7日目その2
時刻はまだ少し早い。
俺は宿泊棟の屋上から、駐車場を歩く野良ゾンビを一体ずつ狙う。
ヒュン。
ドスッ。
ヒュン。
ドスッ。
「経験値、経験値。」
「一体でも減らしとけば後が楽だ。」
今回の戦場は宿泊棟前の広い駐車場。
宿泊棟そのものは頑丈だ。
トラップも十分。
交代で休める部屋もある。
長期戦にも対応できる。
俺は深呼吸をした。
「……さぁ。」
「始まるぞ。」
「気合い入れ直すか。」
その声に、みんなも武器を握り直した。
瑠奈が笑う。
「頑張ろうね。」
日向が胸の前で手を握る。
「絶対に生き残るわ。」
寧々は肩の文鳥へ微笑む。
「頑張ろうね、ぴーちゃん。」
ぴーちゃんは胸を張った。
「んむ。」
みゃー子が俺を見て、少しだけ笑う。
「迅。」
「あんまり気張ると失敗するぞ。」
「……了解。」
肩の力が少し抜けた。
今井はさらりと言った。
「あと。」
「迅君。」
「終わったら、いろいろ話があるわ。」
「?」
「わかった。」
その返事を聞いた瞬間。
「「「「わ、私たちも話があるわ!!」」」」
瑠奈。日向。ミャー子。寧々。
さらには、他の女子たちまで一斉に声を上げた。
「???」
俺は首をかしげる。
「わ、わかった。」
(……何だ?)
(何かやらかしたか?)
そんなことを考えていると。
ぴーちゃんだけがニヤリと笑った。
「くくく、今宵の戦いは。」
「ゾンビより、その後の方が修羅場かもしれんな。」
「……どういう意味?」
「終われば分かる。」
その意味を理解できた者は。
その場には、誰一人としていなかった。
神谷迅
夜。
赤い月は空高く昇っている。
「……。」
俺は弓を構えたまま、駐車場を見つめる。
来ない。
ゾンビが。
「……あれ?」
五分。
十分。
二十分。
何も起こらない。
「どうしてだ?」
ラッシュなら。
今頃、大量のゾンビが走ってきてもおかしくない時間だ。
日向が首をかしげる。
「来ないね。」
寧々も不思議そうだ。
「おかしいですねぇ。」
ぴーちゃんは羽を整えながら呟く。
「んむ。静かだ。」
ルナは弓を下ろした。
「なんだか拍子抜けだね。」
緊張していた空気が、一気に緩む。
その瞬間だった。
全員の視線が俺に集まる。
「……。」
「……。」
「……。」
「な、何?」
妙に痛い。すごく痛い。
「いや。」
「こんなの俺のせいじゃないと思うんだが……。」
ゲームでそうだっただけで。
俺がゾンビを操ってるわけじゃない。
屋上の隅から笑い声が聞こえた。
「ははは。」
振り向くと。
佐々木と綾音が並んで座っていた。
綾音が佐々木の肩へ寄りかかり。
佐々木は照れ臭そうに笑っている。
「綾音。」
「疲れてない?」
「大丈夫。」
「でも肩貸して。」
「はいはい。」
佐々木と綾音が、完全に二人の世界へ入っていた。
「結局来なかったな。」
「そうね。」
「でも、こういう平和なのも悪くないわ。」
「はは。」
「今日は安心して眠れそうだ。」
イチャイチャ。
イチャイチャ。
俺はその光景を見つめる。
(……。)
(…………。)
(………………。)
「死ね!」
思わず本音が口から飛び出した。
佐々木が振り返る。
「何で!?」
「幸せそうだから!」
「理不尽すぎる!」
綾音が吹き出す。
「ふふっ。」
「神谷も誰か誘えば?」
すると今井が腕を組んだ。
