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週末の過ごし方  作者: Elle


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6/10

6日目その1

鼻歌を歌いながら朝食の準備をする。

パンを焼き、スープを温め、ジャムを並べる。

すると、いい匂いにつられて一人、また一人と起きてきた。

「おはよ~。」

「おはようございます。」

「……ふぁあ。」

みゃー子はまだ眠そうだ。

全員が席についたところで、俺は少し真面目な顔になる。

「みんなに言っておきたいことがある。」

四人がこちらを見る。

「もしかすると。」

「明日の夜。」

「ラッシュが来るかもしれない。」

「ラッシュ?」

日向が首をかしげる。

「ゾンビが狂暴化する。」

「走る。」

「そして、生存者がいる拠点をひたすら襲ってくる。」

「数もかなり多いらしい。」

「ゲームの知識だから確実じゃない。」

「でも、もし本当なら。」

「準備しないとまずい。」

部屋が静かになる。

寧々が少し不安そうに尋ねた。

「どのくらい来るんですか?」

「分からない。」

「でも。」

「ほぼ無制限に押し寄せてくるって話だ。」

「……。」

空気が一気に重くなった。

瑠菜が真剣な顔になる。

「どうするの?」

「だから今日は。」

「拠点の防衛装備を作る。」

「防衛装備?」

俺は外へ出ると、昨日作っておいた木製の罠を指差した。

「これ。」

地面には、鋭い木杭が斜めに何本も並んでいる。

「ウッドスパイク。」

「うわぁ……。」

日向が思わず顔をしかめる。

「痛そう……。」

俺は苦笑した。

「ゾンビは痛がらないけどな。」

「そっか……。」

「だから。」

「足を止めるのが目的。」

「歩きにくくするだけでも意味はある。」

さらに木箱を開ける。

「他にも。」

「バリケード。」

「落とし穴。」

「障害物。」

「いろいろ作る。」

瑠菜は木杭を持ち上げて眺める。

「これを駐車場全部に?」

「全部は無理。」

「だから侵入しそうな場所を重点的に。」

「入口。」

「壁際。」

「階段。」

「そういう場所に設置していく。」

寧々が手を挙げた。

「ワイヤートラップとかはどうでしょう?」

「映画で見たことがあります。」

俺は少し考えて頷く。

「有効ではあると思う。」

「でも。」

「ゾンビは足が取れても這ってくる。」

「腕が取れても噛みに来る。」

「痛みも恐怖もない。」

「だから人間相手みたいには止まらない。」

「なるほど……。」

日向は小さく息を吐く。

「思ってたより大変なんだね。」

「だからこそ。」

「今日一日で、できる限りの準備をする。」

俺はウッドスパイクを担ぎ上げた。

「みんな。」

「今日も忙しくなるぞ。」

「「「はーい!」」」

こうして俺たちは、明日訪れるかもしれない"七日目"に備え、

メガマートを本当の意味で要塞へと変えていくのだった。


日向がふと手を挙げる。

「あの。」

「一つ聞いてもいいですか?」

「ん?」

「そのラッシュって。」

「いつまで続くんですか?」

俺は少し考えながら答える。

「ゲームの知識だけど。」

「確か。」

「朝までだったはず。」

「朝?」

「うん。」

「六時くらいになると終わる。」

「夜通し……。」

瑠菜が思わず顔をしかめる。

「長いね。」

「だから。」

「防衛戦になる。」

「途中でスタミナ切れしたら終わり。」

「交代しながら戦うしかない。」

寧々がおっとりと頷く。

「では、見張りの順番も決めておいた方が良さそうですねぇ。」

「そうだな。」

「あと。」

「無理に全員起きてる必要はない。」

「交代で休みながら戦う。」

「朝六時まで耐えればいい。」

みゃー子が腕を組む。

「つまり。」

「夜明けまで籠城戦か。」

「そういうこと。」

俺は窓の外を見つめる。

「もちろん。」

「ゲームと同じなら、だけどな。」

「外れてくれるなら、その方がありがたい。」

「でも。」

「当たった時に準備してなかったら、それこそ終わる。」

四人は真剣な表情で頷いた。

「よし!」

瑠菜が立ち上がる。

「それじゃあ今日中に。」

「ゾンビに『このメガマートだけはやめておこう』って思わせるくらい、要塞化しちゃおう!」

「おー!」

五人はそれぞれ資材を抱え、明日に備えてメガマートの防衛設備づくりを始めた。


佐々木 篤

屋上の見張り台。

俺は弓を手に、いつものように周囲を警戒していた。

ゾンビの動き。

道路の様子。

風の向き。

レンジャーになってから、そういうものが自然と分かるようになってきた。

「……ん?」

ふと、違和感を覚える。

マンション方面へ続く道路。

まだかなり距離はある。

姿もはっきり見えない。

それでも。

「人間……か?」

