徳川埋蔵金 祠が
小栗家??報告
一行が小栗家に戻り、祠で見つけたことを報告すると、小栗惟継の表情が、みるみる強張った。
「祠が……あったんですか」小栗の声が、震えていた。
「知らなかったのか」横溝が聞いた。
「いえ……」小栗は言葉を選ぶように言った。
「実は、祖父の代まで、うちの家では、竹林の奥に絶対に近づくな、と言われていました。理由は聞かされていません。ただ、『あそこには、うちの家の秘密が眠っている』とだけ」
「秘密、というのは」佐藤が聞く。
小栗は、しばらく黙っていた。
「正直に言うと、私自身、今日まで、それが本当にあるものだとは思っていませんでした。ただの言い伝えだと」
金田一が言った。「木像の台座に彫られていた紋様、見覚えはあるか」
小栗は首を振った。「いえ……ただ」
「ただ?」
「祖父の遺品の中に、似たような渦巻きの絵を描いた、古い護符のようなものがありました」小栗は言った。「今も、仏壇の奥にしまってあります」
安藤が身を乗り出した。「見せてもらえますか」
小栗は頷き、奥の部屋から、古びた紙の護符を持ってきた。
渦巻き一つの、簡素な文様??祠の木像と、確かに同じ意匠だった。
「これは、うちの家の――何かの信仰の印なんでしょうか」小栗は不安げに言った。
誰も、すぐには答えられなかった。
深沢老人宅、再訪
夕方、江戸川と山田は、再び深沢老人を訪ねた。
祠のことを話すと、深沢の顔が、初めて明らかに動揺した。
「……見つけたのか、あの祠を」深沢は言った。
「わしも、若い頃に一度だけ、見せてもらったことがある」
「見せてもらった、というのは」
「わしの祖父が、生前、こっそり連れて行ってくれたことがあってな」深沢は言った。
「その時、祖父が言っていた。『これは、山の神ではない。もっと古い、別のものを祀っている』と」
「別のもの、というのは」山田が聞く。
深沢は、しばらく考え込んでから言った。
「この辺りには、御用の荷の話とは別に、もっと古い伝承がある。『土の底に眠るもの』という言い方をする者もいた」
江戸川が眉をひそめた。「土の底に眠るもの……それが、埋蔵金と関係あるんですか」
「わしにも分からん」深沢は言った。「ただ、埋蔵金の話が広まったのは、案外、この古い伝承を隠すための、後付けの話だったんじゃないか、と、わしは思うことがある」
その言葉に、山田の中で、何かが引っかかった。
(――隠すための、後付けの話。前にも、似たようなことを聞いた気がする)
彼は、それ以上を深く考えないようにした。今はまだ、確証のない話だった。
地元の郷土史家、鷲尾誠也の元へ
翌日、一行は御嵩町で長年郷土史を研究しているという、鷲尾誠也(68)を訪ねた。
鷲尾は、地域の神社仏閣や伝承を専門に調べている、地元では知られた人物だった。
祠の写真と木像の紋様を見せると、鷲尾はしばらく黙って見つめていた。
「……これは、私の知る限り、この地域の一般的な信仰の形とは違いますね」鷲尾は慎重に言った。
「渦巻き一つの文様というのは、この地方の神社仏閣には、通常見られないものです」
「では、どこから来たものだと思いますか」金田一が聞いた。
「推測でしかありませんが」鷲尾は言った。
「江戸期、この地域は中山道が通り、様々な行商人や修験者が行き来していました。中には、地方独自の信仰を持ち込んだ者もいたでしょう」
「修験者、ですか」
「あるいは、もっと特殊な――」鷲尾は少し言い淀んだ。
「これは、根拠のない話ですが、幕末には、一部の藩や幕府の中枢で、秘密裏に活動する、特殊な情報・工作組織があったという説があります。そうした組織が、独自の目印や符牒として、こうした紋様を使っていた、という話を、以前どこかで読んだ記憶があります」
一同が顔を見合わせた。
「その組織の名前は、覚えていますか」山田が聞いた。
鷲尾は、記憶を辿るように目を閉じた。
「……確か、『御庭番衆の一派』とだけ、書かれていたと思います。名前までは、覚えていません」
その言葉に、金田一が静かに呟いた。
「御庭番……幕府の隠密か」
座敷の空気が、また一段と、重くなった気がした。




