07.知らなかった真相②
「……あら?」
ふと気がつく。
思いがけない話に動揺して、うっかり聞き流してしまったことがある。
テオドールは、『シルフィはオレーリアから嫌がらせを受けている』という学園で広まっていた噂は、エルザの取り巻きが流していたと言っていた。
だが、その話は噂ではなく事実のはずだ。
オレーリアは以前、何度もシルフィに嫌がらせをしていた。
「ねえ。なんで私の嫌がらせがただの噂話にされてるわけ?私の嫌がらせはどうなったのよ。ディラン様は、エルザ嬢を犯人扱いしてたわよ。
テオまさか……エルザ嬢に罪を被せたわけじゃないでしょうね?」
嫌がらせの真の犯人たちは、ここにいる。
主犯がオレーリア、実行犯がテオドールだ。
どう考えてもエルザではない。
胡乱な目で見つめると、テオドールか呆れた目で見つめ返してきた。
「罪を被せるって……そんな危ないことするわけないだろ?そんなことして後でフェリクス様にバレたら、それこそ『悪質だ』って見なされて、リアも僕も断罪されるって」
「じゃあ、私の嫌がらせ程度じゃ、気に留めるまでもないってこと?」
ノートを破いたり、ハンカチを裂いたり、靴を隠したり。
それくらいならフェリクス的にセーフなのか。
「そういうわけじゃないよ。最初からリアは、シルフィ嬢に嫌がらせなんてしてないし」
「え?」
(何を言ってるの?)
思わず目を丸くする。
「だってテオ、シルフィ嬢のノートとかハンカチとか盗ってきて、目の前でビリビリに裂いてくれたじゃない。あれ、シルフィ嬢の机の上とかに置いてくれてたんじゃないの?」
過去にオレーリアは、テオドールにシルフィへの嫌がらせを命じていた。
『シルフィ嬢に何か嫌がらせをしたいの。テオ手伝ってよ!』
オレーリアの命令に、あのときテオドールは『しょうがないな〜』と言いながらも、シルフィのノートだと言って持ってきた物を、確かにオレーリアの目の前で裂いていた。
「ああ、あれ?あのハンカチもノートも、リアのだよ。おじさんに頼んで、リアの物渡してもらったんだ。『次期王妃を目指すオレーリアの汚点を作るわけにはいかないからね。テオドール、よろしく頼むよ』って、たくさん渡してくれたよ」
「ええ?!」
衝撃が走る。
あの目の前で破かれた数々のノートは、オレーリアのものだったらしい。
「リア、次期王妃狙ってめちゃくちゃ勉強してたじゃん?どのノートもみっちり書き込まれててさ、『オレーリアは努力家だろう?』っておじさんに自慢されたよ」
「お父様……」
呆然と呟く。
「そうだ。『シルフィ嬢の靴、持ってきたよ』って見せたあの靴も、リアのだから」
「ええ?!」
まだ衝撃から立ち直れていないというのに、追撃が飛んできた。
「ほんと気づいてなかったんだ。あれもおじさんが渡してくれたんだ。ドレスを裂いてくれって頼まれた時用に、ドレスも渡されてるよ」
(男爵令嬢のくせに、良い靴履くのね。生意気ね)
――そう思ったが、まさか自分の靴だったとは。
オレーリアは靴もドレスも、覚えきれないほど持っている。
目の前に出されただけで、それが自分の物だと気づけるはずがなかった。
「ちなみに、シルフィ嬢が嫌がらせを受けてたのは本当だよ。ノートやハンカチが破かれたり、靴を隠されてたのも本当」
「……そう……なの?」
返事に力が入らない。
そんなオレーリアを気にすることなく、テオドールが話を続ける。
「エルザ嬢が取り巻きを使ってシルフィ嬢に嫌がらせしてたこと、実は前から知ってたんだ。それをリアのせいにして、噂を流してることもね。『流れてる噂と同じことしてたら、リアも納得するだろうし』って思って、ちょうどよかったから噂に便乗してたんだ。リアも、『やってやったわ!』って喜んでたし」
「ああ……」
確かにあのころオレーリアは、耳に入る自身の噂に喜んでいた。
(やってやったわ!いい気味よ!)と清々した思いでいたのだ。
だが――どうやらそれは、エルザの所業だったらしい。
「ああ、もちろん。証拠も押さえてたし、ほとぼりが覚めたら、エルザ嬢の所業は公表するつもりだったよ?リアの経歴に傷を付けるわけにはいかないからね。『リアが楽しそうにしてる間は何もしないでおこうか』っておじさんも言ってたしね」
ははっとテオドールはおかしそうに笑う。
もう言葉も出なかった。
オレーリアは自分の取り巻きに、目の前で自分のノートやハンカチをビリビリに裂かれ、自分の靴まで『盗ってきた』と見せつけられていたらしい。
さらには、自分を陥れるために流された噂を聞いて、(やってやったわ!)と喜んでいたのだ。
明かされた衝撃すぎる真相に、返す言葉など見つかるはずもない。
もう考えるのをやめたくなった。
オレーリアは視線を上げる。
窓から差し込む光が、ハニーミルクティー・カラーのテオドールを優しく照らしていた。
柔らかいミルキーなベージュ色の髪と、細められたトロリと甘いハチミツ色の瞳に、オレーリアは思わず呟く。
「アイスミルクティーが飲みたいわ……」
「すぐにご用意いたします」
側に控えていたニナが即座に答える。
「ニナ。ハチミツもお願いね」
「承知しております」
オレーリアの侍女は、今日も完璧な仕事ぶりを見せていた。




