第十二話-前
それからしばらく日付が経った頃。遠藤から電話が来た。
「一緒にご飯でも食べない? お互いの進捗も気になるだろうし……外で話すのには抵抗あるから、僕の家でよければなんだけどね。どう?」
その申し出に、赤西は乗ることにした。遠藤からこういう誘いがあるとは思わなかったため、情報共有とか関係なしに純粋に嬉しくなる。
赤西はもちろん快諾し、電話があったその週の日曜日の夕方に、遠藤宅へ向かった。
エントランスのセキュリティを遠藤に解除してもらって、エレベーターに乗る。エレベーターから降りて、遠藤の部屋まで行きインターホンを押すと、玄関で遠藤が迎えてくれた。
「久しぶり。元気にしてたかい?」
玄関のドアを閉めながら、遠藤が赤西にそう声をかけた。靴を脱ぎながら赤西は、はにかみながら、穏やかな調子でこう返す。
「ぼちぼちです」
軽いやり取りをしながら、居間へと向かう。居間で要は、ソファーに座ってスマートフォンを弄っていた。カーテンの隙間から漏れる夕日が、要の横顔を照らしている。
「要、お客さん来たから、一緒に飯食うよ」
遠藤が要にそう声をかける。要は赤西に会釈だけして、そそくさとキッチンへ向かって行った。遠藤は赤西に申し訳ない顔をしながら、こう弁明する。
「すまないね。いつも二人でいるときは、ここまでじゃないんだけど……」
赤西はむしろ家族二人の空間に、自分がいることに違和感があったので、こう言った。
「いや、家族二人の空間にいきなり部外者が来たわけですし。しょうがないですよ」
気遣われていることに若干の心地悪さを感じつつも、要の態度は、あまり気にしないことにした。そもそも関係値としては、初対面の時から何も進歩していない。そもそも会ったのは今回含め、たったの二回だ。
赤西自身も要の対応に、気分を害したわけではなかった。要の普通ではない過去もあるし、人見知りなら慣れてくれるまで、気長に待つだけである。
キッチンで食事の準備をしている要を見ながら、どこか居心地の悪さを感じていた赤西は、こう申し出る。
「そういえば、俺は何も手伝わなくていいんですか? 要君と遠藤さんだけに支度させるのは、なんか違う気がして……」
赤西は情報共有のためにここにいるのに、一方的に客としての立場に甘えているのが、申し訳なく感じる。そう思ってキッチンへ向かう遠藤に、声をかけた赤西。しかし遠藤から返ってきたのは、こんな言葉だった。
「いや、大丈夫だよ。そんなに人居たら、キッチン狭くなるからね。気にせず座ってて」
そう言って遠藤は、キッチンへ向かった。赤西はこれでいいのか自問自答しながら、ソファーに座ってキッチンの様子を眺める。大人しくした方がいいのか、手伝った方がいいのかわからない。キッチンで遠藤の背後を、通りかかろうとした要が不機嫌そうに、遠藤に向かって言葉を投げかけた。
「父さん、ちょっとそこどいて」
要のその言葉で、遠藤が要と反対側に避ける。その時、遠藤が赤西に目配せした。要と遠藤の様子を見るに、下手に赤西が手伝おうとしても、ただ邪魔になって終わりそうである。
赤西は何もできないもどかしい気持ちを抱えながらも、遠藤親子のキッチンでの様子を眺めることにした。あれこれ指示を出す要と、むしろ嬉しそうに要の言うことに従う遠藤。
遠藤が優しい性格なのは知っていたが、息子の言いなり同然とまでとは知らなかった。普段からキッチンを仕切っているのは、要なのだろうか。
普通の父親と息子の関係性を全く知らない赤西は、新鮮なものを見る気持ちで、遠藤と要を眺めていた。




