蒐集家 「蒐集家の役目」
一
塚の修復は、大工の鏑木俊哉の協力で、二週間ほどで完了した。塚本智子は、正式に、塚の管理を、地域の小さな史跡として、可児市に相談する形で、後世に残すことにした。
「わたし自身は、宮司のような役目は、継げません」塚本智子は、田中軍蔵に言った。「ただ、この塚が、これからも、丁寧に守られるように、できる範囲で、関わり続けたいと思います」
「それで、十分だと思います」田中は答えた。「役目は、必ずしも、一人が全部背負う必要はありません。何人かで、少しずつ、支え合えばいい」
依頼人の女性も、正式に、人形が塚に還ったことを見届け、静かに安堵した様子を見せた。
「田中さん、家族の体調も、少しずつ、落ち着いてきています」依頼人は言った。「本当に、ありがとうございました」
「お力になれて、よかったです」
二
田中は、この一件を、根古親司にも報告することにした。
「根古さん、今回の一件、あなたの一連の経験と、よく似た構造でした」田中は言った。「小さな規模ですが、"送り先を失った厄"が、正しい場所に還れず、留まり続けていた」
「田中さんの仕事は、まさに、そういう、小さな一件を、丁寧に見つけて、正しく処理していくことなんですね」根古が言った。
「はい」田中は答えた。「わたしの仕事は、大きな事件を解決することではありません。ただ、こういう、名前もつかないような、小さな"迷子"を、一つずつ、見つけて、還す手伝いをすることです」
「その仕事、地味だけど、とても大事な仕事だと思います」根古は言った。
田中は、少し照れたように笑った。
「"心霊蒐集"なんて、大層な肩書きですが、実際は、地道な仕事です」
三
その夜、田中の店に、これまで関わった人々が、また集まっていた。江戸川勉、安藤修、工藤俊一、秋月小五郎、島田司、横溝周平、金田一崇、佐藤直樹、堤直樹、ショー・ラッシング、フェルナンド・村田。
「田中さん、今回の一件、記事にしてもいいですか」堤直樹が聞く。
「詳しい個人情報は伏せる、という条件でなら、かまいません」田中は答えた。
「わしも、いつか、この一連の話を、まとめて書いてみたいと思っておる」横溝が、静かに言った。「ただし、それは、もう少し、時間をかけて、丁寧に取材してからにしよう」
「先生、その時は、また、声をかけてください」田中は答えた。
店の隅、静かに置かれた棚には、これまで田中が扱ってきた、様々ないわく付きの品々が、丁寧に並べられていた。それぞれに、まだ、正しい場所を見つけられていないものも、いくつか含まれている。
「これから先も、こういう"迷子"は、きっと、増え続けるんでしょうね」島田が言う。
「増え続けるでしょう」田中は答えた。「ですが、一つずつ、丁寧に向き合っていけば、いつかは、それぞれの場所に、還せると思っています」
田中は、棚の品々を、静かに見つめながら、小さく微笑んだ。
可児の町に、今夜も、静かな夜が訪れていた。
――完――




