蒐集家 「塚の下」
一
人形塚は、隣の集落の外れ、小さな竹林の中にあった。長年、手入れされていない様子で、塚の周りには、雑草が生い茂っていた。
「ここです」塚本智子が、記憶を頼りに、その場所を示した。「祖母と、最後に来たのは、もう四十年以上前になります」
田中軍蔵は、塚の前で、静かに手を合わせた。江戸川勉、安藤修、工藤俊一、秋月小五郎、島田司も、それに続いた。
「本来なら、正式な神主に、儀式をお願いするべきですが」田中は言った。「今回は、時間の関係もあり、簡易的な形で、還しの作法を行います」
田中は、依頼人が持ってきた人形を、塚の前に、丁寧に置いた。
「本来、あなたが還るべき場所に、ようやく、還ってきました」田中は、静かに語りかけた。
その時、塚の土の一部が、雨風で長年削られていたためか、崩れかけていることに気づいた坂東直樹が、声を上げた。
「田中さん、ここ、少し様子がおかしい。塚の内部が、見えています」
二
崩れた部分から見えたのは、塚の内部に、複数の、古い人形や、木片が、丁寧に並べられている光景だった。
「これは……」土志田沙彩が、驚いたように言う。「一体だけじゃなかったんですね」
坂東が、慎重に、崩れた部分を確認しながら言った。
「見たところ、少なくとも、五体以上の人形が、埋められています。それぞれ、時代の違う様式のものです」
「つまり」田中が言った。「塚本家は、代々、こうして、"還ってきた"人形や、"送り先を失った"厄を、この塚に、一つずつ、受け止め続けてきた、ということですね」
「今回、依頼人の人形が、迷い込んでしまったのは」島田が言う。「塚本家が、正式な後継者を失って、"受け入れ先"としての役目を、正しく続けられなくなっていたから、ということかもしれません」
塚本智子は、崩れた塚の内部を見つめ、静かに涙を浮かべた。
「祖母や、父が、どれだけ、この役目を、大切にしていたか――今、初めて、実感しました」
三
田中は、慎重に、塚の修復を提案した。
「今回の人形を還すだけでなく、この塚全体を、正式に、修復し直す必要があると思います」田中は言った。「江刺家さん、大工の技術のある方に、相談してみましょう」
「うちの店の常連に、鏑木さんという、腕のいい大工がいます」江戸川が言った。「可児の一件でも、お世話になった方です」
「それは、心強いですね」田中は答えた。
横溝周平が、崩れた塚を見ながら、静かに言った。
「わしが、五十年前に取材した時、この塚のことを、もっと丁寧に、記録に残しておくべきだった。当時は、単なる興味本位の取材だったが……今になって、その重みが、よくわかる」
「先生、今からでも、遅くはないと思います」金田一崇が、横溝に声をかけた。「今回のことを、正式に記録として残せば、それは、この塚にとっても、意味のあることになるはずです」
田中は、崩れた塚の内部を、丁寧に写真に収めながら、静かに考えていた。
この塚には、まだ、他にも、正しい場所を見つけられていない"何か"が、眠っているのかもしれない。
塚の中から複数の人形が見つかり、塚本家が代々「行き場を失った厄の受け皿」を担い続けていたことが判明しました。鏑木大工との連携で塚の修復を進めることになり、横溝も自身の過去の取材の重みを噛みしめています。
最終話、塚の修復と正式な引き継ぎ、そして田中自身が見出す仕事の新たな意味です。