「迅。」
「はい。」
「睡眠不足は、お肌の天敵なのよ?」
「……はい。」
「健康にも悪いわ。」
「……はい。」
「責任を取ってもらわないと。」
「え?」
その一言を皮切りに。
瑠奈が便乗する。
「そうだよ!」
「無駄に緊張したじゃん!ずっと弓構えてたんだから!」
「肩も腕も疲れちゃったよ、マッサージしてもらわないといけないよ。」
「責任とってマッサージを希望する。」
日向も頷く。
「交代で休めるように食事まで準備までしたのに。」
「勿体ないおばけがでちゃうよ、責任とってもらわないと」
寧々も困ったように笑う。
「今日は早く寝られたかもしれませんねぇ。」
みゃー子が両手を腰に当てる。
「責任取って!」
「だから!」
「俺のせいじゃないって!」
神谷の必死の抗議も虚しく。
女子たちは口々に文句を言い始める。
「ティラミス追加ね。」
「いいわね。」
「私はプリンも。」
「お肉も食べたいですぅ。」
「温泉も欲しい!」
「それは無理だ!」
神谷は思わず叫ぶ。
そのやり取りを見ていたぴーちゃんが、小さく笑う。
「くくく。」
「ゾンビより恐ろしいのは。」
「女子の集団である。」
「まこと、その通りだな。」
その夜、メガマートは、ゾンビではなく女子たちの笑い声に包まれていた。
神谷迅
「結局。」
「今日は何もなかったね。」
瑠奈が大きく伸びをする。
「拍子抜けだったわ。」
今井も眼鏡を外し、小さく息を吐いた。
「少し警戒しすぎたかしら。」
「まぁ。」
「何もないなら、それが一番だよ。」
日向が笑う。
宿泊棟の屋上は、ようやく穏やかな空気に包まれ始めていた。
俺も肩の力を抜く。
(……ゲームと違ったか。)
(まぁ、その方がいい。)
誰も傷付かないなら、それでいい。
そう思った。
その時だった。
――ズシーーン。
「?」
足元がわずかに揺れる。
――ズシーーーン。
まただ。
しかも今度は、さっきより大きい。
「地震?」
寧々が不安そうに辺りを見回す。
ぴーちゃんは首を横に振った。
「違う。何かが歩いている。」
――ズシーーーン。
――ズシーーーン。
振動は規則正しく。
確実に。
こちらへ近付いてきていた。
屋上にいた全員が笑顔を消す。
「……迅。」
今井が真剣な声で呼ぶ。
「ああ。」
俺はすぐに双眼鏡を掴み、音のする方向を見る。
夜の闇。
赤い月。
その下に。
巨大な黒い影が見えた。
最初は山だと思った。
だが。
その影は動いている。
翼。
長い首。
巨大な尾。
そして。
腐り落ちた鱗。
剥き出しになった骨。
赤黒く光る眼。
「…………。」
思考が止まる。
「嘘……だろ。」
双眼鏡を下ろし。
もう一度覗く。
見間違いじゃない。
「ドラゴン……。」
誰かが呟いた。
俺は乾いた笑いを漏らす。
「いや。」
「違う。」
喉が震える。
「あれは……。」
「ドラゴンゾンビだ。」
その言葉が屋上を凍り付かせた。
巨体はビルを縫うように歩き。
真っ直ぐメガマートへ向かってくる。
一歩踏み出すたびに。
――ズシーーーン。
――ズシーーーン。
地面が震えた。
「全員!」
俺は大声で叫ぶ。
「緊急警報!緊急警報!」
「屋上に全員集合!」
宿泊棟中へ俺の声が響き渡る。
「戦闘準備!」
「相手は通常のゾンビじゃない!」
「ゾンビはゾンビでもドラゴンゾンビだ!
