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週末の過ごし方  作者: Elle


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8/10

7日目その1

メガマートの入口へ向かいながら、俺は三人に声を掛けた。

「みんなに相談なんだけど。」

「ん?」

「どうしたの?」

「旧拠点のみんなも、ここへ連れてきたらどうかなって思うんだ。」

三人は顔を見合わせた。

俺は続ける。

「宿泊棟は部屋が余ってる。」

「建物も旧拠点より頑丈。」

「高さもあるし、防衛もしやすい。」

「トレーラーも使える。」

「移動もそこまで大変じゃないと思うんだ。」

「……。」

三人とも黙っている。

「あれ?反対?」

瑠菜が小さく首を振った。

「いや。」

「確認したいことがあるわ。」

「その返事次第かな。」

「何?」

瑠菜はじーっと俺を見る。

「副委員長があっちにいるから。」

「そういう相談ってわけじゃないよね?」

「……。」

空気が止まった。

俺は乾いた笑いを浮かべる。

「はっ、はっ、はっ。」

「俺はクールな男だぜ。」

「そんな過去を引きずるような男に見えるかい?」

三人。

「「「見える。」」」

即答だった。

「ぐふっ。」

思わず胸を押さえる。


「ノータイムで!?」

日向は困ったように笑う。

「だって、昨日あんな話を聞いたばかりですし……。」

寧々もおっとり頷く。

「未練があるようには見えませんけどぉ。」

「気になってはいるんだなぁ、って思います。」

瑠菜は腕を組んだまま言う。

「だから確認。」

「純粋にみんなを助けたいの?」

「それとも副委員長も助けたいの?」

俺は頭をかいた。

「……両方。」

「でも。」

「優先順位は違う。」

三人が黙って聞いている。

「今井さんがいるから助けるんじゃない。」

「佐々木や綾音もいる。」

「残ってる女子たちもいる。」

「全員まとめて、安全な場所へ移せるなら移したい。」

「今井さんだけ連れて来いって言われたら?」

「断る。」

「全員なら助ける。」

「そういう話だ。」

少しの沈黙。

瑠菜はふっと笑った。

「なら合格。」

「よかった。」

俺は胸をなで下ろす。

「じゃあ。」

「旧拠点のみんなも迎えに──」

「ただし。」

瑠菜が人差し指を立てる。

「副委員長と二人きりは禁止。」

「えっ?」

「相談するときも。」

「二人きりは禁止。」

「日向か寧々。」

「もしくは私かみゃー子」

「誰か一人は必ず同席。」

「なんで!?」

日向が苦笑する。

「なんだか私たちが悪者みたいですね。」

寧々もふふっと笑う。

「信用していないわけじゃないんですよぉ。」

「ただ……。」

「迅さん、押しに弱そうですから。」

「それ。」

瑠菜が大きく頷く。

「そこが一番心配。」

俺は大きくため息をついた。

「……なんとかお願いします。」

「はい。」

「そこは譲れません。」

「私たちが悪者みたいじゃない。」

四人は笑いながら歩き出す。

だがその心の中では。

それぞれが少しだけ、本気だった。


俺は瑠菜を見る。

「瑠菜。」

「あの話……みんなにしたの?」

瑠菜はきょとんとした顔で頷く。

「うん。」

「情報共有は大事だから。」

「…………。」

俺はゆっくりと頭を抱えた。

「なんでぇぇぇぇぇっ!」

日向は申し訳なさそうに笑う。

「突然だったので、私もびっくりしました。」

寧々もおっとり微笑む。

「でもぉ。」

「昔のお話ですし、隠すようなことでもないのかなぁって思いました。」

「いや!」

「本人の許可なく公開する話じゃないだろ!」

