第六章 7
視界が歪む。
地面が、遠くなる。
――立っている感覚すら、曖昧だった。
「グフフフフ……これはこれは……いい顔してますねぇ〜?」
アシカガが、ゆっくりと歩み寄る。
その足取りには、もはや一切の警戒がない。
完全に――勝ちを確信した者の動きだった。
「さぁて……どうします?もう後ろは壁ですよ〜?」
嘲る声。
だが、ケイタは歯を食いしばる。
「……まだ……終わってねぇ……」
そのとき――
「そう……まだ、終わって……ない……」
かすれる声が重なった。
「ミイア……?!」
彼女の身体が、淡く光る。
不安定な光。
それでも、確かに意志を持った光だった。
「これで……少しは……守れる……から……」
次の瞬間、透明な膜が展開される。
ケイタとライムを包み込むように、優しく、しかし必死に。
だが、その代償は明らかだった。
ミイアの膝が崩れる。
支えきれない。
「ミイア!やめろ……無理すんな……」
だが、彼女は微かに首を振った。
そして――そのまま、意識を失う。
「ほぉ〜……まだそんな力が残っていましたかぁ」
アシカガが、楽しげに膜へと触れる。
軽く、叩く。
パキン――
小さな音。
だが、それは確実な“限界の音”だった。
「ですが……これは、壊れる前提のものですねぇ〜?」
今度は、少しだけ力を込める。
ヒビが広がる。
遊ぶように。
壊すことを楽しむように。
「さぁて……そろそろ、終わりにしましょうかねぇ!」
アシカガの手に、巨大な光が集まり始める。
圧縮されたエネルギー。
それは、ただの攻撃ではない。
――“消滅”そのものだった。
「これで……終わりです」
振り下ろされる、その直前。
――ドォォォォォォンッ!!!
背後から、さらに巨大な光が奔った。
「なっ……!?」
直撃。
アシカガの身体が、地面を削りながら吹き飛ぶ。
衝撃が空間を震わせ、干渉の流れすら一瞬、押し返される。
煙の中。
ゆっくりと、二つの影が現れる。
「どうやら……間に合ったかの」
静かな声。
だが、その一言で――空気が変わる。
濁っていた干渉が、わずかに退く。
「えっ、陽摩羅……?!」
ケイタの声が、かすれる。
その隣には、ルカ。
そして前に立つのは――
完全なる戦闘存在。
陽摩羅。
「このデブは、我が引き受けよう……」
淡々とした言葉。
だが、それは宣言だった。
「ルカ、お主はミイアとケイタを見てやれ」
「……わかった!」
ルカは即座に動く。
迷いはない。
ケイタ達のもとへ駆け寄る。
「さて……」
陽摩羅が、わずかに口元を緩めた。
「お主は少し、遊んでやろうかの?」
次の瞬間。
――視界から、消えた。
「え――?」
ケイタが反応するよりも早く、アシカガの身体が、宙に浮く。
「なっ……!?い、いつの間に……!」
叩き落とされる。
地面にめり込む。
引き上げられる。
再び、叩きつけられる。
その一連の動きに、“間”がない。
完全な支配。
「グフッ……!?な、なんだ……これは……!」
反撃は許されない。
思考すら追いつかない。
ただ、蹂躙される。
それを、陽摩羅は淡々と繰り返す。
まるで――本当に“遊んでいる”かのように。
そして。
「どうじゃ!楽しいか?」
「それともそろそろ、終わるか?」
「お、お前は何者?」
「なんで……こんな事が……」
「おおっ!名乗っておらんかったの?」
「我は、陽摩羅じゃ!」
「なんで、こんな事が?……」
「それは、お主が弱過ぎるからじゃ?」
「他に、質問はあるか?」
柔らかな微笑。
だが、その裏にあるものは、絶対的な終わり。
「あっ、あの……話し合いませんか?」
「わたくしは、あなたのお役に立てると思います」
アシカガは、卑屈な微笑みを浮かべた
「そうか?役に立ちたいか?」
「ならば、さっさと消えるがよい!」
と、陽摩羅は冷酷な微笑みを浮かべた……
しかし、その瞬間――
――ぽん。
間の抜けた音が、響いた。
「……ええっ?」
ケイタの口から、素の声が漏れる。
そこにいたはずの陽摩羅の姿が――
その空間から、消えていた。
――
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