第四十一話 執事シリウス
石畳を踏みしめる足音が、薄暗い通路に響く。
アルとカリナは互いに頷き合い、ゆっくりと中級ダンジョンの入り口を進んでいった。
「……ここが、中級ダンジョン」
カリナが息をのむ。目の前には黒々とした岩の門。その奥には、迷宮のように入り組んだ洞窟が待ち受けている。
そう、俺たちはダンジョンにきていた。
「初級はもう、俺らは余裕で突破できる。次の段階に挑まなきゃならない」
アルの声は静かだったが、その瞳の奥には決意の炎が宿っていた。
冒険者ギルドで得た情報によれば、このダンジョンは「中級」とはいえ比較的入りやすい部類に入るという。それでも、初級とは格が違う。強力な魔物が出現するだけでなく、環境そのものが冒険者を苦しめる。
「いきましょ、アル」
「だな。俺たちならいける」
二人は松明を掲げ、石壁に沿って進んでいった。
時折、蝙蝠のような魔物が天井から舞い降りてくるが、カリナの剣とアルの剣があれば問題はない。
それでも、心の奥には微かな不安が渦巻いていた。
――本当に、俺たちだけで進んでいいのか?
でも強くならないと。強くなって家族を守る為に自分の為にも、魔王を倒さなくちゃいけない。
汗を拭いながら進んだその先で、空気が変わった。
通路が広がり、大きな空間に出る。奥には禍々しい気配が漂っていた。
「アル……来るわ」
いつもの自信があるような声ではなく震えるような声でカリナが言う。
次の瞬間。
巨大な影が、闇の中からゆっくりと歩み出てきた。
大空洞に満ちる気配は、冷たい刃のように肌を刺した。
黒い霧がゆらめき、奥から現れたのは――二本の角を戴き、鋭い双眸を持つ鬼だった。
その体躯は三メートルを超え、岩のように厚い筋肉が盛り上がっている。その姿はただ野蛮な獣ではなかった。俺ら人から取ったと思われる服をきていた。
「ひっ……!」
カリナは思わず一歩後退した。
その視線は、鬼の双眸に吸い込まれそうな感覚に囚われていた。
鬼はゆっくりと一礼し、低く響く声で言った。
「……いただきます」
「カリナ!逃げよう!」
鬼だ。鬼なんて強さは未知数だ。少なくとも強い種族に決まっている。それも喋っている。それだけ知能数も他とは一線を越える事が分かる。命を取られてはダメだ。
「ふっ、雑魚が」その鬼は金棒。いや人の骨。背骨を手に持っていた。それを投げてきた。それは反応できないくらいに。
でも分かる。俺はもう終わったのだと。カリナは手に剣を持っているが、怖くて動けなくなってしまっている。しょうがないだろう。あんな生き物怖くてしょうがない。でも今は怖いなんてないな。だって死ぬと心が告げていたから。
「やっと見つけました。ご主人様」とものすごく早く飛んできていた、骨をすっと止めた。それは出来て当たり前のように。
アルは剣を構えた。背筋に冷たい汗が流れる。
「俺を……待っていた?」
「ええ。ですが、まずは――」
その瞬間。
大地が揺れ、別の咆哮が洞窟を震わせた。
その鬼が本気で牙をむき、俺らに襲いかかろうとしていた。鬼はとてもさっきとは思えないような鬼の形相でこちらに向かってきた。まぁ鬼だから鬼の顔してて当たり前だけど。
「アルッ!!」カリナが叫ぶ。
漆黒の影が、すっと二人の前に割り込んだ。
「お下がりください、ご主人様」
白い手袋の拳が振るわれた。
轟音と共に、魔獣の巨体が宙に舞い、岩壁に叩きつけられる。衝撃で壁が砕け、粉塵が舞った。
「な……」
アルは言葉を失った。
目の前の白い執事のような服を着た男は爽やかな顔で、わずか一撃で魔獣を無力化していた。
カリナが小声で呟く。
「強すぎる……」
柔らかく微笑んだ。
「私の名はシリウス。ご主人様――どうか、私にお仕えさせていただけませんか?」
そして岩壁に叩きつけられた魔獣は呻き声ひとつ残さず崩れ落ちていた。
シリウスは手袋の皺を正し、背筋を伸ばす。まるで「埃を払った」程度の所作にすぎないとでも言うように。
「……今のを、一撃で……それよりもさっきの話しもう一度話してくれたって」
アルは喉の奥が乾くのを感じた。
目の前の男、ただの怪物ではない。力だけでなく、気品と理性を兼ね備えている――だからこそ、余計に得体が知れなかった。
「ご主人様」
シリウスが再び、静かに頭を垂れる。
「私は、あなたにお仕えしたいのです。主に仕えるのは、執事としての当然の務め。」
「……なぜ、俺なんだ」
アルの声には戸惑いと警戒が混じっていた。
「どうして、俺の執事なんだよ。お前ほどの力があれば、誰にでも従わせられるだろ。」
