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週末の過ごし方  作者: Elle


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3/10

3日目

まだ夜が明けきる前。

俺はいつものように目を覚まえた。

日課になりつつある経験値稼ぎを始める。

木を切り。

石を砕き。

クラフトを繰り返す。

レベル上げは裏切らない。

やればやるだけ成果になる。

……まあ。

俺自身は、あまり強くならないんだけど。

そんなことを考えながら黙々と作業を続けていると。

【レベルアップ】

【レベル6になりました】

「おっ。」

さらに。

【レベルアップ】

【レベル7になりました】

初期はやっぱり上がるのはやいなぁ。


豆腐ハウスの扉が開いた。

「おはよー。」

瑠奈が大きく伸びをする。

「おはようございます。」

日向も眠そうに目をこすっていた。

「シャワー浴びてくるねー。」

「覗くなよ、クズ。」

「了解ー。」

「返事が軽い!」

「覗かないって。」

「朝ご飯作っとくよ。」

3人は豆腐浴室へと歩いて行った。

俺はガソリン発電機を回し、ホームベーカリーに小麦粉や材料を入れる。

ウィーン……。

しばらくすると、焼きたてのパンの香りが漂い始めた。

鍋にはスープ用のお湯を沸かす。

あとはジャムを並べれば朝食の準備は終わりだ。

その頃、豆腐浴室から三人の楽しそうな声が聞こえてくる。

「このシャンプーすごいんだよ!」

「リンスとセットで使うと髪がツヤツヤになるの!」

「ボディソープも、お肌がツルツルになるよ!」

少し間があって、、、

「なら私のダイナマイトボディも、スーパー・ダイナマイトボディになるということだな。」

「任せる。良きにはからえ。」

「ぶっ!」

浴室の中で亜紀と朋子が吹き出した。

「みゃー子、真顔で何言ってんの!」

「瑠奈ちゃんが言ったんじゃない。」

「私はそこまで言ってないって!」

浴室から笑い声が響く。

俺はパンを取り出しながら首をかしげた。

「……。」

「みゃー子?」


「うむ。」

「作りたてのパンが、こんなに美味しいとは。」

「もう一枚くれ。」

「あと、いちごジャムも。」

「はいはい。」

俺は焼きたてのパンを皿に追加する。

目の前では、みゃー子が当然のような顔でパンを頬張っていた。

ムシャ。

ムシャムシャ。

気付けば、俺の分まで食べ始めている。

「……。」

俺はスープをすすりながら尋ねた。

「何時からいたんだ?」

「昨日の夜からだな。」

「……えっ!?」

思わず固まる。

「全然気が付かなかったんだが。」

「それはそうだ。」

みゃー子は得意げに胸を張る。

「私は男に対して、常時【隠密】を発動しているからな。」

「……。」

「ダイナマイトボディを見せるわけにはいかん。」

「ソウデスカ。」

俺は棒読みで返事をする

「何か言いたいことがあるなら聞いてやる。」。

みゃー子が腕を組む。

「いや。特にはありません。」

「そうか。」

みゃー子は真面目な顔で続けた。

「隠密がなかったらあの環境では、私は3日でア〇顔ダブルピースをする事になってしまうぞ。」

「だから、自衛は大事だ。」

「……それは否定できないな。アヘ〇になるかはまた別の話だとは思うが。」

俺は素直に頷いた。

人数の多い集団では、余計なトラブルは避けるに越したことはない。

みゃー子は満足そうに笑うと、最後のパンを一口で食べた。

「それじゃあ、これからよろしく頼む。」

「あぁ、まぁ、こちらこそ。」

こうして俺たちの拠点は、

三人から四人へ。

少しだけ賑やかになった。


「あとで南も連れてくるから、よろしく。」

みゃー子がパンをかじりながら、さらっと言った。

「南さんも来るのか?」

「ああ。」

「確率で言えば南の方が感〇3千倍、アへ顔〇ブルピースになる確率が高いぞ。」

「え?」

「南は人を疑うことを知らないからな。」

「しかも三輪田が、あからさまに南の近くをうろうろしている。」