「迎え撃つぞ!!」
その声を合図に。
食堂。
宿泊室。
見張り場所。
あらゆる場所から仲間たちが武器を手に駆け出してくる。
赤い月の下。
七日目、本当の悪夢が。
今、幕を開けようとしていた。
神谷迅
巨大なドラゴンゾンビは、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
一歩。
また一歩。
そのたびに地面が揺れる。
「ぴーちゃん!」
俺は叫んだ。
「今のうちに範囲火炎魔法を!」
「あいつを焼き払ってくれ!」
ぴーちゃんは首を横に振る。
「……ダメじゃ。」
「なんで!?」
俺は思わず聞き返す。
ぴーちゃんはドラゴンゾンビをじっと見つめた。
「あやつ。」
「我より位階が高い存在の使い魔となっておる。」
「使い魔?」
「うむ。」
「ゆえに。」
「我があやつを攻撃しても、その攻撃は主に防がれる。」
「位階の差じゃ。」
「つまり。」
「我は何もできん。」
その言葉に全員の顔色が変わる。
「え……。」
「ぴーちゃんでも?」
「うむ。」
「相手の方が格上じゃ。」
「世界の理そのものが違う。」
重苦しい沈黙が流れる。
神谷は頭を抱えた。
「マジかよ……。」
「切り札が使えないじゃねぇか。」
ぴーちゃんは翼をぱたぱたさせる。
「仕方あるまい。」
「代わりに歌ってやろう。」
「……は?」
ぴーちゃんは胸を張り、大きく息を吸い込む。
「ピチューイ♪」
「ピーヨ♪ ピーヨ♪」
「ピチュルルル~♪」
宿泊棟の屋上に、のどかな文鳥のさえずりが響き渡る。
「…………。」
誰も何も言えない。
神谷だけが額に青筋を浮かべた。
「くたばれぇぇぇぇぇ!!」
「この役立たず文鳥!」
「あとで焼き鳥にして食ってやる!」
ぴーちゃんは「ほほう」と鼻で笑う。
「できるものならやってみるがよい。」
「その前にドラゴンに食われるかもしれぬがな。」
「うるせぇ!」
「今だけは真面目にしろ!」
「我はいつでも真面目じゃ。」
「真面目に歌っておる。」
「そういう問題じゃねぇ!」
緊張感漂う屋上に。
ぴーちゃんの「ピーヨ♪ ピーヨ♪」という呑気な歌だけが、いつまでも響いていた。
そして、その間にも。
ドラゴンゾンビは確実にメガマートへ近付いていた。
神谷迅
「射程に入った!」
俺が叫ぶ。
「一斉攻撃!」
ヒュンッ!!
瑠奈の矢が夜空を切り裂く。
続いて、みゃー子。
そして弓を持つ全員が、一斉に矢を放った。
日向は静かに杖を掲げる。
「聖なる光よ。」
「仲間の武器へ宿りたまえ。」
「《ホーリーエンチャント》」
白い光が矢へ宿る。
アンデッド特効の聖なる加護。
「今よ!」
魔法使いたちも一斉に詠唱する。
「ファイア!」
「ファイアボール!」
「フレイムランス!」
炎の魔法が次々とドラゴンゾンビへ突き刺さる。
「ギャオオオオオオオッ!!」
怒りの咆哮。
ドラゴンゾンビの身体から黒い霧が噴き出した。
「瘴気!」
今井が叫ぶ。
「日向さん!」
日向は慌てることなく両手を合わせる。
「みんな、集まって!」
「《聖なる守り》!」
淡い黄金色の結界が仲間を包み込む。
黒い瘴気は結界へ触れるたびに、ジュッという音を立てて消えていった。
「よし!」
「防げてる!」
その中で。
ただ一人。
前へ踏み出す少女がいた。
今井千絵。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
剣へ白銀の聖光が宿る。
そのまま大きく振り抜いた。
ズバァァァァン!!
