第六章 9
「さてと……これは、どうしたものか……」
ケイタは、じわりと額に冷や汗をにじませた。
陽摩羅は消えた。
その場に残されたのは、ちょこんと座る白い子狐――狐白だけ。
ミイアも限界が近い。
ケイタ自身も、腕はもはや腕の形をしていない。
その状況で、再び立ち上がったアシカガが、目の前にいる。
どう見ても、楽観できる状況ではなかった。
――だが。
「ケイタ! ここは、僕に任せてくれる?」
その声は、不思議なくらい穏やかだった。
「……ルカ?」
振り向くと、ルカは焦った様子もなく、ニコッと微笑んでいた。
そして、ケイタたちの前に一歩、歩み出る。
「あの……チビっ子?」
アシカガが、呆れたように目を細めた。
「あなたが、何かするのですか?」
ルカは答えず、静かに片手を開き、アシカガへ向けた。
「ごめん! とりあえず、僕が準備をする時間をもらうよ?」
その瞬間だった。
ルカの掌から、見えない何かが、ほとばしるように放たれる。
空気が、わずかに震えた。
「グフフフフッ、残念ですが……」
アシカガが、右手の剣を振り上げようとする。
「私は、チビっ子にも容赦はしませんよ!」
――だが。
その巨体は、ぴくりとも動かなかった。
「……グフフッ?」
アシカガが、間の抜けた声を漏らす。
「えっ……何? なんで?」
「……え?」
ケイタも、目を見開いた。
アシカガの体は、その場に縫い止められたように、完全に静止していた。
ルカは、その前で攻撃するでもなく、静かに目を閉じた。
まるで、戦闘中とは思えないほど落ち着いた様子で、精神を集中させている。
「ル……ルカ?」
「ケイタ! しばらく待ってて!」
ルカは、目を閉じたまま微笑んだ。
「ミイアを頼むね!」
そう言い残し――
次の瞬間。
ルカの体内から、凄まじい量のエネルギーが一気に噴き上がった。
「――っ!?」
ケイタが思わず息を呑む。
ルカの全身が、眩い光に包まれる。
その輪郭が、ゆっくりと変化していく。
背丈が少し伸びる。
細い身体に、どこか研ぎ澄まされたような鋭さが宿る。
そして、光が静かに収まった時――
そこに立っていたのは、少し大人びた姿のルカだった。
「ベルナ、聞こえる?」
その声は、さっきまでよりも、どこか落ち着いていて、よく通る。
すると、すぐに頭の中へ返事が響いた。
(はいっ! ルカ! ベルナは、よく聞こえている!)
「ここに、ガーディアンを何体かよこして欲しいんだけど?」
(了解した! ルカ、覚醒は成功した様子!)
(ベルナは、嬉しい!)
「ありがとう! じゃあ、急いでくれる?」
(わかったルカ! ベルナード二十体と、ベルナード・プリンスを送る!)
「……ベルナード?」
ルカは、わずかに首を傾げた。
その直後だった。
ルカの頭上の空間が、大きく歪んだ。
そして――
次々と、ガーディアンたちが現れる。
重々しい気配をまとった複数の存在が、空間から降り立ち、ルカの背後に整然と並んだ。
さらに、その中でもひときわ異質な一体が、ルカのすぐ脇へと降り立つ。
一歩前に出て、深く一礼した。
「マイロード!」
低く、だが誇りに満ちた声が響く。
「お呼びにより、ベルナードとワタクシ、ベルナード・プリンス――参上致しました」
「……あっ」
ルカが、少し驚いたように瞬きをする。
「キミたちが、“ベルナード”っていう名前なんだね?」
「はっ!」
ベルナード・プリンスは、胸に手を当て、うやうやしく答えた。
「ベルナ様より頂きました、尊き名でございます!」
「そうか……わかったよ」
ルカは、小さく頷いた。
そして、すぐに表情を引き締める。
「あのね。まず十体で、この場所に結界を張って欲しい」
「はっ!」
「それで、キミと残りで……」
ルカは、指先をすっと伸ばした。
その先には――
未だ動けぬまま、目を白黒させているアシカガ。
「あのおじさんを、無力化して欲しい」
「――マイロード!」
ベルナード・プリンスの声が、ひときわ力を帯びる。
「初仕事、ありがとうございます!」
「完璧に、やり遂げてご覧に入れます」
その言葉と共に、深く頭を下げる。
その瞬間。
ケイタはようやく理解した。
――ルカはもう、守られるだけの存在じゃない。
この場を、動かす側に立ったのだと。
――
新たな活動報告があります!
ぜひ、ご参照ください




