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第6話 第一便、小さな証明



翌朝の《スカイコーチ》は、朝から「本当にやるの?」で満ちていた。


人は不安になると同じことを何度も聞く。


そして、そのたびに不安そうな顔をする。


つまり今の《スカイコーチ》は、職場全体でずっと同じ顔をしていた。


「本当にやるんですか」


整備台の横で、リリカが言った。


油で黒くなった指を腰布で拭きながら、二頭の飛竜を交互に見る。


飛竜たちも、こちらを見返していた。


一頭は眠そうだ。


もう一頭は機嫌が悪そうだ。


このギルド、朝から全員表情が似ている。


「やる」


ロイドは短く答えた。


「本当に本当に?」


「二回聞いてもやる」


「三回目いきますけど」


「やる」


「ですよねえ……!」


リリカは頭を抱えた。


その横で、別の整備士が鞍の金具を締めながらぼそりと言う。


「大手が三日かける航路を、うちが一日半で回すってなあ……」


「正確には一日と半刻ちょいだ」


ロイドが訂正する。


「細かいですね!」


「細かくないと荷物が死ぬ」


「言い方!」


だが細かくなければ駄目なのは本当だった。


今日の第一便は、ただ飛ぶ便ではない。


小さな証明だ。


この潰れかけのギルドが、ちゃんと結果を出せると見せるための一便。


しかも、見せる相手は荷主だ。


上司ではない。


仲間でもない。


金を払う側だ。


そこを外すと、どれだけ格好いい計画でも全部ただの夢になる。


ロイドは倉庫脇に立てかけた白板を見た。


昨日、急ごしらえで運び込んだものだ。


前のギルドほど立派ではない。


表面は少し傷んでいるし、脚も片方だけ微妙に短い。


置くとわずかにぐらつく。


だが、立っている。


立っていれば十分だ。


白板の前に立つと、やることが見える。


それだけで、現場は少し静かになる。


「ミラ」


「いるわよ」


いつの間にか背後にいたミラが、腕を組んだまま答える。


今日はすでに飛行服だ。


上着の前を留め、髪もきっちり後ろで束ねている。


昨日までの“潰れかけギルド長”の顔ではない。


現場へ出る顔だ。


「荷主は?」


「来てる。倉庫の前で半分疑ってて、半分怒ってる」


「健全だな」


「そう?」


「期待されてない取引先は、怒りもしない」


ミラは一瞬だけ目を細め、それから小さく笑った。


「その考え方、商売人としてはちょっと助かるわ」


「運行管理者は荷主に嫌われる仕事だ。そこは前向きに解釈しないとやってられない」


「今のところかなり変な前向きさね」


それも本当だ。


ロイドは白板に書いた線を、もう一度目でなぞった。


二頭。


三人。


荷は四口。


普通なら、往路で二頭とも詰め込んで飛ばし、現地で待ち、帰りに積み直して戻る。


それがこの世界の“普通”だ。


だから遅い。


荷積みが直列だからだ。


一つ終わるまで、次が始まらない。


待機が生まれる。


待機は腐る。


腐った時間は、組織ごと腐らせる。


ロイドは指で白板を叩いた。


「往路第一便は北港商会の染料樽と薬包箱だけ。帰路の空き時間で海産乾物を拾う。第二便は先に中継塔へ補給箱を回して、戻りで工房向けの真鍮部品を乗せる」


整備士の一人が、顔をしかめる。


「荷を欲張ってないな」


「欲張ってる」


ロイドは即答した。


「欲張り方を変えただけだ」


「変わってるか、それ」


「かなり変わってる。重量じゃなく、待ち時間を削ってる」


リリカが白板に顔を寄せた。


近い。


近すぎて、チョークの粉が鼻につきそうだ。


「えーと……つまり?」


「風待ちの三時間を、荷積みの並列化で吸収する」


「出た、昨日言ってたやつ!」


「出たってなんだ」


「ロイドさんの、さらっと言うくせに後から考えるとだいぶ怖いやつです」


「褒め言葉か」


「半分くらいは」


半分か。


ずいぶん正直でよろしい。


ロイドは白板の別の位置に、小さく補給塔の印を書き足した。


「飛ぶ速さは、翼の力で決まる。だが便の速さは、地上の段取りで決まる」


「それ、好きですね」


ミラが言う。


「事実だからな」


「そういう“俺の言葉ですけど事実でもあるので”みたいな顔、ちょっとずるいわ」


ロイドは返事をしなかった。


かわりに倉庫前へ視線を向ける。