剣圧が光の斬撃となり、数十メートル先のドラゴンゾンビを切り裂く。
「ギュエェェェェェェェッ!!」
巨体が大きくのけぞった。
俺は思わず呟く。
「……うへぇ。俺の何倍も強ぇや。」
クラフターの俺には真似できない。
完全に戦闘職の世界だった。
なので。
俺はみんなの戦いを見守っていた。
「……。だって、できることないもん。」
すると。
隣からのんびりした声が聞こえる。
「あの~。」
寧々だった。
俺と同じく、ぼーっと戦場を眺めている。
肩にはぴーちゃん。
そして。
そのぴーちゃんは。
「ピチューイ♪」
「ピーヨ♪ピーヨ♪」
相変わらず歌っていた。
(こいつ……。)
(本当に歌ってるだけだ。)
すると寧々が、ふと思い出したように俺を見た。
「そういえば迅くん。」
「私。」
「新しい技を覚えたんですよ。」
俺はドラゴンゾンビと寧々を交互に見る。
「……はぁ。それは今、しないといけないお話なんでしょうか?」
寧々は真面目な顔で頷いた。
「だって。ぴーちゃんの歌を聞いてたら。」
「寝そうなんですよ。」だから、お話させてください。」
「理由がおかしい。」
思わずツッコむ。
しかし、この状況で普通に会話している自分もどうかしている。
「……いいですよ。」
寧々は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます♪」
そして胸を張る。
「なんと。」
「私、ヴァルキリー寧々は。」
少し間を置いて。
とんでもないことを言った。
「死人の言葉が分かるようになったんですよ。」
「……はぁ?」
俺は思わず聞き返した。
「死人?」
「はい♪」
寧々はドラゴンゾンビを指差した。
「だから。」
「あのドラゴンさん。」
「さっきから何か言ってますよ?」
「…………。」
俺はゆっくりとドラゴンゾンビを見る。
まさか。
あの咆哮に。
意味があるというのか――。
「寧々さん。」
「はい?」
「翻訳してもらっていいですか?」
「いいよ~。」
寧々は嬉しそうに頷き、ドラゴンゾンビの声へ耳を傾けた。
ドラゴンゾンビが大きく口を開く。
「ギャオオオオオオオオッ!!」
寧々がほぼ同時に訳す。
「『や、やめて! ボク、悪いドラゴンゾンビじゃないよ!』だそうです。」
「いや。」
俺は思わず突っ込んだ。
「どう見ても悪いドラゴンゾンビだろ。」
ヒュンッ!
ヒュンッ!
瑠奈とみゃー子が放った、聖なる光をまとった矢が巨体へ次々と突き刺さる。
「ギャギャアアアアアアンッ!!」
寧々が通訳する。
「『ああっ! 痛い! でも、なんだか癖になりそう!』」
「……。」
瑠奈とみゃー子の手から弓が下がった。
「なんて?」
魔法使いたちの火炎魔法が、ドラゴンゾンビの身体を包み込む。
「グオオオオオオオオッ!!」
「『そこです! もう少し右側もお願いします!』」
火炎魔法を撃っていた女子たちの手が止まった。
「えっ。」
「右側……?」
「注文されたんだけど。」
ドラゴンゾンビの身体から、さらに大量の瘴気が噴き出す。
僧侶たちは結界を維持し、黒い霧を押し返していた。
「グルルルルルルルルッ!!」
寧々は少し困ったように笑う。
「『ボクの体臭が、清らかな乙女の結界に全部弾かれている……興奮するなぁ、ハァハァ・・・』」
僧侶たちの表情が固まった。
「……結界、解いていい?」
「ダメです。」
「絶対に維持してください。」
その時。
千絵が聖光をまとった剣を振り抜く。
白銀の斬撃が夜空を走り、ドラゴンゾンビの胸元を大きく切り裂いた。
「アギャオオオオオオオンッ!!」
寧々が頬へ手を当てる。
「『こ、これは効くぅーーー! もっと激しく厳しくお願いします、聖騎士様!』」
「……。」
千絵の剣が止まった。
「私。」
「もう攻撃したくないのだけれど。」
「気持ちは分かります。」
気が付けば。
弓使いも。
魔法使いも。
僧侶も。
千絵も。
全員が攻撃の手を止め、何とも言えない表情でドラゴンゾンビを見つめていた。
静まり返った屋上に、ぴーちゃんの歌声だけが響く。
「ピーヨ♪」
「ピチューイ♪」
俺は額を押さえた。
「寧々さん。」
「はい?」
「もう翻訳しなくて大丈夫です。」
「えぇ~?」
「まだいろいろ言ってますよ?」
「聞きたくない。」
「戦意が全部なくなる。」
