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よくある悪役令嬢だったはずなのに  作者: 白井夢子


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34/42

34.悪役王女付きカミラとガゼル


緊迫した空気が緩み、生徒会室には穏やかさが戻っていた。


部屋に残ったのは、オレーリアとセドリック。

それから、ベアトリス王女に付き添っていた女生徒と護衛の二人だった。


ふう……と、オレーリアは息をつく。


「セドリック様、一体何があったらあんなことになるんですか?」


「……オレーリア嬢。本当に聞こえていなかったんですね」


呆れたようなセドリックの声に、オレーリアは首を傾げる。


「何か言ってましたっけ?そういえば騒がしかったような……?」


書類の数字を追っている間、どこか遠くで誰かが騒いでいた。


『うるさいわね。黙りなさいよ』


そんなことを呟いた……気がする。


記憶をたぐるオレーリアを、セドリックはしばらく見つめていた。

やがて、静かに口を開く。


「ベアトリス王女は、ずっとオレーリア嬢を罵っていたんですよ。あなたが顔を上げた後のような調子で」


「ああ……」


(なるほどね)


渾身の一撃を加えてやろうとしている相手に、何も届いていないと知れば、腹立たしいものだ。

あれだけ怒っていたのも無理はない。


悪役令嬢とはそういうものだ。


オレーリアだって、フェリクスの婚約者だった頃は、なんとかシルフィに打撃を与えたかった。

だから、取り巻きのテオドールに嫌がらせを言いつけていたのだ。


もし――あの頃、その嫌がらせがシルフィにはまったく届いていなかったと知っていたら。

きっと、半端なくブチ切れていただろう。


『テオに取り巻きの資格なんてないわ!』


そうテオドールに怒鳴りつけていたに違いない。


「それは悪いことをしたわね」


ベアトリス王女は、オレーリアにとって悪役令嬢のライバルのようなものだ。

それでも、さすがに今回の態度は悪かった。


思わず呟くと、オレーリアを見つめていたセドリックが口を開いた。


「オレーリア嬢が不快な思いをしていないなら良かったです」


(それはいいのね)


いくらベアトリス王女を腹立たしく思っていても、彼女はメルバ国の第三王女だ。

『王族の言葉を無視するなんて、品格が足りませんね』くらいは言われそうなものだが、そこは構わないらしい。


「聞こえなくて良かったかもしれませんけどね。やり返したくなってしまいますから」


オレーリアはふと、先ほど思いついたことを口にする。

 

「ああ、そういえば『主要都市の経済発展』についてのお伺いを忘れてたわ。……残念ね。やっぱり『国家間における包括的外交指針』についてお伺いした方がいいかしら?」


ふふふ、とオレーリアが笑うと、セドリックが咳き込んだ。


「それは――なかなか興味深いテーマですね」


(セドリック様って意外と笑うのね)


楽しそうに微笑むセドリックを眺めていたが、ふと、部屋に残された女生徒と護衛に気づいた。


(カミラとガゼルって言ったわね)


二人とも口を引き結び、視線を落としている。

人のことは言えないが、悪役令嬢に仕えるというのも、なかなか苦労が多いのだろう。


ベアトリス王女を諌めることができる立場ではないようだが、だからこそ気の毒に思えた。


(そうよね。私だって前世、ブラックな企業で理不尽な目に遭っても、何も言えなかったもの)


ふと、遠い昔の記憶が蘇る。


『あんな上司!』と思いながらも、会社を辞めることもできなかった。

疲れ果てて、何をどうすればいいのか考えることすらできなかった。

ただ、終電間際の会社帰りの電車の中で、溢れ出す悔しさに泣くことしかできなかったのだ。


胸の奥に、前世の辛かった気持ちがじわりと蘇ってきた。


「あなたたちも――大変ね」


心からそう思って声をかけると、それまで固く口を引き結んでいたカミラが、唇を震わせた。


そして――


「うっ……うぅ……」


堪えていたものが一気に溢れたのか、カミラは両手で顔を覆い、わっと泣き出した。


「ちょっと、あなた――カミラ。立ったままそんなに泣いてちゃ危ないわよ。倒れるじゃない。泣くならここに座りなさい」


『ここに』と、オレーリアは自分の隣を指差す。


「あなた――ガゼル。あなたもカミラと一緒にグラン国から来たんでしょう?ぼさっと突っ立ってないで、カミラに手を貸してここに座らせてあげなさいよ」


ガゼルは戸惑ったように一瞬オレーリアを見たが、すぐにカミラの肩へ手を添え、彼女をソファーへ座らせた。


「も、もうしわけ……あり……ませ……」


「謝ることなんてないから、好きなだけ泣きなさい。その方がスッキリするから」


泣きながら謝るカミラにそう言いつけると、オレーリアはガゼルへ視線を向けた。


「あなたは……泣かないみたいね。じゃあ、学園の食堂に行って、温かい紅茶を四人分、生徒会室に運ぶよう言ってきて。ケーキも四つと――あと、焼き菓子も付けるようにね。『生徒会室のツケで』って言えばいいわよ」