「このままだと時間の問題だ。」

その一言で、亜紀と朋子は顔を見合わせた。

「あー……。」

「なるほど。」

二人とも納得したように頷く。

「南ちゃんって、優しすぎるもんね。」

瑠奈がため息をつく。

「相手に悪気がないって思い込んじゃうタイプだし。」

「そうなんです。」

日向も真剣な表情になる。

「断るのも苦手ですから……。」

「だから早めに連れ出す。」

みゃー子はきっぱりと言った。

「トラブルになる前に動くのが一番だ。」

俺は静かに頷く。

「分かった。」

「受け入れる準備はしておく。」

「よし。」

みゃー子は満足そうに笑った。

「それじゃあ、作戦開始だ。」

ヒソヒソ・・・「瑠奈ちゃん。アへ顔ダ〇ルピースってなに?」「感度三〇倍って何の感度?」

ヒソヒソ、、、、「えっ!?ええっ!?」日向は小さくなり顔を真っ赤にしている。


「みゃー子とパーティーを組みますか?」

「はい。」

【宮内小鈴がパーティーに加入しました】

これで四人になった。

「ただ、一つ伝えておきたいことがある。」

俺は真面目な顔で切り出した。

「俺たちは近いうちに引っ越す。」

みゃー子は少しも驚かなかった。

「問題ない。」

「私はついていく。」

「……理由を聞いてもいいか?」

「簡単だ。」

みゃー子は即答した。

「あそこは、もうヤバい。」

「人数が多すぎる。」

「しかも、誰が決めたのか分からないまま、上に立つ連中ができている。」

「そのうち必ず揉める。」

「……やっぱりそう思うか。」

「思うとも。」

みゃー子はパンをかじりながら続ける。

「物資は共同管理。」

「でも労働量は人それぞれ。」

「働く奴ほど損をする仕組みになり始めてる。」

「そのうち不満が爆発する。」

「だから私は離れた方がいいと思う。」

俺は静かに頷いた。

俺も同じ考えだった。

「南さんが来てからでいい。」

「荷物をまとめておいてほしい。」

「了解。」

みゃー子は親指を立てる。

「元々、私の荷物なんて大した量じゃない。」

「必要な物は、このホームセンターで調達する。」

「持ち運べるだけ持っていけば十分だ。」

「それと。」

みゃー子が少しだけ真面目な顔になる。

「出発するときは、誰にも言わない方がいい。」

「……どうして?」

「止められる。」

「それだけならまだいい。」

「『物資を置いていけ。』『仲間なんだから分けろ。』って話になる。」

「最悪、『みんなのために残れ』って言われる。」

「なるほど。」

その可能性は十分ある。

三十七人もいれば、考え方は人それぞれだ。

「静かに出る。」

「それが一番安全だ。」

「分かった。」

俺は頷いた。

どうやら俺だけじゃない。

みゃー子も、あの集団の危うさに気付いていた。


みゃー子は軽く手を振ると、マンションの方へ歩いていった。

「じゃ、南を連れてくる。」

「ああ、気を付けて。」

その背中を見送り、俺は大きく伸びをする。

「さて。」

「俺たちもやることやりますか。」

「はーい。」

「了解です。」

三人で引っ越しの準備を始めた。

食料。

工具。

クラフト素材。

武器。

使えそうな日用品。

忘れ物がないように一つずつ確認していく。

「電動自転車も持っていきたいな。」

俺は発電機につないである充電器を見る。

バッテリーは満充電。

予備バッテリーも充電しておこう。

移動手段は多いほどいい。

その時、ふと思った。

「そういえば。」

「二人のストレージって、どんな感じなんだ?」

「これだよー。」

瑠奈がポケットから取り出したのは、小さな化粧ポーチだった。

「へぇ。」

「そんな小さいんだ。」

「でもね。」

「大きい物でも――」

シュンッ。

目の前のリュックが一瞬で消えた。

「こんな感じで入るよ。」

「なるほど。」

「小さい物は?」

「まとめて八個までかな。」

「大きい物は一枠に一個。」

「容量は十八。」

「ふむふむ……。」

俺は頷きながら聞いていた。

……その瞬間。

「!!!!」

頭の中で、一つの可能性がつながった。

(待て。)

