとしてるなんて、赤西の良心が痛む。しかしこれは胸の奥に、そっとしまっておくべきだろう。赤西には母の死と関係のありそうな、青山の親戚の事故の情報の方が重要だ。
「じゃあ、来週もよろしくな! 俺会社戻るから! またな!」
赤西は青山に背を向けると、駅の方へ向かう。この程度の遅れなら、上司にもサボりを疑われないだろう。
「またな」
青山もその赤西の背中に向かって、そう声をかけてくれた。今までそんなやり取りもなかったから、純粋に心を少し開いてくれた気がして、嬉しい。
正直同年代へ敬語を使うことに抵抗があったから、青山が提案を呑んでくれて助かった。砕けた口調で話せることになって、赤西としても青山と話すハードルが下がった気がする。
そのおかげで込み入った話もしやすくなるだろう。青山には表向き友達になりたいと言いつつ、打算的なことを考えながら、赤西は会社へと戻った。




