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「廃墟と生配信と、骨」 第五話

## シーン5


 ドアの向こうに立っていたのは、二十歳の女だった。

 藤原茜。肩までの黒髪、大きい目、麦わら帽子。右手にコンビニの袋を持っている。

 「ロドリゲスさん、来ちゃいました」茜は言った。笑顔だった。

「今日暑いから、アイス買ってきたんですけど、あと麦茶と、冷やし中華の具材と??」

 そこで茜は工藤を見た。

 目が止まった。

 「……誰ですか」

 「工藤です」

 「何しに来たんですか」

 「話を聞きに」

 「ロドリゲスさんに?」

 「そうです」

 茜はロドリゲスを見た。ロドリゲスは小さく咳払いをした。「知り合いじゃない、今日初めて会った」

 「初めて会った人間を家に入れたんですか」茜の声のトーンが少し変わった。

「ロドリゲスさん、それ危なくないですか、相手が何者かわからないのに、もし変な人だったら??」

 「変な人ではないと思う」

 「なんでわかるんですか」

 「目を見ればわかる」

 茜はロドリゲスを見た。ロドリゲスさんが言うなら……という顔をした。それから改めて工藤を見た。

 「あなた、ロドリゲスさんに何を聞きに来たんですか」

 工藤は答えた。「旧三菱機械工場のことです」

 茜の表情が変わった。笑顔が消えた。

「……工場跡って、今朝ニュースでやってたやつですか。遺体が出たっていう」

 「そうです」

 茜はコンビニ袋をテーブルに置き、工藤の正面に座った。麦わら帽子を脱いだ。

 「私、あそこで変な人を見ました」

 工藤は少し前のめりになった。「いつ」

 「三週間くらい前。ロドリゲスさんの動画の撮影についていったとき、工場跡の周りを通ったんです。

そしたら、フェンスの外から中を覗いてる人がいて。こっちに気づいたら、すごい速さで走って逃げた」

 「どんな人物でしたか」

 「男の人。背が高くて、黒い服。顔はよく見えなかった」

 工藤はメモを取った。「ロドリゲスさんは」

 ロドリゲスは茜を見た。茜はロドリゲスを見た。

 「……見た」ロドリゲスは言った。「茜が言った通りの人間だ。私も覚えている」

 「その人物に心当たりは」

 ロドリゲスは答えなかった。

 茜が言った。「ロドリゲスさん」

 「……」

 「教えてあげてください。この人、悪い人じゃないと思う」

 「さっきと言ってることが違う」とロドリゲスは言った。

 「さっきはまだ判断してなかっただけです」茜はきっぱり言った。「今は判断しました」

 工藤は茜を見た。二十歳。まっすぐな目をしている。

 ロドリゲスは天井を仰いだ。長い息を吐いた。

 「……十年前の話をしましょう」

---

 ロドリゲスが話し始めたとき、茜は隣に座って熱心にメモを取っていた。

 工藤が「あなたは関係者じゃないのに」と言うと、茜は顔を上げて言った。

 「ロドリゲスさんのことなんで、関係あります」

 ロドリゲスは何も言わなかった。ただ、耳の先が少し赤くなった。

 工藤は気づいたが、何も言わなかった。

 そういうことに口を挟む習慣が、工藤にはなかった。

---

 三十分後、工藤は外に出た。

 夕暮れが近づいていた。空がオレンジ色に染まり始め、住宅街に影が長く伸びている。

 スマートフォンが鳴った。江戸川からだった。

 「工藤さん、俺の事務所に来れますか。北村さんが、もう少し詳しい話をしてくれるって」

 「わかった。三十分で行く」

 通話を切り、工藤は歩き出した。

 頭の中で、ロドリゲスの言葉を整理する。十年前、あの工場で行われていた取引。

自分が目撃したこと。そして??なぜか、今もそれが続いているような気がするということ。

 確信ではない。ただの気配だ。

 だが工藤の経験上、気配というのは、だいたい当たる。

---

 ロドリゲスの家のリビングでは、茜がアイスを二つ出していた。

 「ガリガリ君とスーパーカップ、どっちがいいですか」

 「……ガリガリ君で」

 「私もそっちがよかった」

 「じゃあ変えるか」

 「いいです。ロドリゲスさんに食べてほしいから」

 ロドリゲスはガリガリ君を受け取りながら、何か言おうとして、やめた。

 窓の外に、夕暮れが広がっていた。

---

*つづく*


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