映像の値段
視点:鳴海 美佑
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私がYouTubeを始めたのは、お金のためでも承認欲求のためでもない。
見たいからだ。
世の中には、見える人間と見えない人間がいる。同じ場所に立って、同じものを眺めて、見える人間には見えて、見えない人間には見えないものがある。私は子供のころからずっと、見える側だった。それが得なのか損なのか、二十四年生きてまだわからないけれど、少なくとも退屈はしない。
昨日の爆発も、そうだった。
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私が運動公園に行ったのは、偶然だった。正確には、偶然に見える必然だった。
あのエリアに廃車が増え始めたのは約一年前で、管理事務所に問い合わせても「業者が使用中」という曖昧な返答しか返ってこなかった。廃車置き場にしては数が多すぎる。出入りする業者のトラックのナンバーは、調べると登録住所が存在しない会社のものだった。
だから行った。カメラを持って、散歩するふりをして。
そこで二人組の男とすれ違った。カメラを回している。ロケだとすぐわかった。片方が声をかけてきた。
「見てくれてます?」
初めて見た顔だったので「いえ」と答えた。「チャンネル登録お願いします」と言われた。図々しいな、と思ったが嫌いじゃなかった。目が真剣だった。
立ち去りながら、スマホで彼らのチャンネルを検索した。「可児探偵ファイル」。登録者数、二百十七人。
弱小だ。でも、探偵だ。
私の中で、何かが引っかかった。
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爆発したのは、その十分後だった。
音を聞いた瞬間、体より先に手が動いた。スマホを構えてライブ配信を開始した。これは訓練でも反射でもなく、ただの性分だ。見たものは記録する。記録したものは届ける。それが私のやり方だ。
「今、可児市運動公園の駐車場で爆発が起きました。車が燃えています。怪我人がいるかどうかはまだ不明??」
煙が上がっている。人が叫んでいる。私は動かなかった。動く必要がなかった。すべきことは、ここから見ることだった。
混乱の中で、私は二つのことを同時に確認した。
ひとつ。爆発の発生点は隔離エリアの奥、フェンスから最も遠い位置の車両だった。自然発火ならもっとランダムに燃え広がる。起点が一箇所というのは、意図がある。
ふたつ。さっきの二人組、探偵の男たちが、フェンスのすぐそばにいた。カメラを回したまま後退していた。つまり、爆発の瞬間を正面から捉えていた。
私のスマホより、あのカメラの方が価値がある。
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サイレンが聞こえてきたころ、男??安藤、という名前だと後で調べた??が私に気づいた。
「あなた、さっきの……」
「撮れてましたか、最初から」
私は配信を続けながら聞いた。動揺している人間に直球で聞くのが一番早い。
「……全部」
全部。
その一言で充分だった。
「見せてください」
「……後でな」
後で、という言葉を私は信用しない。でもこの場合、急かしても逆効果だとわかった。彼の目は、私を警戒していた。でも拒絶ではなかった。
時間をかければいい、と思った。
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夜、私は自分の部屋でパソコンを開いた。
まず爆発の映像を全部集めた。現場にいた人間がSNSに上げたもの、ニュースが使った素材、そして深夜に匿名アカウントから投稿された切り抜き。
切り抜きを見た瞬間、笑いそうになった。
よく切ってある。爆発の瞬間だけじゃなく、直前の静寂も入れている。音のバランスも整えてある。素人じゃない。
私が上げたわけじゃない。でも誰かが私より先に動いた。
再生数を確認した。夜明け前で八十万。翌朝には全国ニュースになっているだろう。
私はコーヒーを淹れて、もう一度映像を見た。ゆっくりと、コマ送りで。
爆発。炎。煙。人が逃げる。
そして??フレームの端に、一瞬だけ、人影。
止めた。
拡大した。
暗くて顔は見えない。でも歩き方に特徴がある。右足を、ほんの少し、引きずっている。
私はその映像を三十回見た。三十一回目に、メモ帳を開いた。
何かを知っている人間がいる。この街に、あの人影を見て何かを思う人間が必ずいる。
明日、茶店ラクカに行こうと思った。
あの店のマスター、太田さんは、この街で一番いろんなものを見ている人間だと私は思っている。そして彼の店には、この街で一番いろんなものを知っている人間が集まってくる。
根古親司という男も、そのひとりだ。
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翌朝、ラクカに入ると、根古さんはもうカウンターにいた。
太田さんがコーヒーを注いでいる。根古さんはスマホで何かを見ていた。私が隣に座ると、彼はちらりと目を向けた。値踏みするような目だったが、不快ではなかった。
「……あ、昨日のニュースでコメントしてた人だ。根古さん、ですよね」
「そうだが」
「私、鳴海美佑といいます。YouTuberで??」
「知ってる。昨日の切り抜き、お前が上げただろ」
私は一拍置いた。
「……証拠はありますか」
「ない」
「では否定も肯定もしません」
根古さんは少し間を置いてから、また前を向いた。コーヒーを一口飲んだ。
「根古さん、あの映像の本体、どこにあるか知ってます?」
「知らん」
「でも調べようとしてる」
沈黙。
沈黙というのは、語る。否定する人間はすぐ否定する。肯定する人間はすぐ肯定する。黙る人間は、図星を踏まれている。
「……お前、なかなか勘がいいな」
根古さんが言った。褒め言葉として受け取った。
太田さんが私の前にコーヒーを置いた。無言で、でも少し笑っていた。
三人分の沈黙が、カウンターに並んだ。
悪くない朝だった。
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夜、私は再び映像を見た。
人影の歩き方。右足のわずかな引きずり。
私はそれをどこかで見たことがある気がした。でも思い出せなかった。
思い出せないということは、まだ情報が足りないということだ。
足りない情報は、集めればいい。
私はカメラのバッテリーを充電しながら眠った。夢は見なかった。
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*── 第二話 了 ──*