瑠菜は不思議そうに首をかしげる。

「でも。」

「『あんまりみんなに言うなよ。』だったよ?」

「『絶対言うな。』じゃなかった。」

「だから少人数ならセーフ。」

「その解釈どこから来た!」

「私。」

「自信満々に言うな!」

三人は思わず吹き出した。

日向は笑いをこらえながら言う。

「迅さん。」

「もう私たち四人だけの秘密ですから。」

「……。」

「それ以上増やさないでね?」

瑠菜は親指を立てた。

「たぶん。」

「『たぶん』って付けるなぁぁぁ!!」


佐々木篤

夜襲を乗り切った翌日。

不思議なことが起きていた。

女子たちの今井を見る目が、明らかに変わっていたのだ。

「今井お姉さん。」

「これ、どうすればいいですか?」

「これはね、こうすると綺麗にまとまるのよ。」

「ありがとうございます!」

「今井お姉さん、この包帯ってこれで合ってます?」

「うん、上手よ。」

昨日まで少し距離のあった女子たちも、自然と今井の周りへ集まってくる。

一方の俺はというと。

「ほら、あーん。」

「……悪い。」

綾音にスプーンで朝飯を食べさせてもらっていた。

昨日、告解の巻き添えを食らい、要介護者になっていた。

「その要介護者になったのは、今井さんのせいだけどな……。」

俺がぼやくと、今井は悪びれる様子もなく笑った。

「ごめんなさいね。」

「でも、おかげで助かったでしょ?」

「まぁ、それはそうだけど。」

綾音が苦笑する。

「それにしても、昨日から人気者ね。」

今井は肩をすくめた。

「昨日、私が全部さらけ出したからじゃないかしら。」

「秘密も、後悔も、恥も。」

「隠さず皆の前で話したもの。」

女子たちはうんうんと頷く。

「今井さん、すごかったです。」

「私だったら絶対できません。」

「覚悟が違いました。」

今井は照れくさそうに笑った。

「別に偉くないわ。ただ、必要だっただけ。」

そして、少しだけ胸を張って言う。

「人はね。」

「自分より一歩先へ進んでいる人には、自然と敬意を払うものなの。」

「昨日の私は、たまたまその一歩を踏み出しただけ。」

佐々木はその言葉を聞いて笑う。

「なるほど。」

「じゃあ俺も昨日、要介護者になるっていう一歩先へ進んだわけか。」

綾音は呆れたようにため息をついた。

「それは進歩じゃなくて重傷。」

「はい、もう一口。」

「……あーん。」

「よろしい。」

屋上には、久しぶりに穏やかな笑い声が響いていた。


佐々木篤

翌日の昼過ぎ。

ようやく落ち着いてきた頃だった。

「ブブーーッ!」

突然、けたたましいクラクションが鳴り響く。

「!?」

屋上にいた全員が飛び起きた。

「おい!」

「ゾンビ寄ってくるだろ!」

「誰だよ鳴らしてるの!」

佐々木は慌てて屋上の縁から下を覗き込む。

道路の向こうから、一台の大型トレーラーがゆっくりと近付いてくる。

「……でかっ。」

「トレーラー?」

女子たちも次々と身を乗り出す。

「ブブーーッ!」

もう一度クラクションが鳴る。

「だから鳴らすなって!」

「ゾンビ集まるだろ!」

佐々木は思わず叫んだ。

大型トレーラーはそのままホームセンターの正面へ横付けされる。

エアブレーキの音を響かせながら停車した。

「プシューーーッ。」

運転席のドアが開く。

一人の男が軽く飛び降りた。

「……あ。」

佐々木が目を丸くする。

「あれ……。」

「見覚えがある。」

今井も目を凝らす。

「まさか……。」

綾音が思わず笑う。

「あいつ。」

「神谷じゃない?」

男は屋上を見上げ、大きく手を振った。

「おーい!」

「生きてるかー!」

佐々木は思わず力が抜けた。

「神谷……。」

「遅ぇよ。」

神谷はトレーラーの荷台をポンポンと叩きながら笑う。

「いやぁ。」