(それって……。)

俺は恐る恐る聞く。

「日向。」

「その袋って、瑠奈が使えたりする?」

「あと、その逆とか。」

「え?」

二人は顔を見合わせる。

「分かんない。」

「やってみよっか。」

瑠奈が自分の化粧ポーチを朋子へ渡す。

日向が受け取り、中を確認する。

「……あ。」

「使えます。」

「ほんと?」

今度は日向のポーチを亜紀が持つ。

シュンッ。

床に置いてあった工具箱が吸い込まれる。

「できるね。」

「普通に使えちゃう。」

「…………。」

瑠奈が日向のストレージポーチを返した。

俺は腕を組んだまま考え込む。

「……。」

「どうしたの?」

瑠奈が不思議そうに尋ねる。

「一つ、ヤバいことに気付いた。」

「え?」

俺はゆっくりと言った。

「ストレージは共有じゃない。」

「中身も見えない。」

「でも――。」

俺は日向のポーチを指差す。

「他人のストレージを、そのまま使える。」

二人は一瞬きょとんとした。

「それって、そんなに大変?」

「大変なんてもんじゃない。」

俺は首を横に振る。

「例えば。」

「瑠奈が気絶したとする。」

「俺は瑠奈のストレージポーチを回収する。」

「そうすれば、中身を取り出して使える。」

「……あ。」

瑠奈の表情が固まる。

「逆に。」

「敵を倒して、その相手がストレージを持っていたら?」

「……。」

「ストレージごと奪える。」

日向が小さく息をのんだ。

「つまり……。」

「物資だけじゃない。」

「ストレージそのものが戦利品になる可能性がある。」

「だから、ストレージは絶対に失くしちゃダメだ。」

「落としてもダメ。」

「盗まれてもダメ。」

「死んだら……たぶん全部持っていかれる。」

重い沈黙が流れる。

さっきまで便利だと思っていたストレージが、一気に危険な存在へ変わった。

「肌身離さず持っておこう。」

日向はポーチをぎゅっと握りしめる。

「うん……。」

瑠奈も真剣な顔で頷いた。

俺は最後に一言だけ付け加えた。

「この世界じゃ、ストレージは財布なんてもんじゃない。」

「命の次に大事な物だ。」


みゃー子合流後の一幕


「さて。」

「レベルも上がったし、スキルでも取るか。」

俺はステータスを開く。

【レベル:7】

【スキルポイント:6】

「人数も二人増えるし、考えて取らないとな。」

スキルツリーを眺める。

「まずはこれだ。」

【倉庫系】

【スタック数増加Ⅰ】

消費SP:1

取得しますか?

