「廃墟と生配信と、骨」 第二話
山本彩織が現場に着いたのは、通報から二十二分後だった。
黄色いテープが風に揺れている。パトカーが二台、鑑識の車が一台。平圭がテープの内側で記録を取っていた。
「状況は」山本は歩きながら言った。
「白骨化した遺体一体。成人男性と思われます。死後数年以上と鑑識の初見。それと??」平は手帳から目を上げた。
「発見時、YouTubeのライブ配信中だったそうです。
現在、アーカイブの再生回数が十一万を超えています」
山本は一秒、止まった。「……十一万」
「増えてます」
「わかった」
テープをくぐりながら山本は工場棟を見上げた。
夏の空を背景に、廃墟の骨格が黒く浮かんでいる。
その入口脇に、三十二歳くらいの男が腕を組んで壁にもたれていた。目が合った。
男は動かなかった。
山本は足を止めた。「……あなたが発見者ですか」
「同行者です」男は言った。「発見者は彼女の方」
「お名前を」
「工藤。工藤俊一」
「お仕事は」
一瞬の間があった。
「……横浜から来た観光客です」
山本は男の目を見た。男も山本の目を見た。
嘘だ、と山本は思った。
工藤も、バレた、と思った。
沈黙の中、遠くで平が「山本さーん、雨月さん来ました」と声を上げた。
---
雨月雅之が車から降りてきたのを見て、工藤は小さく息を吐いた。
若い。二十八歳、たしかそのはずだ。
背が高く、スーツが妙に様になっている。可児署の警部補。
そして??工藤が横浜で仕事をしていたころ、一度だけ、ある件で名前だけ聞いた男だった。
向こうは知らないはずだ。
雨月は現場を一瞥し、それから工藤を見た。
「あなたが同行者の方ですか」
「そうです」
「職業を教えてもらえますか」
「観光客です」
雨月は三秒、工藤を見た。
「横浜からわざわざ可児に。何を観光していたんですか」
「廃墟です」
「廃墟巡りが趣味で」
「ええ」
「なるほど」
雨月はメモを取りながら、ほとんど表情を変えずに言った。
「では工藤さん、廃墟巡りの観光客の方が、遺体発見現場でこんなに落ち着いているのはなぜでしょうか」
工藤は答えなかった。
雨月も待たなかった。
「後ほど、署でゆっくり話しましょう」
---
工場棟の入口から三十メートル離れた草むらの中で、黒猫が一匹、あくびをした。
前足の下に、何か光るものを踏んでいたが、猫はそれに興味を示さなかった。
---
*つづく*




