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よくある悪役令嬢だったはずなのに  作者: 白井夢子


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18/29

18.訪問者たち再び


前回のフェリクスたちの訪問から、ちょうど一週間が経った今日。


再びオレーリアの目の前には、フェリクスを含めた生徒会役員たちが揃っていた。

もちろんオレーリアの隣には、朝一番で駆けつけたテオドールもいる。


あまり横を見ないようにしているが、テオドールの眼が怒っている。

いつもなら甘くとろりとしたハチミツ色の瞳が、今日は少しも甘くない。

向けられている視線が、『訪問は断れと言っただろ?』とオレーリアを責めていた。


(しょうがないじゃない。私はちゃんと断ったのよ?なのにフェリクス様が、勝手にみんなを連れて来ちゃったんじゃない)


先週の訪問から数日後、フェリクスから手紙が届いた。

翌週も訪問したいという内容だったため、『元婚約者同士が二人で会っていれば、世間に良からぬ噂が立ちますから』と、丁寧かつハッキリ断りを入れた――はずだ。


だがオレーリアの返事に対し、昨日届いた手紙にはこう書かれていた。


『元々ディランは同行させるつもりだったが、オレーリア嬢が気になるなら、セドリックとシルフィも同行させよう』


(そうじゃないの!)


元婚約者と会うこと自体が問題だと言ったはずなのに、なぜ同行者の人数を増やす話になったのか。

断る時間もなく、せめて味方だけは確保しようと、テオドールの屋敷へ手紙を送ったのだ。


夜中を過ぎて領地に帰ったはずのテオドールは、そうしてつい先ほど朝早くにオレーリアの元に駆けつけてくれた。


だが、向けられる視線が冷ややかだ。

テオドールはこうやって時折り、取り巻きらしからぬ態度を取るときがある。




フェリクスが視線で合図を送り、セドリックがオレーリアの目の前に書類を置いた。

書類の表紙には、『改訂版・領地間の流通について』とタイトルが書かれている。


「先週オレーリア嬢に指摘された点を踏まえて、資料をまとめ直したんだ。報告会も近いし、すまないが協力を頼みたい」


「はあ……」


気のない返事が口から出てしまう。


(王子様相手に、今の返事はさすがにマズかったかしら)


思わずセドリックに視線を向けると、『言葉使いに品格を』を言い出しそうな顔をしていた。


「先週王都に着いた時には、日が暮れていたようですから、すぐに目を通しますね」


(あなたも嫌味なんて言ってる時間はないでしょう?)


そんな思いを込めて、もう一度セドリックに視線を向けると、セドリックが苦々しい顔になる。

――何かは伝わったらしい。


(言ってやったわ!)


心が弾み、オレーリアは張り切って書類に目を通した。




「読ませていただきました」


最後のページを閉じると、フェリクスが身を乗り出した。


「どうだ?何か気になるところがあれば、遠慮なく言ってほしい」


「今回、気になるところは特にありません。とても良いと思います。もちろん以前の報告書も素晴らしいものでしたが、今回のものは『街道整備による輸送時間の短縮』を挙げながらも、そこにかかる莫大な費用負担の問題や税制の見直しについても言及していますから。

最終的に目指すのが街道整備であっても、他に変わる施策の提案もされていますし……実現の可能性が見えて、参加者の方々も、前回より受け入れやすい内容になったと感じるのではないでしょうか」


オレーリアは素直に感じたことを口にする。

限りなく面倒くさい訪問者たちではあるが、オレーリアだってずっと学んできた分野だ。いい加減な返事はできなかった。


「……そうか。オレーリア嬢がそう言うなら安心だな」


安堵したように答えたフェリクスの口元が、わずかに緩んだように見えた。


(……気のせいかしら)


長時間書類を読んでいたのだ。目が疲れているだけかもしれない。


(とにかくこれでお終いね)


「急ぎのお帰りだと思いますが、よろしければ出立前に軽食でも召し上がっていきませんか?」


「では言葉に甘えて、そうさせてもらおうか」


オレーリアの声かけに、フェリクスは迷いなく答えた。


本当は――

『いや、結構だ』

そう言って、当然断ると思っていた。

以前の彼なら、間違いなくそう答えたはずだ。


(どうしたのかしら?)