「はい。」

【スタック数増加Ⅰを取得しました】

【同一アイテムのスタック数】

6個→12個

「よし。」

これだけでもかなり違う。

次は――

【時間停止収納】

消費SP:1

「これも取得。」

【時間停止収納を取得しました】

収納した物の時間経過が停止します。

「食料保存には必須だな。」

残りポイントは4。

さらにスクロールしていく。

「……ん?」

【混載収納】

消費SP:3

箱やコンテナ単位で収納可能になります。

収納した箱は、中身に関係なく一つの荷物として扱われます。

※スタック不可

※箱の大きさに応じて1~複数マス消費

「おぉ!」

「これ、いいじゃないか!」

つまり。

ダンボール一箱に色々詰め込めば、そのまま収納できる。

「効率重視、万歳。」

詳細を開く。

【収納可能サイズ(1マス)】

46.2cm × 45.0cm × 46.7cm

「……細かいな。」

少し考えて、すぐに思い当たる。

「あ。」

「ホームセンターで見た、トイレットペーパー六十四ロール入りの段ボール箱か。」

「あれなら一マス扱いなんだ。」

結構いろいろ入りそうだ。

「みんな荷物の厳選で苦労してるし。」

「教えてあげるか。」

俺は三人を呼んだ。

「おーい。」

「こういう感じで段ボールにまとめると、一箱ごと収納できるぞ。」

「えっ!?」

「すごーい!」

瑠奈が目を輝かせる。

「助かるわー!」

「めちゃくちゃ捗る!」

日向も感心したように頷く。

「これなら荷物を減らさなくても済みますね。」

俺は腕を組んでうなずく。

「もっと褒めてもええんやで。」

三人は顔を見合わせた。

「で。」

瑠奈がにっこり笑う。

「何箱までいいの?」

「え?」

「一人一箱じゃないの?」

「…………。」

三人の笑顔がそろう。

「わー、すごーい。」

「助かるわー。」

「捗るわー。」

「僕のストレージを圧迫してしまうのですが?」

俺が恐る恐る反論する。

しかし三人は聞いていない。

「わー、すごーい。」

「助かるわー。」

「捗るわー。」

「……二箱でお願いします。」

俺は早くも折れた。

すると、みゃー子が肩をぽんと叩く。

「神谷。」

「今日はなぜかカッコいいな。」

瑠奈も続く。

「今日はなんかとってもセクシーだね。」

日向まで微笑みながら言った。

「おひげも伸びててダンディです。」

「やめてくれ……。」

俺が頭を抱えると、三人は満面の笑みで声をそろえた。

「じゃあ。」

「三箱でお願いね。」

「ありがとうー!」

「……。」

(最初からそれが目的だったな、お前ら。)

俺は何も言い返せず、静かにダンボール箱を組み立て始めた。


宮内小鈴

マンションに戻ると、ちょうど大勢が外へ出てくるところだった。

どうやら探索に向かうらしい。

目立った敵の気配がないためか、全体的に緊張感は薄い。

「こっちは見てくる!」

「俺はコンビニへ!」

「あっちは誰か行ったか?」

各々が思い思いに散っていく。

(……統率が取れていないな。)

私は周囲を見渡した。

「南は……。」

いた。

屋上で火の番をしている。

「南。」

「あっ、みゃー子!」

南がぱっと笑顔を見せる。

「どうしたの?」

「というか、昨日どこに行っていたの?」

「心配していたんだよ。」

「南。」

私は真顔で言った。

「お花を摘みに行こう。」

「……今すぐ。」

「え?」

「漏れそうで、危ないんだ。」

「え、う、うん。」

「付き合うよ。」

二人で屋上を降りようとしたところで、三輪田が声を掛けてきた。

「あれ? 南ちゃん、どうしたの?」

「火の番は?」

南が申し訳なさそうに答える。

「えっと……少しお花を摘みに。」

「少しだけ離れても大丈夫?」

「ああ、いいよ。」

三輪田は笑顔で頷いた。

「火なら俺が見てるから。」

「戻ってきたら一緒に火の番しよう。」

「……はい。」

(気付かれていないな。)

私は心の中で頷く。

【隠密】を発動している私の存在には、誰も気付いていない。

(このまま急所でも蹴り飛ばしてやろうか。)

一瞬、物騒な考えが頭をよぎる。

(……いや、やめておこう。)

(今はそれどころではない。)

マンションから少し離れ、人目につかない場所まで移動する。

「南。」

「少し止まって。」

私はパーティー申請を送った。

【宮内小鈴がパーティー申請を送っています】

「え?」

「何これ?」

「入って。」

南は首をかしげながら承認した。

【南がパーティーに加入しました】

「で、お花摘みは?」

「【隠密】発動。」

私がそう呟くと、南の姿がふっと周囲の景色に溶け込んだ。

「えっ!?」

「すごい!」

「これで誰にも見つからない。」

私は満足げに頷く。

「よし。」

「今のうちに神谷のところへ行くぞ。」

「え?」

「なんで?」

私はにやりと笑った。

「神谷がお前に会いたがっているらしい。」

「……えっ!?」

南の顔が一瞬で赤くなる。

「ほ、本当?」

「えへへ……。」

「ど、どうしよう。」

「困っちゃうなぁ。」

私はため息をつき、真顔で南を見た。

「いいか南。男というのは皆、狼のようなものだ。隙を見せてはいけない。」

「わかってるよー」

そう言いながらも、口元は緩んでいた。

「……。」

私はそんな親友を横目で見る。

(お前も案外、単純だな。)

