薪四本目
打ち合わせ後、幽井と草太は居酒屋で落ち合った。二人ともたまたま付近で用事があったのだ。幽井は仕事、草太はオーディション。まだ夕暮れ時だが、金曜なので酒を呷る。そういった魂胆の人は彼らだけではなかったようで、既に大勢の客がいた。
「まあ、華金だからね」
「センセイ、それほぼ死語だよ」
草太がジョッキを片手に笑った。もっとも、休日だろうが休みという概念は無いに等しい。創作も夢追いも。
死語、か。幽井はそれを脳に留めておいた。脚本であれ小説であれ、話を創る人間はそういった時代の変化にも敏感でなくてはならない。リアルそのものではなく、リアリティがより重要だというのが彼の考えだった。
令和元年。形式的に生まれた新しさのように感じていたが、確実に過去は置きざりにされつつあるのだと身に沁みた。そうか、死語なのか。自分もいずれ古い人間となるのだろう。
そんな感傷に半ば浸りながら、箸で梅水晶を摘まみ口に放り込んだ。咀嚼しつつ、今日勧められた企画について考える。プロ作家がアマチュアを一人選び、アンソロジーをつくる……。仮に燭も参加するのだとしたら。
一体誰を連れてくるのだろう。
彼女が認めた、しかもデビュー前の人物。アマチュアを侮っているわけではないが、想像がつかなかった。
「……草太さ、もしもの話なんだけど」
「うん、何?」
「プロたちと仕事できるとしたら、どうする?」
ぱちくりと元々丸い目をさらに丸くさせ、幽井を見る。ビールの炭酸が小さく浮いては弾けを繰り返していた。
「お金は出る?」
「もちろん」
「デビューはできるの?」
「うーん、必ずではない」
静かな静寂が流れていく。周りの喧騒から切り取られ、数秒が経過した。その静寂を破るかのように、草太は小さく笑った。
「内容によるかな。できそうだったらやる」
「……まあ、そりゃそうだよな」
小さくため息をついたあと、幽井はジョッキを傾ける。そして思い出したかのように、「あとさ、」と草太がスマートフォンを弄りながら続けた。
「プロが誰にもよるよね、贅沢だけど。やっぱり有名な人がいいよ。センセイとか、」
――燭朱里とかさ。




