27.王都へ
創立記念祭が終わると、オレーリアは王都へ戻ることにした。
フェリクスからは研究報告会への出席を勧められたが、丁重に断っていた。
そもそも今回の研究報告会は、本来なら創立記念祭で催されるはずだった夜会に代わるものだ。
オレーリアの階段転落事故を受け、華やかな催しは取りやめとなり、生徒会主催の研究報告会へと変更された経緯がある。
この夜会といえば、他国の王族や保護者たちも訪れる学園最大級の社交イベントだ。
去年まではオレーリア自身も、ドレス選びからメイクまで張り切って準備したものだった。きっと今年も、多くの生徒が楽しみにしていたことだろう。
そんな催しを中止にしてしまった当事者として、参加しても居心地が悪いだけだ。
それに、シルフィの件もある。
オレーリアを陥れようとしたのはシルフィだったが、その結果、特待生と生徒会役員の資格を剥奪されるという前代未聞の事態になった。
その騒動の渦中にいるオレーリアにも、当然注目が集まるだろう。
どちらにせよ、そんな場へ自ら足を運びたいとは思えなかった。
だからこそ出席は辞退したが、その後、テオドールやフェリクスから届いた手紙で、報告会が大成功を収め、生徒たちが拍手喝采を送ったと知ったとき、オレーリアは心底ホッとしていたのだった。
王都へ戻ったオレーリアだが、学園に通う必要はない。
『ケガ療養中』の身で休学扱いが認められているし、学業面での卒業資格はすでに得ている。
王都へ戻ってからも、穏やかな毎日を送っていた。
夕方になると、テオドールが学園帰りに必ず顔を見せ、学園での様子も聞かせてくれる。
そのおかげで、領地にいた頃よりも退屈せずに過ごせていた。
そんなある日の夕方。
学園帰りにオレーリアを訪ねたテオドールが、うんざりした顔でため息をつく。
「え?王女?グラン国の?」
「そうなんだよ。第三王女のベアトリス様」
グラン国のベアトリス第三王女が、メルバ国へ短期留学することになったらしい。
創立記念祭に招かれたベアトリスが、報告会の発表内容に感銘を受けて、『この報告会をまとめた生徒会の皆さんと共に学びたい』と申し出たらしい。
留学生として、王宮に滞在しながら学園に通うベアトリスは、生徒会が面倒を見ることも決まっているようだ。
「ふうん。すごく急なのね。昨日までそんなこと言ってなかったじゃない」
「元々ベアトリス王女は、創立記念祭のあともグラン国に帰らずに王宮に滞在してたみたいなんだ。で、昨日になって急に短期留学が決まったらしい。今朝、生徒会室に呼び出されたと思ったら、『今日から生徒会で面倒見ろ』ってさ」
「そうなのね……。ねえ、どんな人なの?あの報告会のテーマに興味を持つなんて、政治に関心があるのね。野心ある人なのかしら?」
報告会のテーマは、『領地間の流通』だ。
政治に関わる機会も薄いはずの第三王女という立場で、そのテーマに興味を持つとは。
政治や学問に熱心な人なのだろうか。
様子を見る限り、テオドールはベアトリスが苦手のようだが、もしそうなら、頭の固いセドリックのような人物なのかもしれない。
(セドリック様が二人なんて、面白すぎない?)
そんな王女に、俄然興味が湧いた。
「まさか。あの王女どう見ても頭悪いし、報告会の内容なんて理解できてないよ。『壇上に立つフェリクス様に感銘を受けました』なんて、バカみたいな感想言ってたし。感銘受けたの、フェリクス様の顔だろ」
「あ、そうなのね」
どうやらベアトリス王女は、報告会でフェリクスに一目惚れしたらしい。オレーリアとの婚約は解消され、いま婚約者がいないフェリクスは、他国の王女にとっても狙い目なんだろう。
(ヒロインと結ばれないと、他国の王女と結ばれる未来もあるのね)
なるほど、と興味深くオレーリアは頷いた。
「まあまあ、報告会のテーマはお堅いテーマだったもの。貴族令嬢だってフェリクス様に見惚れてたんじゃない?ディラン様も女生徒に人気だし、セドリック様だって見た目は綺麗じゃない。テオだって女の子たちに騒がれてるって聞いてるわよ?」
「はあ?誰がそんな出まかせ言ってるんだよ」
「誰って、フェリクス様よ。『生徒会室には毎日、女生徒からテオへの応援の手紙が山ほど届いてる』って手紙に書いてあったわ。報告会も成功したし、テオも頑張ってたって」
「あの人か……!」
ギリッと奥歯を鳴らしたテオドールを、オレーリアは見つめた。
あまりにも見慣れすぎていて気づかなかったが、こうして見ると、テオドールの顔立ちも整っている。
ふわっとした柔らかいミルキーなベージュ色の髪と、トロリと甘いハチミツ色の瞳は優しげで、女性に人気がありそうだ。
令嬢たちが憧れるのも分かる。
彼は前世でいう、アイドル顔だ。
「そのうちテオも、素敵なお嬢さんを連れて来そうね……」
「はあ?!」
(口に出してたのね)
一瞬、前世の感覚が顔を出し、ついそんなことを呟いてしまった。
「冗談よ。その前にフェリクス様が素敵な王女様と結婚しそうね」
そう言って誤魔化した。
「確かにね。フェリクス様なら、あの王女ともお似合いなんじゃない?……あの王女、ほんと最悪なんだから。報告会で初めて会った時も、すごく傲慢な態度だし我儘でさ。できれば二度と会いたくないと思ってたのに……」
話しながら、どんどん声が暗くなる。
「まあまあ、短期留学ならそのうち帰るじゃない。王女のことはフェリクス様に任せて、適当に流しておきなさいよ。ほら、ハニーミルクティー冷めるわよ?甘いの飲んだら疲れも取れるから」
「……ありがとう。明日からも毎日寄るから、話聞いてよ。もうほんと疲れるんだよ。今日半日一緒にいただけでも、『もう無理』って思ったもん」
「それは……すごいわね」
我儘なオレーリアに慣れているはずのテオドールが弱音を吐くなど、相当なのだろう。
(明日からが楽しみね)
決して口にはできないが、これから面白い話が聞けそうだと、内心オレーリアは楽しみにしていた。