「大型免許なんて持ってないからさ。」


「動かすのに苦労したわ。」

「それより。」

屋上を見上げ、人数を数える。

「全員生きてるな?」

「よし。」

「迎えに来たぞ。」

その一言に。

女子たちの緊張が、一気にほどけた。

今井は眼鏡を押し上げ、小さく笑う。

「……本当に来たわね。」

綾音も肩をすくめる。

「だから言ったでしょ。」

「神谷は来るって。」

佐々木は苦笑しながら空を見上げた。

「助かった……。」

その言葉には、心の底からの安堵が込められていた。


翌日の午前十一時頃。

旧拠点ホームセンター。

神谷は大型トレーラーの荷台を開けながら声を掛ける。

「ほら。」

「積めるだけ積んじまえ。」

女子たちは顔を見合わせる。

「でも……。」

「荷物、本当にいらねーのか?」

佐々木が尋ねると、神谷はあっさり答えた。

「いらねーよ。」

「向こうに全部あるし。」

「なんだったら、ここにない物まであるぜ。」

「食料。」

「飲み水。」

「風呂。」

「シャワー。」

「電気。」

「個室。」

「あとベッド。」

最後の一言に女子たちがざわつく。

「個室!?」

「一人一部屋?」

「ああ。」

「まだ余るくらいある。」

「えっ!」

「本当ですか!?」

神谷は笑いながら頷く。

「期待していいぞ。」

「今のお前ら。」

「顔見りゃ分かる。」

女子たちは互いの顔を見る。

夜襲。

徹夜の見張り。

緊張。

疲労。

誰もが目の下に隈を作っていた。

「みんな疲れてるな。」

神谷は優しい口調で続ける。

「向こうには宿泊棟がある。」

「個室だから。」

「誰にも気を遣わず、ゆっくり休める。」

「風呂も入り放題だ。」

「飯もちゃんと食える。」

その言葉だけで、女子たちの表情が少し明るくなる。

綾音が笑う。

「もう。」

「その言葉だけで泣きそう。」

佐々木も苦笑した。

「俺なんか今すぐベッドに倒れ込みたい。」

神谷は荷台へ乗り込みながら親指を立てる。

「安心しろ。」

「向こうの拠点見たら。」

「たぶん全員びっくりする。」

「クラフターを甘く見るなよ?」

その一言に、皆の期待はさらに膨らむ。

こうして旧拠点での生活は終わりを告げ、一行は新たな拠点――メガマートへ向けて出発するのだった。


神谷迅

荷物の積み込みが終わり、大型トレーラーへ乗り込もうとした時だった。

「ねぇ、神谷君。」

今井が笑顔で声を掛ける。

「その運転席って二人乗れるわよね?」

「話したいこともあるし、私、助手席でいいかしら?」

「いいですよ。」

神谷は何も考えずに頷いた。

「じゃあ乗りま――」

ガチャ。

助手席のドアは、すでに開いていた。

「おっはよー。」

そこには、当然のように菱田瑠奈が座っていた。

シートベルトまで締めている。

「残念でした~。」

ニヤニヤしながら今井を見る。

「ここは二人用なのよ。」

今井は目をぱちくりさせた。

「そうなの?」

「詰めればもう一人くらい大丈夫じゃない?」

神谷は運転席を見回しながら答える。

「というか、広いから三人でも乗れ――」

ぐりっ。

「……ぐふっ。」

脇腹に鋭い痛みが走る。

神谷は思わず言葉を止めた。

瑠奈は何事もなかったかのように窓の外を眺めている。

「どうしたの、迅?」

「顔色悪いわよ?」

今井が心配そうに覗き込む。

「な、何でもないです……。」

「そう?」

今井は首をかしげる。

「迅、大丈夫?」

「私の部屋で少し休んでから行く?」

その言葉が終わるより早く。

瑠奈が満面の笑みで口を挟む。

「迅はこんなの大丈夫だよね~?」

そう言いながら、もう一度。

ぐりっ。

「……っ!」

神谷は笑顔を保ったまま震える。

(助けて。誰か助けて。)

