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よくある悪役令嬢だったはずなのに  作者: 白井夢子


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12/18

12.生徒会役員たちの来訪


朝の支度を終え、応接室へ向かったオレーリアは、会うなり目を見開いた訪問者たちを見て、内心でため息をついた。


(ほんと失礼な人たちよね)


今日はふいを突かれた訪問ではない。

療養中とはいえ、客を迎える準備くらいしている。

化粧もしているし、客を迎えるに相応しいドレスも選んでいる。


ただ、『療養中』という名目で休学している以上、仮病を疑われないよう、普段より少し控えめにしているだけだ。


『今日は体調が悪いので……』

そう言って、いつでも面会を切り上げられる程度の装いにしているが、普通のお茶会に参加しても何らおかしくないレベルだ。


今日のドレスは、左腕に残る傷跡が見えないよう、袖のあるデザインを選んだ。

その分、胸元まで大きく開いた華やかなものにすると、全体の印象がちぐはぐになってしまう。

だから大人しめなデザインのドレスになってしまったが、それでも繊細な刺繍が施された、一目で上質とわかる凝ったデザインのドレスだ。

そこまで驚かれる謂れはない。


「こんなに遠くまで、ようこそいらっしゃいました」


オレーリアはウンザリとした気持ちを隠し、微笑んでみせた。


どうせ今日限り、二度と会うこともない人たちだ。

何を思われたとしても、別に気にするほどではない。


もし後になって、『田舎にこもって、オレーリアも落ちぶれたものだ』などと噂する者がいたとしても、父が黙ってはいないだろう。

相応の報復を受けるだけだ。




「それでは早速ですが、お話を伺ってもよろしいでしょうか」


生徒会役員たちは、皆面識のある者たちばかりだ。


生徒会長のフェリクス。

その補佐を務めるディラン。

書記のシルフィ。


そして、副会長のセドリック・グランディエ侯爵令息。

宰相の息子であり、フェリクスの側近でもある。


生徒会の役員ではないが、朝早くに駆けつけたテオドールもいる。

面倒な挨拶はごめんだとばかりに、オレーリアは会議を促した。



「あの……!」


そこに可愛らしい声が割って入る。


「オレーリア様。私、ずっとオレーリア様のこと、誤解していました。本当に申し訳ありません……!」


瞳に涙をためたシルフィが、オレーリアを見つめていた。

胸の前で組んだ両手が、小刻みに震えている。


(……ふうん)


オレーリアも、じっとシルフィを見つめる。


窓から差し込む朝の光が、淡い金髪を柔らかく輝かせていた。

涙で潤んだ瞳は、みずみずしいシャインマスカットのようだ。

華奢な体を包むペールピンクのドレスも、色白の肌によく映えている。


(まさにヒロインって感じよね)


悪役令嬢を前に震えるヒロイン。

今さらながらに、ここが『氷冠の王子と翡翠の乙女』の世界なのだと実感する。


実はこれまで、オレーリアは直接シルフィに話しかけたこともない。

嫌がらせは取り巻きのテオドール任せだったため、まともに向き合う必要もなかった。


だが思い返せば、シルフィはオレーリアと視線が合っただけで怯える様子を見せていた。

エルザの流した噂が広まったのも、その反応があったからだろう。


(そんなことより早く会議ね)


『もういいわよ』

――オレーリアがそう声をかけようとした、そのとき。



「気にするとこ、そこなんだ?僕またてっきり、リアに助けてもらったお礼を言うんだと思ったよ」


そこにテオドールが口を挟んだ。


応接室の空気が、一瞬で変わる。

シルフィがサッと顔色を消し、俯いた。


「あの……私、あのとき動揺してしまって……」


涙を落とすシルフィの声が震えている。


(テオったら……)


テオドールは取り巻きの鏡だ。

まるで悪役令嬢に命じられた取り巻きのように、ヒロインを追い詰めている。


(まあ、お父様やテオが怒るのも分かるけど)


後で知った話だが――

『オレーリアは、シルフィを階段から落とそうとして、勝手に足を滑らせた』

転落事故の後、学園ではそんな噂が流れていたらしい。


それなのにシルフィは、オレーリアが自分を庇う形で階段から落ちたことを、調査が入るまで話さなかったらしい。

もし話していたら、そんな噂は流れなかっただろう。


けれど、オレーリア自身は、実際にシルフィを階段から突き落とそうと考えていたのだ。

だからその件に関しては、特に何も思っていない。

だが、両親やテオがシルフィをよく思っていないことを知っている。



とはいえ、ここは『氷冠の王子と翡翠の乙女』の世界なのだ。

この応接室には、ヒロインの絶対的味方である生徒会役員しかいない。

ヒロインを責める言葉は、断罪への道だ。

危険しかない。


「テオ。シルフィ嬢もこうして謝ってくれたし、過ぎたことじゃない」


「え?謝ってないじゃん。リア、謝罪の手紙も受け取ってないでしょ?」


忠実な取り巻きが、譲ろうとしなかった。


(そこを突くのね……)


確かにシルフィから、謝罪や感謝の手紙を受け取ってはいない。

だからといって、そんな呆れた目で見ないでほしい。



「フェリクス様も、生徒会を代表して謝罪してくれたんだし、もういいじゃない。この話はここまでよ。それより、早く会議に入りましょう?」


「お待ちください。フェリクス様の謝罪は、フェリクス様自身の謝罪です。生徒会でまとめられては困ります」


オレーリアが話を終わらせようとすると、またややこしい声が割り込んだ。


「セドリック様……」


ウンザリした気分で、オレーリアはその名前を呼ぶ。

見た目だけなら清涼感あふれる洗練された美形が、神経質そうに眼鏡を押し上げている。


「誰の謝罪でもいいじゃない。じゃあ、ディラン様の謝罪を、シルフィ嬢とまとめて受け取っておくわ」


「ディランの謝罪も、ディラン自身のものです」


(こういうところが嫌なのよ……)


セドリックは、フェリクスへの忠誠心が強く、王家の威光を汚す者を決して許さない。

疎ましがられてもなおフェリクスに付き纏うオレーリアにも、ことあるごとに苦言を呈していた。



そのセドリックが今はシルフィを見ていた。


「シルフィ嬢、あなたも生徒会に属する者ならば、礼節を守りなさい。さあ、オレーリア嬢に感謝と謝罪を」


生徒会役員はヒロインの絶対的味方だと思っていたが、意外にもセドリックは公平な男のようだ。

ヒロインの涙にも動じず、温度のない目で謝罪を促している。


(……ふうん)


ほんの少しだけ、セドリックを見直した。

だが、こんなことに時間を無駄にしたくない。


「オレーリア様。あのときは助けていただいて、ありがとうございます。動揺して真実をすぐにお話することが出来ず、申し訳ありません……」


ようやく口にされた感謝と謝罪に、オレーリアはすぐに言葉を返した。


「感謝と謝罪を受け入れます。では会議を始めましょうか」


ようやく本題に入れる。

オレーリアは安堵しながら議題を促した。



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― 新着の感想 ―
シルフィはヒロインじゃなくってヒドインくさいね…。そしてフェリックスとオレーリアの元サヤは反対だなぁ(迷惑系ヒーローチック)
テオドール最強説。
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