徳川埋蔵金 諏訪との関連調査
電話取材図書館を出た一行は、その日のうちに手分けをして動いた。
金田一と江戸川は、諏訪の郷土資料館に問い合わせの電話を入れることにした。
「もしもし、東京から失礼します。
諏訪の伝承について、少しお伺いしたいのですが」江戸川が電話口で切り出した。
対応した学芸員は、最初は事務的だったが、「渦巻き一つの紋様」「幕末の隠密の記録」という単語を出した途端、声のトーンが変わった。
「――その紋様について、うちにも、似たような資料の問い合わせが、以前ありました」学芸員は言った。
「以前、というのは」「五、六年前でしょうか。個人で調べている方から、同じような質問を受けたことがあります」学芸員は言った。
「ただ、その方は、途中で連絡が取れなくなりまして」金田一が受話器越しに眉をひそめた。
「連絡が取れなくなった、というのは、どういうことですか」
「はっきりとは分かりません」学芸員は言葉を濁した。
「ただ、当館としても、それ以上の資料提供は控えるように、という話になった経緯がありまして」
「控えるように、というのは、誰かから指示があったということですか」
学芸員は、少し間を置いてから答えた。
「……申し訳ありませんが、これ以上は、お答えできません」
電話は、そこで切られた。
江戸川と金田一は、顔を見合わせた。
「はぐらかされたな」江戸川が言った。
「はぐらかされた、というより」金田一は静かに言った。
「口止めされている、という方が近い」
同じ頃、御嵩町??不審な車
工藤と秋月は、祠へ向かう竹林の入口付近で、聞き込みを続けていた。
地元の農家の老人から話を聞いた帰り道、秋月がふと足を止めた。
「工藤」秋月が低く言った。「あの車、見覚えがあるか」
竹林から少し離れた道路脇に、一台の白いセダンが停まっていた。
中に、サングラスをかけた男が一人、座っているのが見えた。
「いや」工藤は言った。「観光客じゃないですか」
「観光客が、こんな場所に、三十分もエンジンをかけたまま座っているか」秋月は、元刑事の目つきになっていた。「様子を見よう」
二人がさりげなく近づくと、セダンは急にエンジンをかけ、走り去っていった。
ナンバーを確認する間もなかった。
「……追うか」工藤が言った。
「無理だ、もう見えん」秋月は舌打ちした。「だが、確実に、誰かが俺たちを見ていた」
同日夜、小栗家??見張られている気配
夜、小栗家に戻った一行に、小栗惟継が不安げに報告した。
「実は、昨日から、家の周りを、見慣れない人影がうろついているという話を、近所の方から聞きました」小栗は言った。「気のせいだと思っていたんですが……」
横溝が窓の外を見た。「今日も、白いセダンが見えたと聞いた」
「白いセダン、ですか」小栗の顔が青ざめた。
「実は……祖父の代にも、似たような話があったそうです。埋蔵金の噂が立った時期、見慣れない人間が、何度も家の周りをうろついていた、と」
佐藤が言った。「今回も、噂が広まったから、興味を持つ人間が出てきた、ということかもしれない」
「それだけなら、いいんですが」小栗は言った。声が、震えていた。
金田一が静かに言った。
「諏訪でも、同じことがあったようだ。以前調べていた人間が、突然、連絡が取れなくなったという話がある」
座敷に、重い沈黙が落ちた。
秋月が、腕を組みながら低く言った。
「――これは、ただの好奇心で首を突っ込んでいい話じゃないかもしれんな」
だが、誰も、ここで引き返すとは言わなかった。
窓の外、月明かりの下、竹林の方角が、いつもより一層、暗く沈んで見えた。




