↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくある悪役令嬢だったはずなのに  作者: 白井夢子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/42

37.両国の事情


「もうほんと最悪。なんで休日の今日まで呼び出しなんだよ」


「今日も王宮に呼ばれてたのね。お疲れさま」


王宮帰りに顔を見せたテオドールに、オレーリアはハニーミルクティーを差し出した。


窓から差し込む夕陽に照らされ、赤みを帯びたミルキーベージュの髪が、美しいキャラメル色に輝いている。


「今日は少し香ばしくて甘い、キャラメル風味にしておいたわ。ハチミツもいつもより多めだから、疲れも取れるはずよ」


そう声をかけると、テオドールは嬉しそうに目を細めた。

トロリと甘いハチミツ色の瞳が、柔らかな光を帯びる。


(ほんとこの子、アイドル顔よね……)


テオドールの顔を見つめていたら、ふと、グランディエ宰相の言葉を思い出した。


「テオ、聞いたわよ。王宮のお茶会で活躍してるみたいじゃない。テオがベアトリス王女をもてなしてくれるおかげで、王女の暴挙もほどほどに抑えられてるって」


「もてなしてるって……フェリクス様もディラン様も黙り込んでるだけで、あの王女に返事も返さないから、仕方なく僕が話してるだけだろ。なんなんだよ、アイツら。『どうせ僕が相手するだろ』って、放置かよ」


「目に浮かぶわね……」


それは過去に見た光景だ。

フェリクスの婚約者だった頃、オレーリアもそんな氷の対応を受けていた。


あの頃のオレーリアと同じように、ベアトリス王女も(私を好きにならないはずがないわ!)と思い込んでいるのだろう。


――改めて思い出すと、とても痛々しい光景だ。


悪役令嬢に定められた運命とはいえ、少しだけ昔の自分が可哀想になる。


「まあ、でも。誰か一人でも話を聞いてくれる人がいた方がいいと思うのよ。もちろんテオは大変だと思うけど……王宮のお茶会で一人話してたなんて、後で思い出したときに寂しいじゃない」


オレーリアの時は、テオドールのように相槌を打ってくれる者はいなかった。だから今のベアトリス王女の方が、まだ救いがあると言える。


ベアトリス王女を庇うわけではないが、悪役令嬢に冷たく当たるのは、悪役令嬢くらいでいいと思うのだ。


オレーリアの言葉に、テオドールは一瞬黙ったが、やがて長く息を吐く。

そんな彼に労いの声をかけた。


「テオのこと、グランディエ宰相がすごく褒めてたわよ。場の空気を読むのも、口も上手いから、外交官に向いてるんじゃないかって。フェリクス様の側近候補にも上がってるみたいよ。良かったわね、第一王子の側近なんて出世じゃない。爵位も上がるかもしれないし」


「……爵位が上がるのは歓迎だけどさ。それでもフェリクス様といると、ほんと疲れるんだよ。あの人ずっと機嫌悪いしさ、王女はリアの悪口ばかりで鬱陶しいし」


テオドールの声が暗い。

よほど疲れているのだろう。


「まあまあ、私の悪口なんて聞き流しときなさいよ。それにベアトリス王女様の相手も、ずっとじゃないじゃない。留学期間は、メルバ国とグラン国が新しい通商条約を結ぶまでだそうね」


それはお昼のグランディエ侯爵家のお茶会の席で聞いた話だった。


今回の留学は、ベアトリス王女のワガママだけで決まったものではないらしい。

メルバ国とグラン国の関係を深めるための、親善留学という意味合いもあるそうだ。


だから王女を途中で帰国させてしまえば、グラン国に『メルバ国は今回の親善留学を歓迎していなかった』と受け取られる可能性がある。

両国の関係を考えれば、そう簡単に王女を追い返すわけにもいかないのだろう。


テオドールは大きくため息をついた。


「『締結が終わるまでは、できるだけ王女を刺激しないように』って、僕もグランディエ宰相にも言われてるよ。僕が話してれば、王女も少しは機嫌が直るから、よろしく頼むって」


「テオ、頼りにされてるじゃない。セドリック様もグランディエ宰相様に、『テオドールの外交力を少しは見習え』って言われてたわよ」


「ああ……あの人、フェリクス様たちよりもっとひどいよね。『氷の王子』以上に無愛想じゃん。ベアトリス王女に呼ばれないからって、全然関わろうとしないしさ」


「そう?」


(無愛想かしら?)


グランディエ宰相に諭されて、苦々しい顔をしたセドリックを思い出し、思わずおかしさが込み上げる。




「それよりさ、なんでベアトリス王女付きの護衛二人を拾ってきたのさ。ちゃっかりローゼンベルク騎士団にも入団したみたいだしさ。フェリクス様とディラン様も、セドリック様から経緯を聞いてびっくりしてたよ」


カップに口を付けたまま、テオドールが部屋の傍らに立つカミラへ視線を向けた。


「優秀な人物を引き抜くのは当然じゃない?ガゼルもカミラも、真面目な良い子だし。もし私が身分剥奪の上に国外追放されても、平民の二人が一緒なら何とかなりそうじゃない?」


オレーリアの言葉に、テオドールが咳き込んだ。


「なんでリアが身分剥奪された上に国外追放されるんだよ」


(分かってないわね)


確かに、メルバ国で影響力の高いローゼンベルク公爵の令嬢であるオレーリアが国外追放されるなど、普通に考えればあり得ない話だ。


だが、ここは『氷冠の王子と翡翠の乙女』の世界なのだ。

作中のオレーリアだって、自分が断罪され、国外追放される未来など想像していなかったはずだ。


テオドールは呆れた目でオレーリアを見ているが、何が起こるかなんて、最後まで分からない。

用心するに越したことはない。



「人生、予想もしないことは起きるものよ。まあ――明日は予想できるけど」


「……何する気さ」


胡乱な目を返されて、オレーリアは微笑む。


「ガゼルとカミラのね、ローゼンベルク騎士団の制服が仕立て上がったの。二人ともすごくうちの制服が似合うんだから。明日、学園にも護衛についてもらうつもりよ」


ガゼルとカミラがローゼンベルク騎士団に移籍したことは、すでにベアトリス王女の耳に入っているらしい。

王女は鼻で笑っていたようだが――


何より、ガゼルはグラン国の剣術大会の優勝者だ。

数日前までグラン国の護衛服を着ていた彼が、ローゼンベルク騎士団の制服を着て、オレーリアの護衛として付き添う姿を実際に目にしたら、王女はどれだけ苛立つだろう。


(悪役令嬢の考えることなんて、お見通しよ)


たとえ自ら捨てたものでも、それが価値あるものであれば、他人のものになるのは気に入らないに違いない。


(明日は大騒動間違いなしね!)


想像するだけで口元が緩んでしまう。



「ちょっとリア。そんなことしたら、またあの王女が暴れるの目に見えてるじゃん。せっかくリアと学園で会えても、一瞬で王宮行きになるだろう?」


「テオ、それは出世の道よ。頑張りなさい」


情けない顔をするテオドールに、オレーリアは満面の笑みでエールを送った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>親善留学 親善…? クソ王女側が親善って言葉を理解してないのに、なんでいつまでも下手下手に出てるんだろう。 はよ王女の国に抗議文送って王女の暴挙を理由にして自国が有利になるように頭使えばいいのに。 …
お、鬼がおる! そろそろテオにも優しくしてあげて〰︎w
テオはオレーリアの悪口を言われても相手をしてあげるくらい大人なのに、王子はさぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。