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よくある悪役令嬢だったはずなのに  作者: 白井夢子


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11/28

11.訪問を告げる手紙


「なんでそんな話になってるんだよ」


「私が聞きたいわよ」


週末に顔を見せたテオドールに、オレーリアは口を尖らせる。

テーブルの上には、今朝フェリクスから届いた手紙が置かれていた。


『来週末に伺わせてもらおう』


手紙にはそう綴られている。

来週末フェリクスは、生徒会役員たちを引き連れて、この別荘までやってくるらしい。


()婚約者だろ?そんなの断ったらいいじゃん。『療養中』のリアのとこに、生徒会の連中まで引き連れて来るなんて、頭おかしいんじゃないか?」


「テオ、あなたね……」


テオドールが不敬な言葉を口にしていた。

だが、その気持ちは少し分かる。

ウンザリした気分で、はあ……とオレーリアはため息をついた。


「私だって、断れるなら断りたいわよ。でも、王宮の馬車でのお迎えも、生徒会室への招待も、宮廷医の派遣の申し出も断ったのに、『ここにも来ないでください』なんて言えるわけないでしょ。来るって言うなら、まだそれを受け入れた方がマシじゃない」


「なんで『二度と顔も見せるな』って言ってやらなかったんだよ」


「ちょっと……」


悪役令嬢でも口にしないようなセリフを、テオドールが平然とした顔で言ってのけている。

思わず、信じられない者を見る目でそんなテオドールを見つめた。




そもそもこんなことになったのは、フェリクスとの別れ際のやり取りが原因だった。


あの日オレーリアは迂闊にも、今年の生徒会の研究テーマを口にしてしまった。

話題を逸らすための何気ない一言だったのに、それがフェリクスの興味を引いてしまったらしい。


『創立記念祭前に、オレーリア嬢の意見を聞かせてくれないか?他国の王族も招く、国にとっても大事な報告会になるんだ。ここに迎えを寄越すから、生徒会の会議に参加してほしい」


フェリクスにそう頼まれたのだ。

もちろん考えるまでもなく、オレーリアは即座に断った。


『私の意見など本の受け売りですし。それに療養中の身ですから』


そう答えた直後、ここまで普通に歩いていたことを思い出した。

慌ててオレーリアは言い訳を重ねる。


『こうして廊下を歩くぶんには大丈夫ですが、階段などの移動はまだ主治医からも止められておりまして。王都の屋敷では不便があるので、まだ戻れませんの』


そう言って残念そうに微笑んでみせた。


もちろん、以前のオレーリアだったら違っただろう。


『フェリクス様のために学んだ甲斐があったわね。やっぱり私が王妃に相応しいわ!』と、その申し出に歓喜して、張り切ったかもしれない。


だが、フェリクスとの関係はすでに切れている。

彼は元婚約者であり、今はただの他人だ。

研究の成果に興味はあるが、父やテオドールに後に話を聞けばいいだけだ。

生徒会に協力する義理もなければ、積極的に関わりたいとも思えない。



上手く断った――つもりだった。

だが、そこからが長かったのだ。


『王都にいる間、王宮に滞在すればいい。不便のないよう、手配しよう』


『やはり宮廷医を付けよう。ローゼンベルク公爵家の医師はもちろん優秀だろうが、医者を変えればまた別の治療法があるかもしれない』


そう言って粘られたのだ。

もちろん、それも丁寧にお断りした。


だが――


『生徒会室は学園の最上階だが、私が腕を貸そう』


さらにかけられたそのひと言に、思わず戸惑いの目でフェリクスの全身を見つめてしまった。


この世界は、ネット小説『氷冠の王子と翡翠の乙女』の世界だ。

ヒーローのフェリクスは、背が高く、スラリとしたスマートな体型をしている。


エンディングシーンでは、夜会でヒロインのシルフィに腕を貸し、会場の階段を降りるシーンもあった。

それは二人が結ばれることを象徴するような場面だった。


だが、オレーリアはシルフィではない。

優雅にエスコートされるヒロインではなく、階段から転落した前科のある悪役令嬢である。


オレーリアにとって、階段は鬼門だ。

あの日のように、また足を踏み外してしまったら――


そうなればフェリクスまで巻き込んでしまうかもしれない。

王家の者に怪我を負わせるなど、それこそ断罪への道を自ら進むようなものだ。


それにもし、二人して階段から転落すれば、たとえディランが受け止めようとしてくれたとしても、優先されるのはフェリクスだ。

フェリクスが無事だったとしても、今度こそオレーリアは無事では済まない。


(怖いわ……)


そんな思いが、顔に出てしまったのだろうか。

表情を消したフェリクスが、ディランに視線を送った。

そして『もちろんディランでもいいが』と声をかけたのだ。


オレーリアは何も答えられないままに、沈黙が広がった。


氷原のように冷たいペパーミントグリーンの髪が、夜風に揺れていた。

涼やかな夜風すら凍らせそうな色だった。


『では、生徒会の者たちとここへ伺わせてもらおう。それならいいだろうか』


やがてかけられた声に、オレーリアは頷くことしかできなかった。


――決して、快くフェリクスの申し出を受け入れたわけではない。


それから数日後の今日、早速フェリクスからの手紙が届いたというわけだった。




呆れた目を向けて来るテオドールに、オレーリアは口を開く。


「しょうがないでしょ。フェリクス様を巻き込んで階段から落ちたら、どう転んでも私の未来はなくなるもの。だからといって、あの場で『ディラン様なら安心ですね』なんて、誰が言えるのよ」


「なんの話だよ。だいたいそんな申し出、『もう婚約者じゃないから関われません』って、はっきり言えばいいだけじゃん。


「ああ……まあ、そうね」


あのとき、あまりの冷たい空気に耐えられなくて、つい頷いてしまったが、そもそもフェリクスからの申し出は、はっきり断っても問題はなかった。


学園を休学して療養している者の領地まで、生徒会役員たちを連れて訪ねてくるのは、普通に考えれば少し行き過ぎた対応だ。


それに、フェリクスにまとわり付くオレーリアを、疎ましく思っていた者がいることも知っている。

当時は――というより、今もそれは気にならないが、わざわざ別荘にまで迎え入れたい相手ではない。


だが、今さらだ。

こうして訪問を告げられる手紙を受け取ってしまった。


「まあいいわ。どうせちょっと話を聞くくらいでしょう?」


そう言って、肩をすくめる。

とにかく、面倒なことにならずに終わらせるつもりだった。



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― 新着の感想 ―
え、王子うざ…療養中だっつってんだろ!
なんだろ、鬱陶しい…女々しいやつだ 嫌だって断ってるやん、何度も何回も しつこすぎて好感度ダダ下がりやで そして護衛くんも止めなよ
 やはり『公爵の後ろ楯』は欲しいよな。今まで塩対応してたのに、今さら通うんだ。そういうことだろ?
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