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よくある悪役令嬢だったはずなのに  作者: 白井夢子


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16/28

16.彼らが帰ったあとに


軽食を取り終えた後、フェリクスたちはほどなくして帰路についた。


王家の馬車が門を抜け、遠ざかっていく。

それを見送るオレーリアの隣には、テオドールがいた。


「テオも一緒に乗せて帰ってもらったらよかったのに」


「冗談でしょ」


あっという間に小さくなっていく馬車を見つめながら声をかけると、テオドールが肩をすくめた。


王家の馬車とはいえ、王都に着く頃には日暮れ前になるだろうという話だ。

オレーリアだって、生徒会役員たちに囲まれながら、そんな長い間馬車で過ごしたくはない。


「まあ、分かるけど。どうする?時間あるならお茶を飲み直す?」


「いいね、それ」


そんな会話をしながら、再び二人は部屋に戻った。




ニナが用意してくれたハニーミルクティーを口に含むと、優しい甘さが口の中に広がった。

ほんの数時間だけの面会だったが、思ってた以上に疲れていたらしい。

オレーリアはホッと息をつく。


甘いミルクティーを見つめていたら、ふとセドリックを思い出した。


「なんだか思ってた人と違ったわね。意外だったわ」


「何言ってんだよ。見た感じそのものじゃん」


軽く返された言葉に、オレーリアは思わずテオドールを見つめた。


「テオ、セドリック様があんな人だって知ってたの?」


「え?セドリック様?」


紅茶を飲む手を止めたテオドールに、オレーリアは言葉を続けた。


「他に誰がいるのよ。意外すぎるでしょう?だって、生徒会役員はみんなシルフィ嬢の絶対的味方だと思ってたけど、セドリック様だけそんな感じでもなかったじゃない?私の噂も信じてなかったみたいだし。これまで私にだけ嫌味を言う人だと思ってたけど、みんなに公平に嫌味を言う人だったなんて意外だわ」


「まあ、噂を信じてなかったのは見直したけど、セドリック様って元々あんな感じだっただろ?」


「そうかしら?」


テオドールは人をよく見ている。

彼は以前からセドリックがあんな人だと知っていたらしい。


「テオはセドリック様があんな面白い人だってことも知ってたの?」


「面白い?」


「あの人砂糖4杯も入れてたわよ」


「なんの話だよ」


「紅茶よ。見てなかったの?セドリック様、紅茶に砂糖を4杯も入れてたの。思わず数えちゃったわ」


いつも苦々しい思いをさせるセドリックのことを、オレーリアはずっとセロリのような男だと思っていた。

当然セロリは好物で、紅茶だって砂糖など入れるはずの男だった。


けれどセドリックは苦いものが苦手らしい。

さらに驚くことに、紅茶に口を付ける前にシュガーポットに手を伸ばしていた。

セドリックと砂糖。

あまりに似合わない姿に、思わず紅茶に入れる砂糖の数を数えてしまったのだ。


「私だって3杯なのに」


「リアはそうだよね。意外だと思ってた人って、僕はシルフィ嬢のことだと思ってたよ」


「シルフィ嬢?……シルフィ嬢は見た目通りじゃない。お菓子作りが得意で、少し天然で、すぐ泣いちゃう。絵に描いたようなヒロインって感じじゃない」


「は?リア、それ本気で言ってる?どう見ても『可哀想な私』をやってるようにしか見えないだろ?」


「え〜……?」


確かに、シルフィは今日は何度も瞳を潤ませていた。

悲しそうに眉を下げた彼女の瞳はキラキラと輝き、みずみずしいシャインマスカットのようだった。


『氷冠の王子と翡翠の乙女』のヒロインである彼女が、テオドールの言うような小賢しい女であるはずがない。

見ていたわけではないが、ヒーローのフェリクスも、あの可憐な姿に庇護欲をそそられ、『シルフィを守りたい』という想いを深めていただろう。


「すぐ泣く子だとは思うけど、狙ってはないんじゃない?」


「どう見ても狙ってただろ?クッキーだって、あれリアを怒らせようと思って作ってきたの、バレバレじゃん」


「私を?」


(どこを見てそう思ったのかしら?)