シリウスは口元に笑みを浮かべた。その笑みは人間のものに似ていながら、どこか底知れぬ闇を孕んでいた。
「将棋をご存じですか、ご主人様」
「……? ああ、多少は」
唐突な問いに、アルもカリナも眉をひそめる。カリナは将棋?とぽかんとしていた。
「王将がいかに尊くとも、歩がなければ戦は始まりません。
飛車や角は強力ですが、ただ盤に置かれただけでは何もできない。
――しかし歩は違う。たとえ一マスずつでも、確実に進み、最後には成ることもできる」
シリウスの瞳が赤く燃える。まぁ元々目は赤いのだが。
「貴方様はその“歩”でもあり、王でもありるのです。」
まだ盤の端に置かれた、無名の一歩にすぎない。ですが――ゆえにこそ、王を脅かす存在になり得る」
「そして、貴方様に私が仕えさせていただきます。だから私から見れば貴方様は王将なのです。」
アルの胸がざわついた。
まるで自分の未来を見透かされたかのような言葉に、言い返す声が詰まる。
「……俺を、利用するつもりか」
「利用などとは。むしろ逆です」
シリウスは片膝をつき、執事の礼を捧げた。
「私はあなたの力となり、盤を整えましょう。私は金将、アルタイル様の右腕。私はあなたが歩を進められるように手を貸すまでです。」
「助けてくれたことには感謝はしているが、誰が仕えていいなんて言ったんだ」
カリナが息を呑んだ。
「アル……危ないわ。こいつ、絶対にただの執事なんかじゃない」
アルは剣を握り直し、赤い瞳を睨み返した。
「……答えは今出せない。俺はお前を信用できない」
シリウスは一度目を伏せ、やがて愉快そうに笑った。
「ええ、それでよろしいでしょう。疑いを持てる者こそ、主にふさわしい。ですが――今決めて欲しいのです。」
「だからな、怪しすぎるんだよ」
「そうですか、なら約束しましょう。魔王を倒すための手伝いをすると」
「おいおい、なんで魔王を倒そうとしてることを知っているんだよ」
「ふむ。それは、貴方がそういう運命であるからですよ。魔王を倒すのでしょう?私がいると役に立ちますよ。英雄の居場所だって知っていますし」
その言葉は、洞窟の奥深くまで静かに響き渡った。
「ほんとに英雄の場所を知っているのか?」
「はい!」とにこにこしながら答える。
「信じていいかは分からないが、まぁ信じてみても…..いいのか?」
「信じましょう。アル。魔王を倒せるんだったらこいつを信じましょう(利用しましょ)」
「あ、あぁ。カリナがそう言うんだったら」
「では!明日英雄を見つけにいく為にも今日ちゃんとしっかりと寝て下さいね!また明日夜にここ集合という事で」と爽やかにふざけんな発言をした。
「はぁー〜!」と俺とカリナは同時に言った。
「無理に決まってるでしょうが!」
「流石に学校があるんだが、俺らには」
こんな早くは無理だ。せめて夏休みとかその時にして欲しい。
「ですが、早くしないとその英雄は死んでしまうのですよ。」
「なぜそう分かるんだよ?」
「それは……まぁ老人ですし、そろそろ死ぬと思うので」
「は?」俺は素直に問いかけた。
「ですので、とにかく早めに行きましょう。そうしないと英雄に手を貸してもらえませんよ?そしたら結構な痛手です」
そこからシリウスの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。だがそれ以上は何も言わなかった。
俺らは流石に怪しすぎるということで明日返答すると言い、帰ることにした。
――ダンジョンを出ると、夕暮れの光が差し込んでいた。
赤紫に染まる空の下、湿った風が頬を撫でる。
「帰ろう、今日はもう疲れた。明日考えよう」
アルの言葉に、カリナは小さくうなずいた。
その後ろで、シリウスは一歩下がり、執事のようにお辞儀する。
ーー
「ふふふ、才能の種というのは水や日光に照らされないと成長はしない。私はその種(アル様)を肥料として手助けをしてあげるのです」
シリウスはそう独り言し、とても悲しむような顔をしながら姿を消した。
どうも葛西です!
最近書くペースが遅くなってしまいました。特に勉強をやらないといけないのでそれで少し。全然時間は作れるんでけどね笑
余談はこのくらいにして、シリウスという新しいキャラを出しました!いゃ〜怪しいですよね!
まぁどこか嘘ついていますからね!嘘よりも思惑に近いかもなー。
読者の皆様色々とよければ考えてみてください!
次回はアルがどの選択をするかですね!
では次回でまた会いましょう!




