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徳川埋蔵金 絵図の解読

 蔵から座敷に移り、一同は絵図を広げてテーブルを囲んだ。金田一が、手帖に絵図を書き写しながら、じっと記号を見つめていた。

「この朱色の線は、山の稜線をなぞっているようだ」金田一が言った。「そして、この点――一つ、二つ、三つと、不規則に置かれている」

江戸川が地図アプリを取り出し、御嵩町周辺の地形と照らし合わせた。「この稜線、可児川の支流に沿っているように見えます」

工藤が横から覗き込んだ。「点の位置は、何かの目印になっているんじゃないか。当時の街道とか、寺とか」

「その可能性はある」秋月が言った。「江戸時代の廻船問屋なら、荷を運ぶ際に、目印になる寺社や一里塚を使ったはずだ」

安藤が絵図の隅を指した。「ここに、小さく『三』という数字が書かれている。他の記号にはない」

金田一が目を細めた。「三……三箇所、ということか。それとも――」

「三つの点を結ぶと、何か形になるかもしれません」ラッシングが言った。彼は紙とペンを取り、三つの点をそれぞれ線で結んでみせた。歪んだ三角形が浮かび上がった。

「三角形の中心――ここに何かがある、という意味かもしれない」佐藤が言った。

小栗が、緊張した面持ちで言った。「もし、その中心が分かれば……」

横溝が、少し慎重に言った。「気が早いぞ。この絵図が本物かどうかも、まだ分からない」

金田一は、絵図をもう一度見つめた。「本物かどうかは別として――この記号の付け方は、素人の思いつきじゃない。何か、専門的な測量の知識を持った人間が描いている」

その言葉に、座敷の空気が、わずかに引き締まった。


同日夕方、地元の古老の家

江戸川と山田は、地元で長く郷土史を調べているという老人、深沢誠一郎(82)を訪ねた。深沢は、縁側で茶をすすりながら、二人の話を聞いていた。

「小栗さんの家の話か」深沢は言った。「わしも、子供の頃に聞いたことがある。『御用の荷』の話は、実はうちの村にも、似たような言い伝えがあってな」

「似たような、というのは」山田が身を乗り出した。

「うちの村では、『山の口伝(くちづて)』と呼ばれている話がある」深沢は言った。「幕末、御用の荷を運んだ者たちは、皆、口を封じられた、という話だ」

「口を封じられた、とは」

「殺された、という意味だ」深沢は、静かに、しかし重く言った。「荷を運んだ人足のうち、何人かが、荷を届けた後、行方知れずになったという話が、村に代々伝わっている」

江戸川と山田は、顔を見合わせた。

「なぜ、そんなことに」山田が聞いた。

「荷の中身を知られたくなかったから、というのが、村の言い伝えだ」深沢は言った。「ただの金や銀なら、そこまでする必要はない。もっと別の――誰かに知られてはいけないものだったんじゃないか、と、わしは思っている」

「別のもの、というのは、何だと思いますか」

深沢は、しばらく黙っていた。それから、ゆっくりと言った。

「――それは、わしにも分からん。ただ、一つだけ言えるのは」

彼は湯呑みを置き、二人をまっすぐ見た。

「その荷を運んだ道筋を、今でも辿ろうとする人間が、時々現れるということだ。あんたたちが、初めてじゃない」

江戸川の背筋が、わずかに冷えた。「以前にも、誰か調べに来た人が?」

「十年ほど前だったか」深沢は言った。「東京から来たという学者が、同じような話を聞きに来た。だが、その学者は、調査の途中で、突然帰ってしまった。それきり、二度と姿を見せなかった」

「なぜ、帰ったんですか」

深沢は、静かに首を振った。「わしにも分からん。ただ、帰る前の晩、えらく怯えた顔をしていたのだけは、覚えている」

座敷の外、夕暮れの光が、次第に赤く濃くなっていった。






翌朝、御嵩町役場??資料調べ

江戸川と金田一は、深沢老人の話を踏まえ、役場の郷土資料室を訪れていた。担当の職員に頼み込み、十年前に訪れたという「学者」の記録を探してもらう。

「十年前……」職員がファイルを繰りながら言った。「ああ、これかもしれません。地質調査の申請書が残っています」

差し出された書類には、名前が記されていた??「小此木永周」。

金田一の表情が、わずかに動いた。「小此木……」

「ご存じですか」江戸川が聞く。

「いや」金田一は言った。「聞いたことのある名だ、という気がしただけだ」

(※実際には前作『ストーン・ペデスタル』の地質学者と同姓同名だが、今作は完全に独立した物語として、これは単なる偶然の一致として扱う)

職員は続けた。「申請書には、『地質構造の学術調査』としか書かれていません。ただ……」

「ただ?」

「担当者のメモに、一言だけ、こう書かれています」職員は書類を指した。「『調査は、本人の申し出により中断』と」

江戸川と金田一は、顔を見合わせた。


同じ頃、三角形の中心地点へ

工藤と秋月、佐藤と横溝は、絵図の三角形から割り出した中心地点――御嵩町の外れ、うっそうとした竹林の一角へ向かっていた。

「本当に、こんな場所か」横溝が息を切らしながら言った。

「地図上の計算では、ここのはずです」工藤がGPSアプリを確認しながら言った。

竹林の奥、一段高くなった土の盛り上がりがあった。よく見ると、朽ちかけた小さな祠が、その上に立っていた。

「祠、か」秋月が言った。

佐藤が祠に近づき、扉を開けようとしたが、長年の劣化で固く閉じていた。「開かないな」

工藤が手を貸し、二人がかりで扉を開けると、中には小さな木像が一体、安置されていた。地蔵のような形をしていたが、よく見ると、その台座に、蔵で見た絵図と同じ渦を巻くような紋様??ただし、恵那の磐座の文様とは違う、もっと簡素な、渦巻き一つだけの意匠が刻まれていた。

「これは……」佐藤が呟いた。

横溝が木像をまじまじと見つめた。「地蔵にしては、妙な意匠だな」

秋月が、祠の裏側に回り込んだ。「こっちに、何か彫られている」

一同が覗き込むと、祠の裏の石に、小さく文字が刻まれていた。

「――これより先、進むべからず」

工藤が眉をひそめた。「進むべからず、か。まるで、警告のようだな」

その時、竹林の奥、風もないのに、竹が一斉に音を立てて揺れた。

四人は、思わず身構えた。だが、そこには誰もいなかった。ただ、竹林の奥が、妙に静かになっていることだけが、不気味に感じられた。



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