ぼんやりとだが、人の気配を感じる。

一人。

二人。

いや、もっといる。

「集団だな。」

レンジャーの感覚がそう告げていた。

俺は目を細める。

「……やっぱり来たか。」

女子全員がいなくなった。

逃げ場所なんて限られている。

神谷の拠点を見つけられなかった以上、次に思いつくのはここしかない。

問題は――

「何を言ってくるか、だな。」

話し合いか。

連れ戻しに来たのか。

それとも、もっと面倒な話なのか。

今の距離なら、ここへ着くまでまだ少し時間がある。

俺は立ち上がった。

「今井さんには伝えておくか。」

それと。

「綾音にも。」

もし交渉になっても。

もし戦いになっても。

心の準備をする時間くらいはある。

俺は屋上を降り、二人を探しに歩き出した。


旧拠点ホームセンター

昼過ぎ。

ホームセンターの前に十数人の男子が姿を現した。

先頭を歩くのは湯田。

後ろには三輪田、伊藤、そして数人の男子が続いている。

湯田は周囲を見回し、ニヤリと笑う。

「まだ使ってるみたいだな。」

「神谷の奴。」

屋上へ向かって大声を張り上げた。

「おーい!」

「神谷ぁ!」

「いるんだろ!」

「出てこい!」

しばらくして、屋上の縁から二人の女性が姿を現す。

今井知恵。

そして天城綾音だった。

湯田は少し驚いたように目を細める。

「……今井か。」

今井は落ち着いた様子で答える。

「何か御用ですか?」

「神谷はどこだ。」

「ここにはいません。」

「逃げたか?」

「違います。」

「既に拠点を移しました。」

男子たちがざわつく。

「引っ越した?」

「そうです。」

「私たちも自分たちの意思でここへ来ました。」

三輪田が一歩前へ出る。

「寧々ちゃんもか?」

「はい。」

「誰にも強制されていません。」

「ふざけるな。」

伊藤が吐き捨てる。

「神谷に騙されたんだろ。」

綾音が冷たい視線を向けた。

「違う。」

「私たちは自分たちで考えて選んだ。」

「それだけ。」

湯田は鼻で笑う。

「まぁいい。」

「神谷に伝えとけ。」

「明日、話をしに行く。」

今井は静かに頷く。

「伝えておきます。」

湯田は少し歩き、ふと立ち止まった。

「そういや。」

「お前、神谷のことやたら買ってるよな。」

今井は黙って見つめ返す。

「おい。」

「オレと神谷を比べるな。」

「……。」

「オレは勇者だ。」

「真正面から全部ぶっ飛ばせば済む。」

「準備だの、小細工だの。」

「そんなの弱い奴が考えることだ。」

今井は眼鏡を押し上げ、静かに答えた。

「違います。」

「準備は弱いからするものではありません。」

「生き残るためにするものです。」

湯田は肩をすくめる。

「ビビってるだけだろ。」

「オレは違う。」

「勇者は必要経験値が半分。」

「だからもうレベル二十だ。」

「この辺のゾンビなんか雑魚。」

「神谷なんて相手にならねぇ。」

今井は少しだけ微笑んだ。

「私は強さの話をしているわけではありません。」

「考え方の話です。」

「神谷くんは、自分一人が勝てばいいとは考えません。」

「仲間全員が生き残る方法を考えます。」

「そこが、あなたとの違いです。」

湯田の表情が険しくなる。

「だから。」

「比べるなって言ってんだ。」

「オレはオレだ。」

「神谷より弱いなんて言わせねぇ。」

今井は首を横に振った。

「一度もそんなことは言っていません。」

「あなたは強い。」

「でも。」

「強いことと、仲間を導けることは別です。」

一瞬だけ沈黙が流れる。

湯田は舌打ちすると踵を返した。

「チッ。」

「行くぞ。」

歩きながら後ろの男子へ指示を飛ばす。

「お前ら。」

「あいつらを見張っとけ。」

数人の男子が足を止める。

「交代でいい。」

「神谷が戻ってくるかもしれねぇ。」

「はい。」

「あと。」

湯田は振り返らずに続けた。

「今日の夜、奇襲をかける。」

その言葉に男子たちの空気が変わる。

「屋上までのルートがどうなってるか分からねぇ。」

「昼間に行くより夜の方がいい。」

三輪田が笑う。

「女子だけならすぐ終わるだろ。」

「油断するな。」

湯田は低い声で言う。

「怪我はさせるな。」

「女子は取り戻す。」

「……まぁ。」

「何人かには思い知らせてもいい。」

誰に向けた言葉なのかは、あえて口にしなかった。

「男はいないみたいだが。」

「油断するなよ。」

「それに。」

湯田はホームセンターを見上げる。

「この拠点。」

「そのまま使っても良さそうだ。」

男子たちは頷きながらマンションへの道を戻っていく。

その背中を見送りながら、屋上の佐々木は小さく息を吐いた。

「……夜に来る気か。」

その一言で、旧拠点に残った全員が緊張した表情になるのだった。

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