瑠奈が真顔で頷く。
「迅。」
「私、ゾンビより今の会話の方が怖かった。」
みゃー子も弓を構え直しながら呟く。
「通訳とは、時に知らなくてもいい真実を暴くものなのだな。」
ドラゴンゾンビが再び咆哮する。
「ギャオオオオオオッ!!」
寧々が反射的に口を開く。
「『さあ、続きを早く――』」
「訳さなくていいって!」
俺たちの叫びが、赤い月の下へ響き渡った。
寧々は「あっ」と思い出したように手を叩いた。
「最初から何を言ってたか、言いましょうか?」
屋上が静まり返る。
神谷がおそるおそる答えた。
「……お願いします。」
「最初からですとねぇ。」
寧々はドラゴンゾンビの方を向き、小首をかしげる。
「えーっと。」
「こんな感じです。」
「『わーい! 今日は若い女の子と遊べるぞー! 嬉しいなぁ!』」
「『やっぱり若い女の子と遊ぶのは楽しいなぁ。』」
「『ヘル様みたいにヒステリックな年増じゃない女の子は最高だよ。』」
「『でも気を付けないと。人間の女の子ってすぐ怪我しちゃうから。』」
「『大事に、大切にしないといけないね。』」
「『一人くらい、お嫁さんになってくれる子がいるかもしれないし。』」
「『さっきの、かわいくない三人組みたいなのがいないといいなぁ。』」
「『ボク、ああいうタイプは好みじゃないんだよ。』」
「『やっぱり清楚こそ正義だよね!』」
「……。」
屋上が静まり返る。
「ちなみに。」
寧々が付け加える。
「可愛くない三人組っていうのは、さっきまでマンションにいた三人のことみたいです。」
「ここにはいません。」
「なるほど。」
「だから機嫌がいいのか……。」
寧々はさらに続ける。
「それからですね。」
「『あっ! あのカッコイイ魔法剣士さん、凛々しくて素敵だなぁ!』」
「『早く攻撃してくれないかな。』」
「『お嫁さんにしよう。』」
綾音が思わず自分を指差す。
「……私?」
寧々は頷いた。
「そうみたいです。」
さらにドラゴンゾンビは嬉しそうに叫ぶ。
「『あっ!! あの子もいい!』」
「『弓を構える姿が凛々しいよ!』」
「『その弓でボクのハートを射抜いてほしい!』」
「『お嫁さんにしよう!』」
瑠奈が鳥肌を立て青ざめる。
「え……私?」
「はい。」
寧々は悪気なく答える。
そして、まだ続く。
「『あっ、あの子もかわいいよ!』」
「『ツインテールが似合いすぎだ!』」
「『いろんなかわいい服を着てもらいたいなぁ。』」
「『お嫁さんにしよう!』」
みゃー子が慌てて後ろへ下がる。
「え、えぇぇぇっ!?」
「やだ。なんか見られてる。」
寧々は最後まで訳した。
「『あっ! あの人、クールビューティっていうのかな?』」
「『視線が冷たくてゾクゾクするよ!』」
「『お嫁さんにしよう!』」
千絵は眼鏡を押し上げ、無表情のまま呟いた。
「却下。」
「『あっ!あれは素晴らしいおっぱいだ。』」
「『小さすぎず、大きすぎず、まさに理想の美乳。』」
「『最高のお嫁さんになるに違いない。ハァハァ。』」
日向の杖がへし折れそうな音をだす。ミシミシ
「滅殺・・・」
寧々は最後まで聞き終えると、満面の笑みで締めくくった。
「最後はですね。」
「こう言ってました。」
「『わぁ~。』」
「『嬉しいなぁ。』」
「『もう一人に決められないよ。』」
「『だったら……。』」
「『全員、お嫁さんにしよう!』」
「『全員、お嫁さん!』」
「『お嫁さん! お嫁さん! みーんな、お嫁さん!』」
「『それが一番いいに違いない!』」
屋上は静まり返った。
「…………。」
数秒間。
誰一人として動かなかった。
そして。
「「「「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」
女子全員の絶叫が夜空へ響き渡る。
千絵は剣を構え直す。
「迅。」
「はい。」
「討伐目標が変わった。」
瑠奈も弓を引き絞る。
「絶対に近付けない。」
日向は聖なる光を杖へ宿らせる。
「浄化します。」
みゃー子は震えながら短剣を握る。
「お嫁さんだけは絶対イヤ!」
その瞬間。
メガマート防衛隊の士気は、先ほどまでとは比べ物にならないほど一気に跳ね上がった。
神谷は苦笑しながら呟く。
「……ラッシュ対策としては。」
「とんでもなく優秀な演説だったな、あいつ。」




