徳川埋蔵金 御嵩町立図書館
資料室
鷲尾の紹介で、一行は町の図書館にある郷土資料の特別コーナーへ案内された。
司書の女性が、埃をかぶった木箱をいくつか運んでくる。
「この辺りは、戦後に個人から寄贈された古文書が、まだ整理しきれていないものが多いんです」司書は言った。
「鷲尾先生がよく調べにいらしてます」
金田一と江戸川が、木箱の中身を一つずつ確認していく。
安藤と工藤、秋月も手分けして資料を当たった。
一時間ほど経った頃、工藤が声を上げた。
「これ、見てください」
彼が広げたのは、虫食いだらけの和綴じの冊子だった。
表紙には「隠密御用留」と書かれている。
金田一がページをめくった。くずし字で書かれた記述の中に、「御庭番」という文字が繰り返し現れていた。
「これは、幕府隠密の活動記録の写しのようだ」金田一は言った。
「地方に潜伏し、情勢を探る任務についての記述がある」
安藤が別のページを指した。「ここに、『美濃国御嵩宿ニテ、荷改メノ儀』という一文がある」
「荷改め……荷物の検分、ということか」秋月が言った。
江戸川がページを追った。
「御嵩宿は中山道の宿場町だった。ここで、幕府が何らかの荷物を検分していた、ということですね」
金田一が、さらにページをめくった手を止めた。
「これを見てくれ」
そこには、渦巻き一つの紋様が、朱色で描かれていた。
小栗家の護符、祠の木像と、同じ意匠だった。文様の脇に、小さく注記があった。
「――此ノ印アル荷、特別ニ検メ、記録セズシテ処理スベシ」
「印のある荷物は、特別に検分し、記録せずに処理せよ……」佐藤が読み上げた。
「記録しない、というのが、妙だな」
「隠密裏に、何かを運んでいた、ということだ」横溝が言った。
「記録に残さないというのは、幕府の中枢でさえ、秘匿したい内容だったということだろう」
金田一が言った。「この紋様が、荷物の『目印』だったということか。
中身が何であれ、この印がついた荷は、特別な扱いを受けていた」
工藤が言った。
「じゃあ、小栗家の先祖が運んだ『御用の荷』は、この印のついた荷だった、ということですかね」
「その可能性は高い」金田一は言った。
秋月が、腕を組んで言った。
「問題は、その荷の中身が何だったか、だ。金や銀なら、記録しない理由がない。何か、もっと別の――記録に残せない理由がある何かだ」
その時、司書が別の資料を持って戻ってきた。
「すみません、これも関係あるかもしれません」彼女は言った。
「別の寄贈者から預かった資料の中に、似たような紋様が描かれた文書があります」
差し出された文書には、同じ渦巻きの紋様と共に、一つの地名が記されていた。
「――信濃国、諏訪」
金田一の表情が、微かに動いた。「諏訪……」
一同が顔を見合わせた。この話が、御嵩だけの話ではなく、もっと広い範囲に及んでいる可能性が、初めて示された瞬間だった。
「諏訪にも、同じ印を持つ荷があった、ということか」山田が言った。
「つまり――この『御庭番衆の一派』は、複数の場所で、同じ何かを、運んでいた」
図書館の資料室に、しばらくの間、誰も言葉を発しなかった。
窓の外、午後の日差しが、埃っぽい空気の中に、静かに差し込んでいた。




