蒐集家 「旧家の言い伝え」
塚本家という「本来の受け皿」の家系にたどり着き、その娘・塚本智子と共に人形塚を訪ねることになりました。「役目を継ぐ人がいなくても、本来の場所に還すことに意味がある」という田中の言葉が軸になっています。
次は人形塚での儀式と、そこで見つかる思いがけないものです。
一
「横溝先生、心当たりというのは」田中軍蔵が、身を乗り出して聞く。
横溝周平は、老眼鏡を外し、ゆっくりと語り始めた。
「わしが、まだ駆け出しの物書きだった頃――五十年以上も前の話だが、可児のこの辺りを取材で回ったことがある。その時、隣の集落に、"人形塚"と呼ばれる、小さな塚を持つ旧家があると聞いた」
「人形塚、ですか」土志田沙彩が、興味深そうに聞く。
「その家は、代々、"厄を受け止める役目"を担ってきた家系だと、当時、村の古老から聞いた。ただ、わしが訪ねた時には、既に、その家系の当主が、役目を継ぐことを拒み、家を出て行ったと聞かされた」
「継ぐことを、拒んだ……」田中は、思わず、根古親司の父、根古定一の話を思い出した。
「その家の名前は、覚えていらっしゃいますか」江戸川勉が聞く。
「たしか――"塚本"という名字だったと記憶している」横溝は答えた。
二
田中は、可児署の雨月雅之に、塚本家の現在の所在を調べてもらうよう依頼した。数日後、雨月から連絡が入った。
「塚本家、現在の当主は、既に亡くなっていますが、その娘にあたる方が、今も、隣の市に住んでいることが確認できました」
田中と江戸川、島田司は、その女性――塚本智子、六十代を訪ねることにした。
「人形塚、ですか」塚本智子は、話を聞いて、驚いた様子を見せた。「その話、祖母から、一度だけ聞いたことがあります。うちの家は、"厄を受け止める役目"を、代々担ってきたけれど、父の代で、その役目を、正式に辞退したと」
「辞退した理由は」田中が聞く。
「詳しくは知りません。ただ、父は、生前、こう言っていました。"あの役目は、正式に辞めるとしても、勝手に投げ出してはいけない。誰かに、きちんと引き継がなければ、行き場を失ったものが、彷徨うことになる"と」
「まさに、今、起きていることですね」島田が呟く。
三
「正式に、辞退の手続きを、済ませていなかった、ということですか」秋月小五郎が確認する。
「おそらく」田中が答えた。「塚本家が、役目を正式に辞退する前に、既に、依頼人の家系に、誤って厄が流れてしまっていた。そして、塚本家自身も、その後、役目から離れてしまった」
「つまり、今、この人形を、正しく還すべき場所が、どこにもない、ということですか」江戸川が聞く。
田中は、少し考えてから答えた。
「いいえ、一つだけ、方法があります」
「どんな方法ですか」
「人形塚――塚本家が、代々守ってきたという、その塚が、もし、今も残っているなら。そこに、正式な形で、人形を還すことです。役目を継ぐ人がいなくても、"本来の場所"に還すことに、意味はあるはずです」
塚本智子は、少し考えてから、静かにうなずいた。
「塚の場所なら、覚えています。子供の頃、祖母に連れられて、何度か、お参りしたことがあります」
田中は、依頼人と塚本智子、そして、集まった一同に向けて、静かに言った。
「では、皆さんで、その塚を訪ねましょう。この人形を、ようやく、正しい場所に、還す時が来たのかもしれません」