視線は自然と荷台の方へ向く。

荷物を固定していた佐々木と目が合った。

(佐々木、助けてくれ。)

その必死のアイコンタクトを受けた佐々木は――。

一瞬だけ神谷を見つめると。

ニヤリと笑って親指を立て首を切り、下におろした。

「ハーレム野郎は死ね。」

「裏切ったぁぁぁぁぁぁ!!」

神谷の悲痛な叫びが、メガマートへ向かう出発前の駐車場に響き渡った。


神谷迅

大型トレーラーはゆっくりと走り始めた。

運転席。

神谷がハンドルを握り、その隣には今井。

そして、そのさらに隣には無理やり詰め込まれた瑠奈。

……結局、三人で乗ることになった。

神谷はちらりと今井を見る。

「なぁ、今井さん?」

「千絵よ。昔みたいに千絵って呼んでほしいわ。」

「今井さん?。」

「・・・・・」

「千絵さん。」

「なぁに、神谷くん?」

妙に機嫌がいい。

「……他の女子の視線がさ。」

「なんか変に生暖かいんだが……。」

今井はきょとんとした顔をする。

「そうなの?」

「気のせいじゃない?」

「いや。」

「やたら二人きりにしようとしてる気がするんだが。」

今井は小さく笑う。

「そうなの?」

「向こうに着くまでの辛抱よ。」

「あとでちゃんとみんなと話し合うから。」

「……何を?」

「それは着いてからのお楽しみ。」

「嫌な予感しかしねぇ……。」

すると、隣で黙って聞いていた瑠奈が口を開く。

「そうね。」

「ちゃんと話し合わないといけないわね。」

「???」

神谷は首をかしげる。

「何の話?」

二人は顔を見合わせて微笑むだけだった。

(……訳が分からん。)

神谷は深く考えるのをやめた。

話題を変えるように前を向く。

「あと。」

「昨日の襲撃、大変だったんだな。」

「間に合わなくてごめん。」

「まさか佐々木があんなにダメージ食らうほどの襲撃だったとは思わなかった。」

今井は少しだけ遠くを見るような目をした。

「そうね。」

「厳しい戦いだったわ。」

少し間を置いて、小さく付け加える。

「……主に精神的に。」

神谷は意味が分からず首をかしげる。

「精神的?」

「そんなに追い詰められてたのか?」

「ええ。」

「それはもう。」

「人生で一番くらいに。」

荷台では、その会話を聞いていた佐々木が思わず苦笑した。

(やったのは、お前の元彼女だけどな。)

(あんな恐ろしい女だとは思わなかった。)