オレーリアの誘いに少し嬉しそうに答えたように見えたのは、気のせいだろうか。


(気のせいね)


そもそもフェリクスが、自分とのお茶を楽しみにするはずがない。


「ニナ、軽食をお願いね」


「すぐにご用意いたします」


すぐに答えたニナが合図を送ると、ほどなくして軽食と淹れたてのコーヒーが運ばれた。

トレーには、香ばしい焼き色のついたキッシュとスコーンが美しく並べられ、深みのあるコーヒーの芳醇な香りがふわりと部屋いっぱいに広がる。



「どうぞ召し上がってください」


そう声をかけて、オレーリアは何食わぬ顔で様子を窺った。

皆が軽食に手を付ける中、視線は一人の人物を追っていた。


(やっぱりね)


セドリックがカップに手を伸ばしかけて固まったのを見逃さず、オレーリアはわざとらしく声を上げた。


「あら……?ちょっとニナ、どういうつもり?」


セドリックの前に置かれたブラックコーヒーを指差し、ニナを呼びつける。


「セドリック様は苦いものが苦手だって、あれほど言ったでしょう?……あら、やだ。ミルクも砂糖も添えてないじゃない。こんな苦い大人の飲み物、セドリック様が飲めるはずないでしょう?」


喜びで口元が緩んでしまわないよう、これみよがしに厳しい声を出す。


「大変申し訳ありません。まさか紳士のセドリック様が、コーヒーをお飲みになれないとは思い至らず……」


しおらしく頭を下げるニナに、オレーリアは深々とため息をついてみせた。


「もういいわ。すぐに甘いミルクティーをご用意してあげて。お一人だけミルクティーじゃ彼も恥ずかしいでしょうから、私も同じものをいただくわ。セドリック様は砂糖4杯ね。……そうね、私は3杯でいいわ。

あ、テオも甘い飲み物の方がいいかしら?」


「いや、僕はコーヒーでいいよ」


(私だって飲めないのに?!)


テオドールはコーヒーを選んだ。


どうやら『セドリックだけが苦いものを飲めない』という状況作りに協力してくれるらしい。

いつもハチミツたっぷりのミルクティーをおいしそうに飲んでいるテオドールが、平然とコーヒーを飲んでいる。


オレーリアが満足げに頷くと、ニナが湯気の立つミルクティーを運んできた。


「セドリック様、こちらなら飲めるのではないでしょうか」


「あなたという人は……」


疲れた顔でため息をつくセドリックは、それ以上何も言えないようだ。


(やってやったわ!)


心は晴々としていた。

オレーリアは上機嫌でミルクティーを口に運ぶ。


「またこれから長い馬車の移動になりますね。先週に引き続きですから、シルフィ嬢も大変だったのではないかしら?」


「お気遣いありがとうございます。でも私は大丈夫です。先週の訪問の帰りも、フェリクス様と『小旅行のようで楽しかった』と話し合っていたんですよ」


「あら、そうなのね」


シルフィがそんな話を持ち出すくらいだ。

きっとフェリクスも同じ気持ちだったのだろう。

どうやら二人は、この領地への訪問を小旅行気分で楽しんでいるらしい。


元婚約者の領地訪問を、二人の思い出作りに使うのはどうかと思うが、どうせ彼らは結ばれる運命にある者たちだ。

気にするほどの話ではない。


「この別荘の少し行った先に温泉宿街もあるわよ。たくさんのお店が並ぶ屋台通りもあるし、さらに日帰り旅行を楽しめるんじゃないかしら」


機嫌のいいままに言葉を続けると、フェリクスが口を開いた。


「私はオレーリア嬢との話し合いで、『有意義な時間を過ごせた』と伝えたつもりだ。シルフィ嬢、思い込みで私の名を出されては困る」


「私……そんなつもりじゃ……」


フェリクスの言葉に、シルフィが傷ついたように瞳を潤わせた。


部屋がシン……と静まり返る。


甘さなど微塵も感じさせないビターブラウンの眼は、涙を落とすシルフィを静かに見つめている。

氷原のように冷たいペパーミントグリーンの髪が、朝の爽やかな空気すら凍らせそうだ。


(あんな冷たい目、ヒロインに向けていいのかしら?)


あの温度のない冷たい目は、かつてオレーリアに向けられていたものだ。

当時は、『自分はフェリクス様に愛されて当然だ』と思い込んでいたので、そういうものだと思って気にしたことなどなかった。


けれど前世を思い出した今なら分かる。

あの目に宿る冷たさは、相手に心を開いていない時に向けられるものだ。


(こういうのを乗り越えて、二人は結ばれるんだっけ?

……こんなシーンあったかしら?)


静まり返った部屋の中、オレーリアは『氷冠の王子と翡翠の乙女』を必死に思い返した。



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― 新着の感想 ―
いや有り得ないわ...なんで何度も押しかけるの? 王族って責任が重いんじゃないの?なぜ迂闊な行動をする? 誰も咎めないのはなんで?なんのための側近たちなんだろうか ろくに調査もせず噂を信じて冷遇してた…
いやいや、父の公爵から国王に釘刺してもろてよ 怪我の療養中の、準王族、高位貴族令嬢、元婚約者のところに ズラズラと仕事をさせようと大勢で押しかけるクズだと
社会人脳使おう。後ろ盾降りたなら父親の指示で動かないと。(テオが公爵に報告してるだろうけど)流石にいつまでズルズル付き合ってセドリックに嫌がらせまでするんだ。 学園のお友達じゃないんだよ。 女公爵に…
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