そのまま歩き出そうとした瞬間、南が私の袖をくいっと引いた。

「ね、ねえみゃー子。」

「神谷君ってさ……私に何の用事かな?」

「……ちょっと気になって。」

私は歩きながら、ちらりと南を見る。

「さあな。」

「用があるから呼んでいるんだろう。」

「行けば分かる。」

「そ、それはそうだけど……。」

南はもじもじと視線を泳がせる。

「みゃー子はさ。」

「神谷君のこと、どう思ってるの?」

私は一瞬だけ間を置いて答えた。

「普通だ。」

「……普通だな。」

「え、えー……普通なんだ。」

南は少し残念そうにしつつも、どこか納得しきれていない表情をしている。

「本当に普通?」

「普通だ。」

「それ以外はない。」

「ふーん……。」

「普通、かぁ……。」

南はなぜか嬉しそうでもあり、不満そうでもあり、複雑な表情を浮かべていた。

私は小さくため息をつく。

(全部普通でいいだろう、別に。)

そのまま二人で、神谷たちの拠点へと向かった。


「そういえば。」

歩きながら、みゃー子が思い出したように口を開いた。

「何?」

南が首をかしげる。

「神谷がな。」

「『南さんは大丈夫か?』って心配してたぞ。」

「え?」

「『変な連中に絡まれてないか』って。」

南は少し照れくさそうに笑う。

「そ、そうなんだ。」

「それと。」

みゃー子は真顔で続けた。

「『アヘ顔ダブ〇ピースになってないか?』とも心配していた。」

「……?」

南はきょとんと目を瞬かせた。

「何それ?」

「……。」

みゃー子は数秒考える。

「まあ、深く考えるな。」

「そういう言い回しだ。」

「そ、そうなの?」

「そういうことにしておけ。」

「う、うん。」

南は納得したような、していないような表情で頷いた。

(知らないなら、そのまま知らない方が平和だ。)

みゃー子は心の中だけでそう呟き、何事もなかったように歩き続けた

こうして、神谷の身に覚えのない冤罪事件は、今日もまた一つ積み重なっていくのであった。


「……あ。」

嫌な予感がした。

「何?」

瑠奈が首をかしげる。

「ちょっと待って。」

俺は指を折りながら計算を始めた。

「今の俺のストレージは二十マス。」

「うん。」

「みんなの段ボールを三箱ずつ運ぶ。」

「瑠奈が三箱。」

「日向が三箱。」

「みゃー子が三箱。」

「……九マス。」

「さらに南さんも来る予定だから三箱。」

「合計十二マス。」

「二十引く十二で……。」

「八。」

「…………。」

俺はその場で固まった。

「でも。」

「俺、自分の荷物もある。」

「ストレージ数増加Ⅰ。」

消費SP:1

増加量:+3マス

「取得。」

【ストレージ数増加Ⅰを取得しました】

【ストレージ】

20マス→23マス

「よし。」

……よくない。

全然よくない。

俺はもう一度計算する。

23-12。

「……11。」

「…………。」

「想定より一つ少ない。」

俺は頭を抱えた。

「どうしたの?」

朋子が心配そうに聞いてくる。

「ストレージが。」

「十一マスしか残らない……。」

「……。」

「……。」

三人は一瞬だけ沈黙した。

そして。

「あっはははは!」

瑠奈が腹を抱えて笑い出す。

「自分で便利なスキル取って、自分が一番苦しくなってるじゃん!」

「神谷らしいな。」

みゃー子も肩を震わせる。

「自己犠牲にも程がある。」

日向が苦笑しながら頭を下げた。

「すみません……。」

「私たちのせいで。」

俺は遠い目で空を見上げる。

「いや。」

「みんなが快適なら、それでいい。」

「神谷……。」

「いい人だね。」

「優しい。頼りになります。」

三人が口々に褒め始める。

「……。」

(まただ。)

(これは何か企んでる時の流れだ。)