荷主が二人、腕を組んで立っていた。


どちらも露骨に疑っている。


その顔も嫌いじゃない。


疑っている相手ほど、結果が出た時に反応が大きいからだ。


商人とはそういう生き物である。


倉庫前では、荷の積み込みが始まっていた。


樽。


箱。


木枠。


縄。


声。


足音。


木板のきしむ音。


小さなギルドだ。


だから一つ一つの音が近い。


手が届く場所で全部起きている。


その近さは、時に苦しいが、今日は武器になる。


「ギルド長!」


整備士が声を上げる。


「左翼の革具、締め直しました!」


「ありがとう!」


「ありがとうじゃなくて確認しろ!」


ロイドが言うと、ミラが「はいはい」と言って飛竜の脇へ向かった。


返事が軽い。


だが動きは早い。


現場で役に立つ人間の軽口は嫌いじゃない。


役に立たない軽口は嫌いだが。


リリカが横からひそひそ言う。


「ミラさん、緊張してますね」


「してるな」


「顔に出てないふりしてる」


「してるな」


「ロイドさん、そういうの見抜くのだけやたら速いですよね」


「出発前の顔は重要だ」


「恋愛相談みたいに言わないでください」


恋愛相談よりよほど切実だと思う。


飛竜便の出発前は、人の腹の底が一番出る。


怖い者。


浮つく者。


怒る者。


妙に静かになる者。


それを見て配置を変えることだってある。


空に上がる前の人間を読むのも、地上の仕事だ。


ミラが戻ってくる。


「問題なし」


「顔は問題ありだ」


「うるさいわね」


「緊張してる」


「してるわよ」


あっさり認めた。


そこはいい。


ミラは飛竜の首筋を軽く叩く。


飛竜は鼻を鳴らした。


「でも、乗るのは私しかいない」


「それも知ってる」


「だったら、今さら優しくしないで」


「してない。事実確認だ」


「ほんとに可愛げないわね、あなた」


ロイドは白板に向き直った。


可愛げで便は飛ばない。


飛んだら少し見てみたいが。


「発進順確認!」


ロイドが声を上げると、倉庫前の空気が一段締まった。


声は大きくない。


だが届く。


届く声というのは、大きさとは別にある。


「第一便、ミラ。荷は染料樽二、薬包箱四。北港商会直行。荷下ろし七分以内。遅れたら帰路の乾物流し込みが死ぬ」


「七分ね」


「六分半でやれ」


「増えた!」


「理想を言った」


「急に嫌な上司みたいなこと言うのやめて」


「元から管理職だ」


「そこだけはすごく納得する!」


周囲に小さな笑いが走る。


いい。


緊張は少し笑わせたほうが動きがよくなる。


ロイドは続ける。


「第二便準備は同時進行。リリカ、帰路荷の木札を今のうちに並べ替えろ。乾物、真鍮、補給箱の順だ」


「えっ、まだ来てない荷の札もですか?」


「来た瞬間積むためだ」


「待ってる間にやれってことですね」


「そうだ」


「うわ、本当に待ち時間を嫌ってる」


「好きな人間は少ないと思うが」


「でもここまで嫌う人も少ないです!」


その通りだろう。


ロイドはそれを否定しない。


待ち時間は組織の敵だ。


人を鈍らせる。


焦らせる。


そして無駄な気の緩みを生む。


現場は忙しいほうが、案外まっすぐ働く。


荷主の一人が、ついに声を上げた。


「本当に今日中に戻るんだろうな」


北港商会の男だ。


商人らしい、信用より損得を先に量る顔をしている。


その顔は嫌いじゃない。


むしろ話が早い。


「戻る」


ロイドは言った。


「予定より三時間早く」


商人の眉が上がる。


「大きく出たな」


「小さく出る意味がない」


「失敗したら?」


「次から頼まれないだけだ」


「やけにさっぱりしてるな」


「商売はそういうものだ」


商人は少しだけ黙り、それから鼻で笑った。


完全に信じたわけではない。


だが、少しは面白がった顔だ。


それで十分だ。


最初の顧客に必要なのは、信仰ではなく興味である。


「ミラ!」


「ええ!」


ミラが鞍に足をかける。


するりと乗った。


無駄がない。


飛ぶ者の動きだ。


ロイドには絶対にできない。


できないが、それでいい。


役割が違う。


「北港着後、荷受け係がもたついたら?」


ミラが上から聞く。


「薬包箱を先に落とせ。染料樽は転がる」


「商人が怒るわよ」


「薬屋のほうがもっと怒る」


「違いないわね!」


