蒐集家 「本来の持ち主」
「送り先を間違えた厄」という、これまでのシリーズ共通のテーマと同じ構造が、今回はもっと身近な家族の因縁レベルで再現されました。横溝周平が「隣の集落の旧家に心当たりがある」というところで引いています。
一
依頼人の女性――彼女の名前は、伏せられたまま、田中軍蔵の店では、単に「依頼人」として扱われていた――の祖母の遺品を、さらに詳しく調べることになった。
「お祖母様は、生前、この人形について、何か話していませんでしたか」田中が聞く。
「詳しくは、聞いていません。ただ、"この人形は、大事にしなさい。でも、絶対に、顔を作り直してはいけない"と、繰り返し言われていました」
「顔を作り直してはいけない、というのは、興味深い言葉ですね」歴史学者の土志田沙彩が言った。
田中は、依頼人の祖母の出身地を尋ねた。可児市内の、古くからの集落の一つだった。
「その集落の記録、木下千恵さんの家に、何か残っていないか、確認してみましょう」田中が提案する。
二
動物病院の院長、木下千恵の家に保管されている古い記録を、土志田と坂東直樹が、丹念に調べた。
「ありました」坂東が、古い過去帳の写しを指さす。「明治三十年代、この集落で、"見立て違いによる、災いの誤伝達"という、奇妙な記述があります」
「見立て違い、というのは」江戸川勉が聞く。
「当時、この地域には、"厄を人形に移し、川に流す"という、民間の風習がありました」坂東が説明する。「ただ、この記録によると、ある年、本来、別の家の厄を移すはずだった人形が、誤って、依頼人の祖母の家系に渡ってしまった、とあります」
「誤って渡った、ということは」田中が確認する。
「本来の"送り先"――厄を引き受けるべきだった家系とは、別の家系に、この人形が、そのまま留まり続けてしまった、ということです」
田中は、思わず、以前から気になっていた、根古親司から聞いた話を思い出した。
「これは、もしかすると――九頭竜や徳山、可児の祠と、似た構造の話かもしれません」田中は呟いた。
三
「送り先を間違えた"厄"が、正しい場所に還れないまま、留まり続ける」島田司が、田中の言葉を引き継ぐ。「今回も、同じパターンですね」
「では、正しい送り先は、どこだったんですか」秋月小五郎が聞く。
「過去帳には、"本来の受け取り手は、隣の集落の、旧家であった"とだけ、記されています」坂東が答えた。「ただ、その旧家が、今も存在するかどうかは、わかりません」
田中は、依頼人に、この経緯を、丁寧に説明することにした。
「つまり、うちの家族は、本来、受け取るはずのなかった"厄"を、ずっと、代わりに受け止め続けてきた、ということですか」依頼人は、複雑な表情で聞いた。
「そういうことになります」田中は答えた。「ですが、責める話ではありません。お祖母様が、"顔を作り直してはいけない"と言い続けたのは、おそらく、下手に手を加えれば、留まっているものを、余計に刺激してしまうと、経験的に知っていたからだと思います」
「これから、どうすればいいんですか」
田中は、静かに答えた。
「正しい送り先――隣の集落の旧家を、探し出す必要があります。もし、その家系が、今も続いているなら、正式な形で、この人形を、本来の場所に、還すべきです」
横溝周平が、興味深そうに、その場の会話を聞いていた。
「これは、また、面白い謎になってきましたな」横溝は、老眼鏡の奥で、目を輝かせた。「隣の集落の旧家――わしにも、少し、心当たりがあります」
全員が、横溝の方を見た。