嫌な予感しかしない。

案の定。

「そうだ。」

瑠奈がにっこり笑った。

「あと一箱ずつ増やせたりする?」

「しません。」

即答だった


しばらくして。

「ただいまー。」

屋上の扉が開き、みゃー子と南さんが戻ってきた。

「おかえり。」

「神谷君!」

南さんは嬉しそうに手を振る。

相変わらず少し垂れ目で、ふわっとした笑顔。

……癒やされる。

「とりあえず。」

「二人ともシャワー浴びてきな。」

「お風呂も使えるぞ。」

「えっ!?」

南さんが目を丸くする。

「お風呂?」

「この世界で?」

「うん。」

「お湯も出る。」

「シャワーも使える。」

「えぇ!?」

「すごーい!」

亜紀が得意げに胸を張る。

「神谷が作った!」

「材料は全部ホームセンター!」

「すごいでしょ!」

「へぇ……。」

南さんは感心したように浴室を見つめる。

「じゃあ、お言葉に甘えて。」

二人は浴室へ向かっていった。

しばらくして。

「気持ちよかったぁ。」

「生き返りました。」

さっぱりした顔で戻ってくる。

そのまま夕食。

パン。

スープ。

ジャム。

質素だが、温かい食事だ。

食べながら、マンションでの話を聞いた。

誰が指示を出しているか分からないこと。

共同管理と言いながら、一部の人間だけが楽をしていること。

南さんに三輪田がしつこく話しかけていたこと。

聞けば聞くほど、ため息しか出ない。

「……。」

「やっぱりな。」

思わず苦笑する。

(さすが俺を裏切った連中だ。何一つ変わってない。そこだけはブレないんだな。)

少しだけ腹が立った。

食事が終わったところで、全員に話をする。

「一つ伝えておく。」

みんなが俺を見る。

「早ければ明日。」

「遅くとも明後日には、この拠点を離れる。」

四人とも真剣な表情で頷いた。

「それまでに。」

「持って行く荷物を整理しておいてほしい。」

「段ボールでもいい。」

「ストレージでもいい。」

「自転車に積んでもいい。」

「必要な物だけ、ちゃんと選んでおいて。」

「了解。」

「分かったー。」

「はい。」

「任せろ。」

それぞれ返事が返ってくる。

話が終わると、南さんが俺の隣まで歩いてきた。

「神谷君。」

「ありがとう。」

「迎えに来てもらえて、本当に安心した。」

少し垂れ目の優しい目。

そして、柔らかな笑顔。

「……。」

(癒やされるわ。)

