薪七本目
「それで、この間の話はいかがなさいますか」
先日幽井に企画を勧めたスタッフが、同じ作品での打ち合わせ後に話しかけてきた。原作者である小説家も同席している。彼にもこの話を持ち掛けたのだろう。
「ほら、あの俳優さんは? 話してたでしょう。あ、倉戸先生はもうアマチュア選びはいかほど?」
スタッフはぺらぺらと二人に質問した。会議室にはもう彼らしかおらず、その声が部屋中に響く。対して倉戸と呼ばれた小説家は、どこまでも穏やかに微笑んで、少し困った様子で答えた。
「参加させていただいたのはありがたいんですけど、まだ決めていなくて……」
「誰か目星とかは? 今どきはSNSでも逸材を発掘できるんですよ」
「インターネットってことでしょうか? すみません、僕、なにぶんアナログなもんで」
「あ、でもネットで探すとしたら、信頼できる方にしてくださいね! もちろん、幽井先生も!」
「はあ……」
草太にこの話を仄めかした程度で、まだはっきりとは話していない。そして、余計話しづらくなった。もし彼が仕事で燭と接触して、幽井との実力差を知るようなことがあれば、必ず言うだろう。「センセイよりも燭朱里がいい」と。
「友達だから」といったコネを嫌うなら、逆も然り。「友達だとしても」、より良い条件があればそっちへ行く。彼はそういう男だ。
幽井が一人で唸っていると、倉戸が口を開いた。
「そういえば、その企画に燭さんもいるって小耳に挟んだのですが、それって本当ですか?」
「よくぞ!」
スタッフは嬉々として、燭につて話す。ああ、また今日もこの名前を。
「燭先生も快く、承諾してくれましたよ。それでついさっき、推薦するアマチュアも決めたようです。『いい役者がいる』らしくて」
役者。
……俳優。もしかして。
草太がオーディションに受かってから一週間経っていた。そして今日彼はそちらで仕事をしている。まさか、草太が?
「その人の名前とか、聞きませんでしたか」
「え? いや……。お互い仕事があるから電話でしか話せなかったので、そこまでは」
「そうですよね……すみません」
黒い感情がまた、腹の底から渦巻いていった。炎のようにそれは幽井の体温を上げ、彼を支配していった。
あれほど応援していた旧友なのに。