思い出しただけで胃が痛くなる。

綾音がそんな佐々木の肩を軽く叩く。

「忘れなさい。」

「無理。」

「一生ネタにされる。」

「もっと無理。」

荷台には笑い声が広がる。

その一方で運転席の神谷だけは、何も知らないまま首をかしげ続けていた。

「……本当に何があったんだ?」

誰も、その答えだけは教えてくれなかった。


マンション組

翌日。

湯田はようやく身体を起こせるようになった。

「……クソがっ!」

起き上がるなり、近くにあった木箱を蹴飛ばす。

「なんなんだよ、あのスキルは!」

昨夜受けた苦しみが蘇る。

毒。出血。火傷。凍傷。感電。骨折。麻痺。沈黙。暗闇。

ありとあらゆる状態異常が、一度に襲い掛かってきた。

一つ二つならまだしも。

あれだけのデバフを同時に受けた経験など、一度もない。

夜明けまで苦しみ続け、まともに動けたのはつい先ほどだった。


橋若、佐古、沢田の回復魔法がなければもっと長引いていただろう

かける順番はイケメンからという、酷い差別はあったようだが・・・


湯田は苛立ちを隠せない。

「勇者の俺ですら、あんなことできねぇぞ!」

「三輪田!」

「説明しろ!」

呼ばれた三輪田は眼鏡を押し上げる。

賢者。

その職業は状況解析やスキル解析に長けていた。

「解析した結果ですが……。」

「今井さんの職業は聖騎士です。」

「そして、あのスキル名は。」

「《告解(コンフェッション)》。」

湯田は眉をひそめる。

「告解?」

「そもそも今井さんは、職業を何にするか悩んでいたそうです。。」

「ですが、最初の白い部屋で老人に。」

三輪田は思い出すように続ける。

「『お前には聖騎士の素質がある。聖騎士にしてやろう。』」

「そう言われて、聖騎士になったと聞いています。」

「……それで?」

「私の推測ですが。」

「聖騎士という職業自体が、極めて特殊なのでしょう。」

「神に選ばれた者。」

「あるいは、神に加護された者だけが就ける上位職。」

「ですから、あのような常識外れのスキルを持っていても不思議ではありません。」

「しかも《告解》は、自分の心をさらけ出すほど効果が高くなるタイプのスキルだと考えられます。」

「昨日は、その条件を最大級で満たしたのでしょう。」

湯田は頭を抱えた。

「なんだそれ!?」

「チートじゃねーか!」

「クソがっ!」

三輪田は首を横に振る。

「いえ。」

「チートというより。」

「神様のお気に入り……という表現の方が近いかもしれません。」

「勇者が『人を導く英雄』なら。」

「聖騎士は『神に選ばれた代行者』。」

「根本的に力の系統が違います。」

湯田は忌々しそうに舌打ちした。

「……気に入らねぇ。」

「勇者より強い職業があるなんてよ。」

三輪田は静かに答える。

「強い弱いではありません。」

「相性でしょう。」

「昨日の戦いでは、私たちにとって最悪の相手だった。」

その言葉に、誰も反論できなかった。


マンション組

一通り回復を終えた男子たちを前に、湯田は腕を組んだ。

「お前ら。」

「もう回復したな?」

誰も返事をしない。

「仕切り直しだ。」

「もう一回行くぞ!!」

「……。」

沈黙。

妙に静かだった。

湯田は眉をひそめる。

「おい。」

「なんで返事しねぇ。」

三輪田が気まずそうに咳払いをする。

「いや……。」

「みんな、ちょっと。」

「何だよ。」

後ろの男子が恐る恐る手を挙げた。

「だ、だって……。」

「次行ったら……。」

「インポにされるって……。」

別の男子も真顔で頷く。

「インポ怖い。」

「人生終わる。」

「俺、まだ彼女もいないし……。」

「童貞のまま終わるのは嫌だ……。」

「昨日の最後、今井さん言ってたじゃん……。」

「呪われそうで怖い。」

湯田は額に手を当てる。

「お前らなぁ……。」

「真に受けるな!」

しかし、誰も動かない。

「でも。」

「昨日のデバフ、全部本当だったじゃん。」

「毒。」

「麻痺。」

「骨折。」

「暗闇。」

「全部くらった。」