いい返しだ。


周囲がまた少し笑う。


飛竜が翼をひらいた。


風が起きる。


板壁が鳴る。


白板が少し揺れた。


片脚が短いせいで、ぶるっと震える。


リリカが慌てて押さえた。


「この白板も今日が勝負どころですね!」


「落ちるなよ」


「白板に言ってます!?」


「半分はお前だ」


「半分だけでもひどい!」


飛竜が吼える。


朝の空気が震える。


倉庫上がりの本部なんて、一発で吹き飛びそうな音だ。


だが飛ぶ。


それでも飛ぶ。


そこが翼のすごいところで、怖いところでもある。


「行ってくる!」


ミラが叫ぶ。


「行け」


ロイドは短く返す。


飛竜が地を蹴った。


砂が舞う。


荷縄が鳴る。


巨大な翼が二度、三度と空を叩き、そのまま北へ上がった。


荷主たちが目を細める。


整備士たちが空を見上げる。


リリカは白板を押さえたまま口を開けている。


だいたい全員、少し同じ顔だ。


行ってしまった、という顔。


残された人間の顔だ。


だが、残された側にも仕事はある。


むしろ地上の人間は、そこからが本番だ。


「次!」


ロイドの声で、全員がはっとする。


「止まるな。第二便準備、前倒し」


「えっ、もうですか!?」


リリカが白板から顔を上げた。


「もうだ。北港で七分を守るには、こっちが止まる時間がない」


「人使い荒い!」


「効率がいいと言え」


「言い換えで丸め込まれませんからね!」


だが動く。


文句を言いながら、ちゃんと動く。


それが今の《スカイコーチ》のいいところだった。


第二便用の補給箱が引っ張り出される。


帰路荷の木札が並べ替えられる。


荷車が奥から回される。


少人数の職場なのに、動き出すと音が増える。


少ない人数が本気で動く音は、案外にぎやかだ。


ロイドは白板の前で、懐から小さな金属時計を出した。


秒針はない。


だが目安にはなる。


この世界の時間は雑でも、


現場では雑にしないほうがいい。


「ロイドさん」


リリカが木札を抱えたまま言う。


「本当に三時間早く戻るんですか」


「戻る」


「なんでそんな言い切れるんです」


「帰路荷を現地で探さないからだ」


「……あ」


リリカの目が丸くなる。


「先に札を並べたの、それですか」


「そうだ。現地で悩ませない」


「悩む時間を消す……」


「悩みは机で済ませろ。現場は手を動かす場所だ」


「うわ、出た」


「だからなんだその反応は」


「ロイドさんの言葉って、たまに妙にかっこいいのに、同時にちょっと怖いんですよ!」


「複雑な感想だな」


「現場の総意かもしれません!」


総意か。


それはそれで困る気もする。


時間は進む。


十分。


二十分。


三十分。


地上の作業は止まらない。


荷主は腕を組んで待っている。


整備士は革具を拭き直す。


リリカは木札を一度落とし、全員に見られて顔を真っ赤にした。


「ち、違うんです! これは戦略的に落としました!」


「木札にそういう戦略はいらない」


「ロイドさん、容赦ない!」


「今さらだな」


だが、そのやり取りのおかげで少し場が和んだのも事実だ。


緊張と作業は、ずっと同居できない。


どこかで少し抜く必要がある。


ロイドは時計を見る。


そろそろだ。


視線を空へ向ける。


北の方角。


朝の薄雲の切れ目。


風向きは悪くない。


いや、風だけではない。


積み下ろし七分半としても、もう見える頃だ。


リリカが気づく。


「え」


「どうした」


「ロイドさん、今、空見ました?」


「見た」


「なんか……帰ってくるって顔してます」


「帰ってくるからな」


「その自信こわい!」


その時だった。


見張りに立っていた整備士が、突然叫ぶ。


「見えた!」


全員が一斉に顔を上げる。


北の空。


豆粒みたいな影。


それが少しずつ大きくなる。


翼だ。


帰ってくる。


しかも速い。


荷主たちの顔色が変わる。


疑いの色が、目に見えて薄くなっていく。


飛竜は低く弧を描いて本部前へ降下した。


風が巻く。


砂が走る。


板壁が鳴る。


飛竜が着地した瞬間、ミラが叫ぶ。


「次、積んで!」


帰還の挨拶もない。


いい。


そういうのは後だ。


今は時間を食う。


リリカたちが一気に動く。


乾物!


真鍮!


補給箱!


