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よくある悪役令嬢だったはずなのに  作者: 白井夢子


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33/42

33.置いていかれる悪役令嬢


「ベアトリス王女。それ以上オレーリア嬢の邪魔をするなら、部屋から出てもらう」


それはヒュッと息を呑みそうになるほど、冷たい声だった。


途端、どこか遠くで感じていた騒がしい気配が、スッと消える。


(寒いわ……)


いきなり真冬の寒空の下に放り出されたような気分になり、オレーリアはそっと腕をさすった。



視線は書類に落としたままだが、周りの空気が緊迫していることを肌で感じる。


恐る恐る視線を上げると、フェリクスがベアトリス王女を見つめていた。

極濃のカカオを思わせる冷たい瞳が、侮蔑の色を滲ませ、王女を射抜いている。


(なんて目で人を見るのよ……)


その目は、かつてオレーリアに向けられていたものよりも、さらに冷ややかだった。


(ちょっと何?何があったら、こんなことになるわけ?)


数字に集中しすぎていたせいで、状況がまったく把握できない。

ここは、場を収めるのが上手いテオドールになんとかしてもらうしかない。


(とにかく、なんとかしなさいよ)


そんな思いでテオドールに視線を向ける。

けれど――テオドールもまた、冷ややかな目でベアトリス王女を見つめていた。


(ちょっと!ハニーミルクティーはどうしたのよ?!)


テオドールの視線に、いつもの甘さがない。

いつもならばオレーリアの視線ひとつで笑みを向けるはずなのに、今は視線すら合わない。


テオドールが役に立たないなら、次はディランだ。

幼馴染として、氷原のような冷たさを放つフェリクスを止めてもらうしかない。


そっとディランに視線を移す。


(ディラン様まで……)


ディランもまた、鋭い目元をさらに険しくして、ベアトリス王女を見つめていた。


(セドリック様は……?)


セドリックに視線を移すと、彼はただ書類にペンを走らせていた。


セドリックなら、理由を知らないはずもない。フェリクスを諌めることだってできるはずだ。

それなのに、我関せずといった態度で仕事を続けている。

役に立ちそうもない。


(一体なにがあったのよ?!)


何が起きているのか、さっぱりわからない。

ただ、静まり返った空気が痛いほど伝わってくる。


(しょうがないわね)


誰も教えてくれないなら、自分で聞くしかない。


「あの――」


「あんたが悪いのよ!」


「はい?」


オレーリアが口を開いた瞬間、ベアトリス王女に叫ばれた。

思わず、間の抜けた声が漏れる。


「あんたがさっきから私を無視するからでしょう?たかだか公爵令嬢の分際で、王女の私に無礼よ!お父様に言いつけて、不敬罪でローゼンベルク公爵家なんて取り潰してやるから!覚えてらっしゃい!」


「まあ――」


「ベアトリス王女、口を慎め。他国の王族が、我が国の貴族に手を下そうとするとは……グラン国からメルバ国への宣戦布告と捉えていいということか?」


そこにフェリクスの鋭い声が割り込んだ。


本当は――


『まあ。王女様といえど、他国であるグラン国が、メルバ国の公爵家を取り潰そうとするなんて。それはメルバ国への宣戦布告でしょうか?』


そうベアトリス王女に返そうとしたところだった。

どうやら、オレーリアに代わって応えてくれたらしい。



「なによ!フェリクス様とあろうお方が、こんな女に騙されて!この女がどれだけ狡猾で嫌な女か、フェリクス様が一番知っているはずでしょう?こんな地味な格好してるのも、全部改心したように見せかけようとする計算のうちなのよ!」


「黙れ」


フェリクスのキンと冷えた一撃が、部屋を貫く。


「今すぐに部屋から出ていけ。――ディラン、テオドール、ベアトリス王女を王宮まで送ってくれ」


フェリクスの続いた声に、身を震わせたベアトリスが叫ぶ。


「嫌よ!絶対に帰らないわ!帰るならフェリクス様も一緒よ!こんな女と二人きりになんてさせないから!

ちょっと触らないで!無礼者!」


「失礼します」と言ってベアトリス王女の腕を掴んだディランに、王女が身をよじらせる。


「ガゼル!あんた護衛でしょう?構わないから、この男を切り捨ててちょうだい!」



(なんてこと言うの?!)


完全に蚊帳の外に置かれたオレーリアは、目の前で繰り広げられる騒動を、呆然と見つめることしかできない。


(まさか剣を抜いちゃうの?!)


言ってることはめちゃくちゃだが、それでもベアトリス王女は彼らの絶対的な主だ。


ディランがベアトリス王女をテオドールに託し、護衛を見つめた。


だが――ガゼルと呼ばれた男は動かない。

口を固く結んで、軽くベアトリス王女に礼を返しただけだった。


(護衛は良識人みたいね)


ふうん、とオレーリアは状況を眺める。


「この役立たず!ガゼル、あんたはクビよ!カミラ、あんたもね!あんた達、不敬罪で国外追放にするわ!二度とグラン国に帰れると思わないことね!」


(はあ?!)


悪役王女が、護衛と侍女を断罪し、国外追放の形に処している。


(何このストーリー。めちゃくちゃじゃない)


繰り広げられる展開に、目が離せない。


そこにフェリクスが深いため息を落とす。


「今日は私も王宮に帰ろう。ガゼル、カミラ。とりあえずお前たちは、ベアトリス王女が落ち着くまでどこかに待機しろ。――オレーリア嬢、悪いが今日はこれで失礼する。その……腕は大丈夫だろうか」


「え?……あ、はい。どうぞお気をつけて……?」


部屋の空気が寒くて、無意識に腕をさすっていた。

フェリクスに気遣われた意味が一瞬わからなかったが、(傷のことね)と気がついて、曖昧に頷いた。


フェリクスが王宮に帰ると聞いて、ベアトリス王女も納得したらしい。

最後にオレーリアへ鋭い視線を送りつけながらも、皆に連れられて部屋を出ていった。


扉が閉まると、先ほどまであれほど騒がしかった生徒会室が、嘘のように静まり返った。


(……静かね)


オレーリアは、しばらく閉じられた扉を見つめていた。



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― 新着の感想 ―
主人公を無視してたらそれ以上の爆弾(シルフィ、ベアトリス)を連続で食らう羽目になり、しかもそれに生徒会メンバーを巻き込んだ形になってこの先も危うそうなフェリクス王子、残念でもないし当然。
フェリクスがディラン、セドリックを証人に王女を学園長に突き出して 「生徒会の仕事を妨害され、役員にも健康上の被害が出ている」 「我が国の公爵家を潰しディランを殺すと宣言したので、その旨を相手国に通達し…
さっさと王女の国に抗議文送ったらいいのに…
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