「オレーリア嬢。その対応は間違いではないですか?」


オレーリアの指示に、セドリックが呆れたような声をかける。


「え?留学生へは、生徒会の経費で落ちないんですか?」


「そういうことでは……いえ」


セドリックは何かを言いかけたものの、諦めたように息をついた。


「ガゼル。一階の食堂で、オレーリア嬢が言うように伝えれば、すぐにお茶をここまで運んでくれますから」


「ケーキも忘れないでね」


「……ケーキも忘れないよう、伝えなさい」


すかさず声をかけたオレーリアに、諦めたようにセドリックが言葉を重ねる。

ガゼルは戸惑いの色を見せていたが、大人しく頷き、部屋を出ていった。



カミラが落ち着くまで、まだ少し時間がかかるだろう。


彼女は今、絶対的な主に切り捨てられたばかりなのだ。

こんなときに『大丈夫?』なんて声をかけられても、オレーリアだったら、『大丈夫なわけないじゃない!』と返したくなるほど荒んだ気持ちになってしまう。


(話を聞くのは、落ち着いてからね)


そう考えて、オレーリアは途中で置いていた書類を手に取った。

サラサラと数字を書き連ねていく。


セドリックも何も言わずに机へ戻り、書類に向かうことにしたようだ。


ガゼルが戻ってくるまでの間、部屋の中にはペンを走らせる音と、カミラの鼻をすする音だけが響いていた。




「終わったわ」


最後の書類を終えて、オレーリアはふう……と息をつく。


「……ガゼルったら遅いわね。あの子もどこかで泣いてるのかしら」


「とっくに戻っていますよ」


「あら」


セドリックの声に顔を上げる。

そこでようやく、ソファーの横にワゴンが置かれていることに気づいた。

ケーキと焼き菓子、そして湯気の立つ紅茶が並んでいる。


「私ったら、また聞いてなかったようですね。すみません。せっかくのティータイムをお待たせしてしまって」


「これはティータイムですか?」


「違うんですか?」


セドリックの呆れた声に、オレーリアも呆れた声を返す。

そして、立ったままのガゼルに声をかけた。


「ほら、ガゼルも早く座りなさい」


「いえ、私はこのままで……」


「ちょっとあなた、立ち飲みする気?それは品格が足りないわよ。ちゃんとお座りなさい」


相変わらず呆れた目を向けてくるセドリックに、オレーリアは『向こうのほうが品格が足りないわよ』と言外に伝え、涼しい顔で見返した。


「カミラは……あら、落ち着いたみたいね」


隣に座るカミラを見ると、まだ目は赤いが、もう泣き止んでいた。


「ではいただきましょうか。――まあ!今日はレモンタルトじゃない!この学園のケーキ、悪くないわよ」


戸惑った様子のカミラとガゼルに、オレーリアは満面の笑みでケーキを勧める。

そして、さっそくレモンタルトの皿を手に取った。


フォークでサクッと生地を切り分け、口に運ぶ。


パクッと口に含んだ瞬間、キュッと甘酸っぱいレモンカードの爽やかな酸味が口いっぱいに弾けた。


続いて、タルト生地のサクサクとした食感が追いかけてくる。キュンと舌を刺激するレモンの甘酸っぱさと、香ばしい生地のコク。後味はすっきりと爽やかで、疲れた頭にキュンと効く美味しさだ。


「やっぱり疲れた後の甘いものは最高ね……。カミラも早くお食べなさい」


そう声をかけると、カミラもおずおずと自分の皿へフォークを伸ばした。


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― 新着の感想 ―
やっぱ好きや~♪(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)オーレリアたん♡ このお話って読んでると!何となく… (*`艸´)甘いモノ食べたくなっちゃうょね~♪ 小麦粉♪バター♪砂糖♪牛乳♪黄卵♪レモン♪ (夏だから少し酸っぱ…
レモンタルトにはセロリ入ってませんよね(笑) パワハラカスハラ三昧の私には、オレーリア様の優しさが心に染みました。 高級焼き菓子店で買った(なけなしのお金かき集めて)りんごのパウンドケーキ捧げます
オレーリアの家で雇ってあげればいいんじゃない。
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