木札順に荷が滑り込む。


さっき並べた通りだ。


悩む時間がない。


だから手が速い。


荷主の一人が呆然と呟く。


「もう帰ったのか……?」


ロイドは答えない。


そのかわり、金属時計を閉じた。


予定より二刻早い。


上々だ。


ミラが鞍の上から叫ぶ。


「北港、荷受けがもたついた!」


「想定内だ!」


「薬包箱から落とした!」


「それでいい!」


「でも商人に睨まれた!」


「どうせ帰りに笑う!」


「それもそうね!」


やり取りの間にも、荷は積まれる。


飛竜が鼻を鳴らす。


待たされるのが嫌なのだろう。


その気持ちはわかる。


ロイドも待つのは嫌いだ。


「出せ!」


第二走だ。


再び翼が上がる。


今度は軽い。


迷いも少ない。


本部前の風だけが、行ってしまう者の形を残した。


しばらく、誰も喋らなかった。


地上に残る音は、余韻だけだ。


やがてリリカが、ぽかんとしたまま言う。


「今の……すごく仕事してる感じでした」


「仕事だ」


「いや、そうなんですけど!」


「他に何に見えた」


「なんかこう……いつもの積み込みじゃなくて、作戦でした」


その言葉に、ロイドは少しだけ頷いた。


「そうだ。作戦にした」


リリカは白板と空を交互に見た。


整備士たちも、さっきまでとは少し違う顔で白板を見ている。


ただの板ではない。


今さっき、目の前で結果につながった。


それを人は一度見ると、同じ目では見られなくなる。


それでいい。


小さな勝利は、数字だけでなく、現場の視線も変える。


昼を回る頃には、帰路第二走まで無事終わった。


荷主は完全に黙った。


黙る種類が、さっきまでとは違う。


疑って黙るのではなく、計算し始めて黙る顔だ。


商人にとっていちばんいい沈黙である。


北港商会の男が、最後に帳簿控えを受け取りながら言った。


「次も頼めるか」


ミラの顔が、そこで初めて揺れた。


ほんの少しだけ。


だが、たしかに揺れた。


経営者の顔ではなく、現場で結果を返された者の顔だ。


「……ありがとうございます」


声が少しだけ掠れている。


それでもちゃんと届いた。


荷主は頷き、控えを懐へしまう。


それだけでいい。


大げさな賞賛はいらない。


次も頼む。


商売の世界で、その一言がいちばん重い。


ミラが飛竜から降りる。


地面に足をついた瞬間、少しだけ膝が揺れた。


疲れだろう。


だが顔は笑っていた。


抑えきれていない。


隠す気も半分くらいない。


「ロイド」


「なんだ」


「三時間早着って、どうやったの?」


ロイドは白板の端を指で叩いた。


「風待ちの三時間を、荷積みの並列化で吸収した」


「ほんとにそれだけ?」


「それだけだ」


「そんな簡単に言う……?」


「簡単じゃない。準備が面倒だ」


「そこは素直なのね」


「面倒な準備をして、現場を楽にする。それが地上の仕事だ」


ミラは少し黙った。


それから、ふっと笑う。


「……悔しいけど、格好いいわね」


