第六章 10
「くっ……卑怯な!わたしの体を拘束するとは……!」
アシカガは身動きの取れないまま、悔し紛れに叫んだ。
「はっ!お前の口から“卑怯”なんて言葉が出てくるとは思わなかったぜ!」
ケイタが、すかさず怒鳴り返す。
だが当のルカは、そんな言葉などまるで気にしていない様子だった。
「あっ、ごめん!」
ルカは、軽く手を合わせるような仕草を見せる。
「もう、こっちの用事は済んだから――自由にしていいよ?おじさん」
そう言って、指を――
「パチッ」
と鳴らした。
その瞬間、アシカガを拘束していた見えない力が、ふっと消える。
「――っ!?」
急に自由を取り戻したアシカガは、妙な体勢でぐらりとよろめいた。
「と、突然に自由にしないで下さい!」
意味不明な抗議が飛ぶ。
「……なんだそりゃ」
ケイタが呆れたように眉をひそめた。
そんなアシカガを前に、ルカは何事もなかったように横へ顔を向ける。
「じゃあ、ベルプリ!やっていいよ!」
「はっ!!!」
ベルナード・プリンスが、即座に一歩前へ出た。
だがその返事の直後、ベルナード・プリンスがふと首を傾げる。
「……べ、ベルプリ?」
「ああ……ベルナード・プリンスって、ちょっと長くない?」
「はっ……しかし、それはベルナ様より頂いた……名前……」
「えっ……気に入らないの?」
「いえっ!」
ベルプリは、やや慌てたように姿勢を正した。
「二つ目の名前まで頂き、恐縮です!!!」
「じゃあ、早くやってくれるかな?」
ルカは、ちょっと不機嫌に笑う。
「ベルプリ!!!」
「はっ!!!只今!!!」
そのやり取りを聞きながら、ケイタは心の中でそっと思った。
(……ルカって、意外に短気かも……?)
次の瞬間だった。
ベルナードたち十体が、一斉にケイタたちの周囲へ展開する。
無機質な動きで空間を囲み、その場一帯に巨大な結界が張られた。
透明な壁のようなそれが、周囲に満ちていた干渉エネルギーを完全に遮断していく。
空気が変わる。
重く、ざらついていた感覚が、一気に薄れていった。
(うう〜ん……?ケイタ……?)
「おっ!」
ケイタが気がつく
「ライム!大丈夫か?」
(う〜ん……僕は大丈夫だけど……なにが起こってるの?)
「まあ、色々あってな!」
ケイタは苦笑しながら肩をすくめた。
「とりあえず、形勢は逆転したみたいだ!」
(あっ……なんか、ルカの気がおかしいね!)
「まあ、そのおかげで逆転したんだよ」
ケイタは軽く笑ってから、すぐに表情を引き締めた。
「それより、早速で悪いが……調子はどうだ?」
(うん!もう普通の状態だよ!)
(なんでもやれる!)
「そうか」
ケイタは、口元を少しだけ上げる。
「じゃあ、とりあえず――アーマード・フレーム!いけるか?」
(うん!問題ない!やれるよ!)
その瞬間、ケイタの全身がぐにゃりと揺らいだ。
液体のように変化した体が、急速に形を取り戻していく。
装甲。
骨格。
外殻。
細部まで精密に組み上がっていき――
やがて、アーマード・フレームが完成した。
「ルカ!」
ケイタが軽く拳を握る。
「このシールド内だったら、いつも通りやれそうだ!」
「うん、良かった!」
ルカは嬉しそうに笑った。
だが、そのまま首を傾げる。
「でも……ベルプリたちで問題ないと思うよ?」
そして、振り向く
「狐白くん、だったっけ?」
「ミイアを頼めるかな?」
〝ココン!〟
白い子狐が、ぴしっと姿勢を正す。
(はいっ!分かりました! お任せください!)
「じゃあ、ケイタ!」
ルカはアシカガの方を見ながら言った。
「ベルプリたちの様子を、二人で見ていよう!」
「そうか?」
ケイタは一瞬だけ迷ったが、すぐに肩の力を抜いた。
「じゃあ……そうするか」
ケイタとルカは並んで立ち、そのまま戦況を見守る。
――しかし。
事態は、一瞬だった。
ベルナードたちが放ったエネルギーの拘束縄が、一斉にアシカガへと襲いかかる。
「えっ、ちょっ……!」
その巨体は、みるみるうちに絡め取られ――
気がつけば、文字通りの“ぐるぐる巻き”になっていた。
そして今、そのままケイタたちの目の前へ転がされている。
「……早っ」
ケイタが、ぽつりと漏らす。
「あのっ……話し合いませんか?」
転がったままのアシカガが、必死に顔だけを動かした。
「あなた方の、お役に立てると思います……」
どうやら、口だけは自由らしい。
その時。
ベルプリが、ルカの隣に静かに膝をついた。
「あと、ご報告致します」
「巨大魔獣も――只今、すべて殲滅致しました」
「そう……ありがとう」
ルカは、落ち着いた表情で小さく頷く。
それから、ケイタへ顔を向けた。
「ケイタ。これで、とりあえず終わりかな?」
「そうだな……」
ケイタはようやく、大きく息を吐いた。
「あと、ミイアの体を手に入れれば……終了かな……?」
その言葉には、少しだけ安堵が混じっていた。
――だが。
「……ん?」
ルカが、転がされたアシカガを見て首を傾げる。
「ケイタ?なんか、あのおじさん……変なんですけど?」
「えっ?変なおじさん?」
ケイタも視線を向ける。
アシカガは、相変わらず転がったままだった。
だが――
その目が。
白目をむいていた。
「……おい」
ケイタの声が、わずかに低くなる。
「なんだ……?」
転がったまま。
まるで、何かに中から書き換えられるように――
アシカガの気配が、じわりと変わり始めていた。
――
新たな活動報告があります!
ぜひ、ご参照ください