「だったら、あれだけ嘘って保証ある?」

「……ない。」

空気がさらに重くなる。

三輪田が眼鏡を押し上げた。

「理論上は……。」

「《告解》の効果は精神的な重みで変化します。」

「つまり。」

「昨日以上の効果も……。」

そこまで言って口をつぐむ。

男子たちは一斉に顔を青くした。

「やっぱ無理だ。」

「俺、遠慮しとく。」

「命より大事なものがある。」

「将来設計が崩れる。」

「俺、子ども欲しいし……。」

湯田は思わず叫んだ。

「だから違うって!」

「お前ら勇者パーティだろ!」

「そんなことでビビるな!」

しかし返ってきたのは、小さな声だった。

「……勇者は湯田だけじゃん。」

「俺ら一般兵だし。」

「湯田、お前一人で行ってこいよ。」

「応援してる。」

「頑張れ。」

「帰ってきたら話聞くから。」

湯田は拳を震わせる。

「お前らぁぁぁぁ!!」

昨日まで勢いだけは誰にも負けなかった男子たちは、すっかり《告解》にトラウマを植え付けられていた。


神谷迅

大型トレーラーがメガマートの搬入口へゆっくりと停車した。

「着いたぞー。」

荷台の扉が開く。

女子たちは次々と降り立ち――。

全員が、その場で固まった。

「……え。」

「うそ。」

「広……。」

建物の大きさ。

高い天井。

ずらりと並ぶ店舗。

宿泊棟。

誰もが口をぽかんと開けたまま動かない。

神谷は苦笑する。

「そんな驚くことか?」

今井が周囲を見回す。

「驚くわよ……。」

「ここ全部?」

「全部。」

綾音も呆れたように笑う。

「……もう町じゃない。」

「拠点って規模じゃないわ。」

神谷は歩きながら説明を始める。

「生鮮食品はさすがに無理だ。」

「でも。」

「冷凍設備は生きてた。」

「肉も魚も冷凍野菜も結構残ってる。」

「アイスもあるぞ。」

女子たちがざわつく。

「あと。」

「この店の名物ティラミスも大量に残ってる。」

「!!!!!」

一瞬で女子たちの目の色が変わる。

「ティラミス!?」

「えっ!」

「ほんと!?」

神谷が「あと――」と言いかけた瞬間。

「行こ!」

「食堂!」

「急げー!」

女子たちは一斉に走り出した。

「あ、おい!」

「まだ説明が……。」

誰も聞いていない。

神谷は肩を落とした。

「……まぁ、いっか。」

佐々木が笑う。

「女子にスイーツは反則だ。」

「だな。」

神谷も苦笑するしかなかった。

食堂。

大きな業務用キッチンから、美味しそうな匂いが漂ってくる。

「おかえりー。」

日向が笑顔で手を振った。

寧々はエプロン姿のまま鍋をかき混ぜている。

「もうすぐできましゅよ~。」

少し噛んでしまい、照れ笑いを浮かべる。

みゃー子は皿を並べながら胸を張った。

「今日はがんばった!」

「業務用コンロって火力すごいね!」

「おぉ。」

神谷は鍋を覗き込む。

「うまそうじゃん。」

「えへへ。」

「褒められた♪」

しばらくすると料理が並び、食堂は賑やかな食事の時間となった。

「いただきまーす!」

久しぶりの温かい料理。

笑い声があちこちで響く。

食事が一段落した頃。

神谷が立ち上がった。

「みんな。」

自然と食堂が静かになる。

「忙しいところ悪い。」

「でも、今日の夜。」

「おそらくゾンビラッシュが来る。」

空気が引き締まる。

「俺の知ってるゲームと同じなら。」

「七日目の夜。」

「大量のゾンビが拠点を襲撃してくる。」

今井も真剣な表情になる。

「いよいよね。」

神谷は頷く。

「だから。」

「飯を食べたら、早めに休んでくれ。」

「夜に備えて体力を回復してほしい。」

そしてテーブルの上へ簡単な見取り図を広げた。

「今、防衛計画を考えてる。」

「配置も役割も決める。」

「夜になったら、その指示に従って動いてくれ。」

女子たちは静かに頷く。

「質問は?」

誰も手を挙げない。

不安はある。

それでも。

この場にいる全員が神谷の作戦なら生き残れると信じていた。

神谷は小さく笑う。

「よし。」

「じゃあ。」