「悔しいのか」


「悔しいわよ。空を飛んだのは私なのに、いちばん先に景色を見てるのはあなたなんだから」


その言い方は嫌いじゃなかった。


だが、そこで感傷に寄るとこの回の役割がぶれる。


だからロイドは平然と言った。


「まだ第一便だ」


「そうね」


ミラは頷く。


ちゃんと切り替える顔だった。


いい。


それでいい。


その時、倉庫の陰からリリカが走ってきた。


息を切らしている。


表情は半分興奮、半分警戒だ。


「ロイドさん!」


「なんだ」


「港の通りに、《ウィングメイル》の人がいます」


その一言で、場の空気が少しだけ変わった。


喜びが、ぴたりと止まるほどではない。


だが、背中に冷たいものが一枚貼りつくくらいには変わる。


ミラが眉を寄せる。


「誰」


「わかりません。制服の色だけ見えた。たぶん斥候です」


ロイドは驚かなかった。


むしろ、来たかと思っただけだ。


荷主の一人が、気まずそうに目をそらす。


整備士たちも、小さく顔を見合わせる。


成功は目立つ。


目立てば、大手は嗅ぎつける。


それだけのことだ。


リリカが不安そうに聞く。


「どうします?」


ロイドは港の通りのほうへ視線を向けた。


見えない。


だが、いるのだろう。


旧ギルドの色。


見慣れた制服。


見慣れた気配。


それがここまで来た。


計画通りだ。


「――予定通りだ」


そう言うと、リリカがぴたりと止まる。


「はい?」


「見に来るのは当然だ。見せたいものを見せた」


「え、ちょっと待ってください。見せたかったんですか?」


「もちろんだ」


「こっわ!」


「今日そればっかりだな」


「だって毎回ちゃんと怖いんですもん!」


その反応に、整備士の一人が吹き出した。


ミラも呆れたように笑う。


さっきまでの緊張が、別の種類に変わっていた。


喜びだけでは終わらない。


成功したからこそ、次の敵がこちらを見る。


それもまた、上に行く時の正しい景色だ。


ロイドは白板へ向き直る。


第一便の線を、指で静かになぞった。


小さい。


本当に小さい勝利だ。


けれど確かに勝った。


数字で。


時間で。


荷主の表情で。


それだけあれば、次へ行ける。


白板の片脚がまた少し揺れた。


リリカが慌てて押さえる。


「これ、やっぱり固定したほうがいいですね!」


「明日やれ」


「今日じゃないんですか!?」


「今日はもっと揺れるものが来る」


「うわあ、嫌な予告!」


そう言いながらも、リリカの顔は少し笑っていた。


さっきまでの“本当にやるの?”の顔ではない。


“やれたんだ”の顔だ。


その差は大きい。


たぶん、思っているよりずっと。


港のほうから、風が吹いた。


潮の匂いに混じって、遠くの革具の匂いがした気がする。


旧ギルドの視線は、もうこちらへ向いている。


なら次は、その視線ごと使うだけだ。

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