俺は思わず笑ってしまった。

「どうしたの?」

「いや。」

「何でもない。」

こんな笑顔を守れるなら。

少しくらいストレージが圧迫されても……まあ、いいか。

……いや。

やっぱり11マスは少ないな。


みんなが、それぞれ持っていく荷物を厳選していた。

段ボールへ詰める者。

ストレージへ収納する者。

自転車の荷台に積む者。

「これ持ってく?」

「それ重くない?」

「ジャムは全部!」

「全部はダメ。」

そんなやり取りが聞こえる中――。

「おーい! 神谷ー!」

道路の方から声が響いた。

俺は反射的に身を低くする。

「みんな、隠れて。」

窓際からそっと様子をうかがう。

立っていたのは一人の男子。

「あ。」

「佐々木か。」

俺は姿を見せた。

「おー、どうした?」

「様子見だよ。」

佐々木は苦笑する。

「そっちは?」

「まぁ、なんとかやれてる。」

「そっちは?」

「まぁ……あんまり良くないな。」

「そうか。」

「少し話は聞いたけど、やっぱり良くないっぽいな。」

「はは……。」

佐々木は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「まぁ、上に来るか?」

「何か食べていけよ。」

「……いいのか?」

「お前は別に俺の敵じゃないだろ?」

「……そうだな。」

佐々木は笑った。

「ありがとう。」

屋上へ案内し、出来たばかりのパスタを皿によそう。

「いただきます。」

一口食べた佐々木の動きが止まる。

「……うま。」

「久しぶりにまともな飯食った気がする。」

「そんなにか。」

「向こうは毎日、薄いスープだからな。」

俺たちは食事をしながら、お互いの状況を話した。

「そっか。」

「移動するのか。」

「ああ。」

「さすがに、あいつらの近くは危なくてな。」

「すまん、行き先は悪いけど言えない。」

「いや。」

「それでいいと思う。」

少し間を置いて、俺は聞いた。

「一緒に来るか?」

佐々木は即座に首を横に振る。

「無理。」

「向こうに彼女いるし。」

「置いていけるわけないだろ。」

「……わかってて聞くな。」

「だよな。」

俺も苦笑する。

「丁度いいタイミングなんだが」

「この拠点、俺たちが出たあと使ってもらいたいんだ。」

「いいのか?」

「もちろんいい。」

「ただ、一つ頼みがある。」

俺は封筒を一枚取り出した。

「この手紙を今井さんに渡してほしい。」

佐々木は封筒を受け取る。

「副委員長の今井さんに?」

「ああ。」

「できれば、女子を中心にこの拠点へ避難させてほしい。」

「……。」

佐々木の表情が真剣になる。

「言いたくはないけど。」

「そろそろ女の子に馬鹿なことを考える奴が出る気がする。」

「あぁ……。」

佐々木も否定しなかった。

「今井さんなら信用できる。」

「女子だけでも守ってやってほしい。」

「分かった。」

「ちゃんと渡す。」

「ありがとう。」

少し沈黙が流れる。

佐々木が口を開いた。

「移動はいつだ?」

「明日の昼になると思う。」

「それまでに、この拠点周りはトラップだらけにしておく。」

「気を付けろよ。」

「あー。」

「あいつらが押しかけてきた時のためか。」

「そういうこと。」

「それと。」

俺は屋上の隅を指差した。

「弓。」

「槍。」

「石斧。」

「予備を何本か置いていく。」

「使ってくれ。」

佐々木は少し黙ったあと、小さく笑った。

「ありがとな。」

「俺、お前と友達で良かったわ。」

「昔さ。」

「幼なじみがいる奴なんて滅べって思ってて、ごめんな。」

「はは。」

俺も笑う。

「俺も彼女いる奴は滅べって思ってたよ。」

「お互い様だな。」

「違いねぇ。」

二人で顔を見合わせて笑った。

終末世界になっても。

こうして笑い合える友達がいる。

それだけは、少しだけ救いだった。


佐々木篤

マンションへ戻る道を、一人で歩く。

手には神谷から預かった手紙。

腹の中には久しぶりの温かいパスタ。

「……うまかったな。」

思わず苦笑する。

あいつ、本当に終末世界を生きてるのか?

屋上には風呂。

シャワー。

パン。

パスタ。

笑い声。

そして女の子四人。

どう考えても俺たちより生活レベルが高かった。

「すげぇよ。」

あいつの職業の能力だったのか?

いや。

職業だけじゃない。

神谷だから、あそこまで出来るんだろう。

俺なら絶対無理だ。

マンションが見えてきた。

屋上へ戻ると、いつもの空気が流れている。

誰かが薪を割り。

誰かが火を見張り。

誰かが探索から戻ってきていた。

「佐々木。」

今井さんが近寄ってくる。

「どこ行ってたの?」

「ちょっと知り合いの様子見。」

「そう。」

副委員長らしく、それ以上は詮索しなかった。

俺は周囲を確認する。

湯田。

三輪田。

伊藤。

三人は屋上の端で何か話している。

今なら渡せる。

「今井さん。」

「これ。」

封筒を差し出す。

「神谷から。」

「え?」

今井さんは驚いた顔で封筒を受け取る。

中を読む。

読み進めるにつれて、表情が真剣になっていく。

「……そう。」

「分かった。」

静かに封筒を畳んだ。

「佐々木君。」

「ありがとう。」

「内容は聞かないでおくよ。」

「助かるわ。」

俺は小さく頷いた。

「あいつ。」

「最後まで俺たちの心配してた。」

「自分たちは出て行くのに。」

「武器も置いていくって。」

今井さんは少しだけ笑う。

「本当に、お人好し。」

その言葉に俺も苦笑した。

「そうなんだよ。」

「昔からそう。」

「だから損する。」

少し間が空く。

「でも。」

「そういう奴だから、俺は好きなんだけどな。」

遠くを見る。

屋上では三輪田が南を探している。

「南ちゃん知らない?」

「まだ戻ってない?」

周囲が少しざわつき始めていた。

俺は心の中だけで呟く。

(もう戻らないよ。)