「七日目の夜を乗り切ろう。」

食堂の空気が、再び静かな緊張に包まれた。


女子会 ~今井千絵参戦~

昼食を食べ終えた私たちは、宿泊棟の一室へ集まった。

メンバーは五人。

瑠奈。

日向。

みゃー子。

寧々。

そして私、今井千絵。

部屋に入るなり、瑠奈が胸を張る。

「それでは!」

「女子会会議を始めます!」

日向が拍手する。

「ぱちぱちー。」

みゃー子も真似をする。

「ぱちぱち。」

寧々は首をかしげた。

「えっとぉ……会議なんですかぁ?」

瑠奈は真剣な顔になる。

「まず確認。」

そして、私を真っすぐ見た。

「千絵さん。」

「あなたは迅が好きですか?」

部屋が静まり返る。

私は少しだけ笑って答えた。

「……好きよ。」

「大好き。」

さらに続ける。

「あなたたちには渡したくないくらい、大好きだわ。」

「ぐぬぬぬ……。」

瑠奈が悔しそうに唸る。

日向も頬を膨らませる。

「強敵だぁ……。」

私は肩をすくめた。

「それに。」

「私、彼のこといろいろ知ってるし。」

「正直、わりと有利かも。」

「ムキーーー!」

瑠奈が机を叩いた。

「ずるい!」

「元カノ特権じゃん!」

私はクスッと笑う。

「付き合ってたんだから当然でしょ。」

日向が腕を組む。

「でも。」

「迅って、好意にはすごく鈍くない?」

「あら?」

私は首をかしげる。

「それはあなたたちのやり方が悪いんじゃない?」

しれっと言い放つ。

「うぐぐぐ……。」

「むかつく。」

瑠奈は悔しそうに机へ突っ伏した。

私は余裕の笑みを浮かべる。

「私は私のやり方で、ちゃんと彼と付き合えてたから。」

「経験者は違うのよ。」

その一言に。

部屋の空気がぴたりと止まる。

寧々がおずおずと手を挙げた。

「あのぉ……。」

「でも、それってぇ……。」

「昔のお話ですよねぇ?」

ぴきっ。

私の笑顔が固まる。

みゃー子も悪気なく続ける。

「今の迅とは違うかも?」

ぴきぴきっ。

日向も遠慮がちに言う。

「人って変わりますし……。」

「今の迅には今の迅の好みがあるかもしれません。」

ぴきぴきぴきっ。

瑠奈は立ち上がり、勝ち誇ったように笑う。

「そうそう!」

「過去の栄光だけじゃ勝てないわ!」

「今の迅を知ってるのは、私たちだもん!」

私は眼鏡を押し上げながら、小さく息を吐く。

「……なるほど。」

「つまり。」

「油断するなってことね。」

瑠奈はニヤリと笑う。

「その通り!」

「恋愛に過去の勝者はいない!」

「勝つのは現在進行形で頑張ってる人だけよ!」

「……。」

私は静かに立ち上がる。

「いいわ。」

「受けて立とうじゃない。」

「え?」

「恋も。」

「勝負も。」

「負ける気はないわ。」

その宣言に。

四人は思わず顔を見合わせた。

(この人、本気だ。)

女子会は、思った以上に熱い戦いになりそうだった。


神谷迅

夕方。西の空に、ゆっくりと赤い月が昇り始めた。

「……。」

やっぱり来たか。

俺は小さく息を吐く。

ゲームの知識が正しければ。

今夜。

七日目のラッシュが始まる。

宿泊棟前の広い駐車場を見渡す。

ウッドスパイク。

ワイヤートラップ。

落とし穴。

即席のバリケード。

何度も歩いて確認した。

「ここは大丈夫。」

「こっちも問題なし。」

もう一度確認する。

漏れはないか。

死角はないか。

何度も。

何度も。

昔の俺なら。

(全力を出さずに何でもできる俺、カッコいい。)

そんなことを考えていた。

だけど。

そんな俺は、もういない。

全力を出して。

自分も。

仲間も。

全員守りたい。

今はそう思える。

「……少しは。」

「成長できたのかな。」

十八歳。

見た目は。

だけど。

精神年齢は、たぶん六十くらいだ。

思わず苦笑する。

「さて。」

「これからどうなるか。」

弓を握り直す。

「全力で頑張ってみますか。」



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