観察眼の鋭いテオドールがそう言うなら、そう思わせた何かがあったのだろう。


首を傾げるオレーリアに、はあ……とテオドールがため息をつく。


「あれ絶対、『そんなものを私に食べさせるつもり?』とかリアに言わせたかったに決まってるだろ?リアが意外と雑食だって知らなかったら、リアが高飛車だって噂を信じて『そう言うだろ』って考えるに決まってるじゃん」


「雑食って……」


ひどい言われようだ。

とはいえ、オレーリアは前世を思い出す前から、平民の食べ物にも興味を持っていた。

屋台のものを、通りを歩きながら食べている姿を馬車から見かけるたび、(あれ何かしら?やけにおいしそうに食べてるわね)と気になって仕方がなかった。


屋台の食べ物はニナは絶対に買ってくれないので、テオドールにこっそり買わせて、『こんな粗末な食べ物も悪くないわね』と食べていた。


前世を思い出してからは、平民の食べ物を見下す発言もしなくなったオレーリアだが、以前から貴族らしからぬものを好んでいたのは本当だった。

――雑食とまで言われたくはないが。


「それなのに、あんな女の手作りクッキーを素直に受け取った上に『おいしい』なんて言うから、当てが外れた顔してたじゃん」


言い出したら止まらないようだ。

テオドールが苛立ちを隠さないまま言葉を続ける。


「だいたい、『オレーリア様も生徒会室でお昼をご一緒したいとお話しされていたのに』ってなんだよ。どんな上から目線だよ」


吐き捨てるように話すテオドールに、オレーリアは黙った。

こういう時のテオドールに、『フェリクス様への手紙には書いてるけどね』などと言おうものなら、『そういう問題じゃないだろ?』と絶対に怒られる。

オレーリアの取り巻きは、時々厳しいのだ。


「あの女の虚言なのか、それともフェリクス様が本当に話していたのか――そこは確認しないといけないよね。どちらにしても、リアを侮辱する奴は相応の報いを受けるべきじゃない?」



(この子……悪役令嬢みたいなこと言うわね)


物騒なことを言い出したテオドールに、思わずオレーリアは彼を見つめた。


柔らかいミルキーなベージュ色の髪と、目尻の下がったトロリと甘いハチミツ色の瞳は、彼の父のヴェスター子爵とそっくりだ。

柔和な印象を持ち、世渡り上手なところも一緒だが、テオドールは口が悪い。


「テオ、不敬罪で捕まるわよ。少しはおじ様の物腰の柔らかさを見習ったほうがいいわ」


「父さんを見習ったら、もっとダメだろ?……そんなんだから、おじさんもリアのこと心配するんじゃないか」


『わかってないな』とでも言いたげに首を振るテオドールに、オレーリアは小さく息をつく。


「もう放っておいたらいいわよ。朝の会議で意見は伝えたし。あれ以上の意見なんてないから、会うこともないわよ」


フェリクスには十分に協力したつもりだ。

婚約解消前に『もし話題を振られたら』とシュミレーションしていた答えも、ちゃんと答えられた。前世を知らなかった頃の自分の想いは、今日で完全に消化したつもりだ。

もうこれ以上フェリクスに会う必要は本当にない。



「リア。とにかく、またフェリクス様が話を聞きたいって言ってきても、絶対に断りなよ。これまで散々リアを無視してきた上に婚約解消してるんだし、王子だからって、わざわざ会ってやる義理はないだろ?」


「分かってるわよ。私だって『傷跡を理由に、王子に復縁を迫った』なんて噂立てられたら心外だもの」


そう。ここは『氷冠の王子と翡翠の乙女』の舞台だ。

ヒロインとヒーローの邪魔をする悪役令嬢は、断罪される運命にある。


せっかく断罪の未来を免れたのだ。

再び同じ舞台に上がるつもりはない。

オレーリアは、二度と彼らには関わらないつもりだ。


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― 新着の感想 ―
テオドールも小賢しいな。 主人公を幸せにしてくれそうではあるけど。
頑張れ、テオドール。私はテオドール推しだよ。
主人公は主人公で危機感のないポンコツのようだからテオドールの心労が絶えないな
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