蒐集家 「呪物、届く」
人形の本来の持ち主を辿る調査が始まる。そして、田中が、人形に込められた、もう一つの意図に気づく。
一
田中軍蔵、四十三歳の"心霊蒐集"としての仕事は、基本的に、地味なものだった。骨董市や、遺品整理の現場から、いわく付きの品を見極め、必要であれば、丁寧に鎮め、時には、しかるべき場所に納める。
その日、田中の事務所を兼ねた小さな店に、慌てた様子の女性が駆け込んできた。
「田中さん、これを、見てもらえますか」
彼女が差し出したのは、古い木製の人形だった。着物を着せられているが、顔の部分が、不自然にすり減っている。
「これは、どこで手に入れたものですか」田中が聞く。
「祖母の遺品です。骨董市に出そうとしたら、お店の人に、"これは、専門家に見てもらった方がいい"と言われて」
田中は、人形を手に取った瞬間、微かな違和感を覚えた。
「お客さん、最近、身の回りで、何か変わったことは、ありませんでしたか」
「実は……この人形を家に置くようになってから、家族が、次々と、体調を崩すようになりました」
二
田中は、この件を、可児署の雨月雅之と、私立探偵の江戸川勉、安藤修に相談することにした。
「田中さん、こういう相談、よく受けるんですか」江戸川が聞く。
「年に、数件です」田中は答えた。「ほとんどは、単なる偶然か、あるいは、心理的な思い込みです。ただ、今回のものは、少し、様子が違います」
田中は、人形を、慎重に調べた。
「この人形、作られたのは、おそらく、明治期です。ただ、顔の部分が、意図的に、削られています」
「意図的に、というのは」安藤が聞く。
「誰かが、この人形に込められた"何か"を、消そうとした跡です。ただ、完全には、消しきれていません」
歴史学者の土志田沙彩、考古学者の坂東直樹も、この話を聞いて、興味を示した。
「明治期の人形で、顔を削るという行為は、当時、"呪いを込めた人形を、無力化する"ための、民間の風習の一つだったと言われています」土志田が説明する。
「つまり、誰かが、この人形を、一度、封じようとしていた、ということですか」坂東が言う。
三
その夜、田中の店に、作家の横溝周平、金田一崇、小説家の佐藤直樹、心霊作家の堤直樹、そして、アメリカ人作家のショー・ラッシングが、揃って顔を出した。
「田中さん、面白い話を聞きつけて来ました」横溝が、老眼鏡をかけながら言う。
「先生方、今回は、興味本位で首を突っ込むには、少し危険な案件かもしれません」田中が、忠告する。
「危険だからこそ、興味がある」堤が、静かに言った。
占い師の島田司、フェルナンド・村田も、ほぼ同時に、店に姿を見せた。
「田中さん、この人形、ワイの霊感でも、なんか嫌な感じがしますわ」フェルナンドが言う。
「島田さんは、どう感じますか」田中が聞く。
「わたしも、あまりいい感じはしません」島田は答えた。「この人形、"誰かの身代わり"として、作られたものかもしれません」
「身代わり、というのは」江戸川が聞く。
「病気や災いを、人形に肩代わりさせる、"形代"の一種です。ただ、通常の形代は、役目を終えたら、正式に燃やすなどして処分します。この人形は――処分されずに、そのまま、代々、受け継がれてしまったのかもしれません」
田中は、人形を、丁寧に布で包み直した。
「持ち主のご家族の体調不良――もしかすると、この人形が、"本来の役目"を、まだ、終えられずにいるからかもしれません」