(あいつは、あっちの方が幸せになれる。)

少しだけ寂しい。

でも、それでいい。

神谷なら。

きっと南を守ってくれる。

そして俺は。

ここで彼女を守る。

それぞれ守る相手が違うだけだ。

俺は預かった想いを胸に、小さく息を吐いた。

「さて。」

「俺も頑張るか。」


今井知恵

私は昔から「可愛げがない」とよく言われる。

きつめの眼鏡。

おかっぱ頭。

真面目そうな顔。

いかにも委員長。

……別にいい。

もう慣れた。

こんな私でも、中学一年の頃には彼氏がいた。

神谷くん。

三年間付き合った。

だけど、結局うまくはいかなかった。

私は何事も全力でやるタイプだ。

勉強も。

部活も。

委員会も。

やるなら一番を目指したい。

でも神谷くんは違った。

「クリアできるなら、そこまででいいんじゃない?」

そんな人だった。

私は何度も聞いた。

「なんでそんなに本気を出さないの?」

「一度でいいから、全力を出してみてよ。」

とお願いしたらあっさり、その次の期末テスト。

彼は全教科満点を取った。

私を追い抜いて、学年一位になった。

答案を返された教室で、私は呆然とした。

「ああ……。」

「この人、本当にできるんだ。」

悔しかった。

でも、それ以上に嬉しかった。

胸が高鳴った。正直濡れた。その勢いでげふんげふんなことをしてしまった。

まぁ・・・後悔はしてない。あ~なるのが当然の展開だったからだ。

だから私は思った。

(やればできるじゃない。)

(だったら、いつも本気を出してよ。)

……でも。それっきりだった。

またいつもの神谷くんに戻ってしまった。


蚊取り線香のように「身を削り、煙を出し、誰かを守る」

打ち上げ花火のように「一瞬の爆発的な輝きと、その後に訪れる儚い静寂」


神谷くんは、そのどちらとも少し違う。

普段は火を消したように力を隠している。そして。

本当に必要な時だけ。

信じられないくらいの力を見せる生き様は、

まさに「熾火(おきび)」、あるいは「神社の灯籠(とうろう)」だ。

……ただし。

その「必要な時」が、なかなか来ない。

もう少し頻繁に頑張ればいいのに。

そう思ったことは、一度や二度じゃない。

でも。

今回だけは違う。

終末世界。

命の危険。

そんな状況になっても。

彼は私たちのことを気に掛けてくれていた。

佐々木君から受け取った手紙。

武器を置いていくこと。

この拠点を女子たちに使ってほしいということ。

危なくなったら逃げてほしいということ。

読み終えた私は、小さく息を吐いた。

「……ほんと。」

「変わらないな。」

自分たちは出て行くのに。

最後まで他人の心配をしている。

損ばかりする性格。

昔と何一つ変わっていない。

私は手紙を胸に抱いた。

少しだけ。

ほんの少しだけ。

胸が温かくなる。

「ありがとう。」

その言葉は誰にも聞こえない。

だけど、確かに私はそう呟いていた。

あの頃の私は。

彼のそんな不器用な優しさに、気付けていただろうか。

……たぶん。

気付いていなかった。

だからこそ。

今なら少しだけ分かる。

彼は怠けていたんじゃない。

力を出し惜しみしていたわけでもない。

ただ。

本当に大切だと思った時だけ。

全力を出す人だったのだ。

そしてその全力は私の想像を遥かに超えていて

出来ないことなど何もないくらいの全力なんだろう。

だから後悔する確率はゼロなんだろうな。


あーあー。別れなきゃよかった。


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