徳川埋蔵金 車の持ち主
判明翌朝、安藤が古い伝手を使って調べた結果を、一同に報告した。
「あの車、レンタカーだった」安藤は言った。
「借りたのは、東京の投資顧問会社の人間だ。表向きは、な」「表向き、というのは」山田が聞く。
「その会社、登記上は投資顧問だが、実態がよく分からない」安藤は言った。
「元刑事の勘だが、こういう会社は、時々、別の目的のための隠れ蓑になっていることがある」金田一が言った。
「環座衆が、明治以降『学術団体』や『財界』に接触してきたという記録があった。もし、その繋がりが、今は投資顧問会社という形を取っているとすれば――辻褄が合う」「つまり」佐藤が言った。
「環座衆は、今も、姿を変えて存続している、ということか」誰も、すぐには答えなかった。
フェンウィックとの最後の対話その日の午後、フェンウィック本人が、突然、小栗家を訪ねてきた。
「お邪魔して、申し訳ありません」彼は静かに言った。
「ですが、そろそろ、お互いに手の内を明かす時期かと思いまして」一同が緊張しながら、彼を迎え入れた。「石室を、見つけられたようですね」フェンウィックは言った。
「おめでとうございます、と言うべきか、迷うところですが」「あなたは、何を知っている」金田一が単刀直入に聞いた。
フェンウィックは、しばらく考えてから言った。
「環座衆について、私が調べてきたのは、ヨーロッパの一部の秘密結社との、古い接点です。江戸期、日本に来航した外国人の中に、そうした結社の関係者が混じっていたという記録が、ヨーロッパ側にも、断片的に残っています」「つまり、環座衆は、日本だけの組織じゃない、ということか」横溝が言った。「純粋な日本発祥の組織か、あるいは、外部から思想を持ち込まれて形を変えたものか――そこは、私にも断定できません」フェンウィックは言った。
「ただ、一つ確かなのは、この組織が、時代ごとに姿を変えながら、ずっと『何か』を守り続けてきた、ということです」「何を、守っている」山田が聞いた。
フェンウィックは、初めて、少し表情を曇らせた。
「――そこまでは、私も分かりません」彼は言った。「昨日会っていた男から、率直に言えば、これ以上の調査を、やめるように、と忠告されました」「忠告、というのは」
「言葉は丁寧でしたが、意味は明確でした」フェンウィックは言った。
「私の大学の研究資金、そして――同僚の一件を、暗に持ち出されました」
座敷に、重い沈黙が落ちた。
「あなたは、どうするんだ」金田一が聞いた。
フェンウィックは、静かに微笑んだ。
それは、疲れたような、それでいてどこか諦観を含んだ笑みだった。
「私は、帰ります」彼は言った。「これ以上は、私の手に負える話ではないようです。ただ――」
彼は、鞄から一枚の紙を取り出し、テーブルに置いた。
それは、彼自身が持っていた、環座衆に関する断片的なメモだった。
「これだけは、お渡しします。あなた方が、この先も調べ続けるなら――何かの役に立つかもしれません」
彼はそう言って、静かに立ち上がった。
「お会いできて、光栄でした。願わくば、あなた方が、私よりも、賢明な選択をされますように」
彼はそう言い残し、小栗家を後にした。




