表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9年差の同じ別れ  作者: マック アダソン
第2章:彼女(成人期/対面/上京後) —2017年-2025年1月18日
9/16

③ 日常になる(固定される)

通う理由を考えなくなっていた。気づくと、行く曜日と時間が決まっていた。開店して少し経った頃、十一時になる少し前に百貨店に入り、そのまま同じ売り場に向かう。

その時間に行けば、いると分かっていた。売り場に立つと、声をかけられる前に顔を見られることもあった。

「こんにちは」

軽く会釈をされて、そのまま名前を呼ばれることもあった。彼女が対応している最中のときは、その少し後ろで待った。「彼女ですね。少しお待ちください」そう言われて、その場に立つ。待つこと自体が、もう決まった流れの一部になっていた。しばらくすると、手が空いた彼女がこちらに来る。

「お待たせしました」

その一言で、いつもの時間に戻る。毎回、何かを買うわけではなかった。しかし、椅子に座って、鏡の前で話す時間は変わらなかった。口紅を試す日もあれば、何も触らずに終わる日もあった。話す内容も、決まっていなかった。そのまま話して、時間が過ぎていく。彼女がいない日もあった。そのときは、別の美容部員が対応した。同じように椅子に座り、同じように商品を試す。会話も、途切れるわけではなかった。けれど、どこか違っていた。それでも、その時間も通う流れの中に入っていた。次に来るときは、また同じ時間を選んでいた。あるとき、彼女のほうから言われた。

「この日はお休みなので、次はこの時間にいます」

特別な約束ではなかった。けれど、その言葉を覚えていた。その時間に合わせて、また行く。売り場に立つと、何も言わなくても流れが続く。顔を見て、名前を呼ばれて、椅子に座る。話して、少しだけ整って、帰る。それが繰り返される。最初は意識していたはずの行動が、いつの間にか決まった形になっていた。理由はなくなっていた。ただ、その時間に行く。それだけで十分だった。気づいたときには、その繰り返しが、そのまま続いていた。それが、彼女との日常になっていた。そして、その日常は、いつの間にか八年続いていた。

書いて、出して、返されることで前に進んでいた時間とは違って、ここでは、何も進めなくても、そのままでいられる時間が続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